第15話
「そう言えばさ、魔獣退治のとき、ヒュアートの故郷のこと聞こうとしたよね?」
客の来ない静かな時間がしばらく流れた後だった。ルヴィがそんなことを尋ねてくる。
確かに言いかけていた。そのタイミングで魔獣が現れたため、話しは流れていた。
「それ、今聞いてもいい?」
「何も話せるようなことはありませんよ」
「そんなこと言わないでさ」
拒絶を感じたのか、詰め寄ってきた表情を緩める。
「じゃあ、先にあたしの話をしようか。剣を借りるとき、貸してくれた上で働かせてくれたら、魔剣を使う自信があったかを話す約束したよね」
それは、『自分に合っていた』という抽象的な表現を避けるためにはぐらかしたのだと思ったが……ルヴィの出方を伺う。
「答えがあるのであれば」
そう言うと、少しひるんだように息を飲み、
「またそんな言い方をする」
「根拠のない自信があった、というようなことを言っていたと思いますので、もし違う答えがあれば聞きたいですね」
するとやはり図星だったのか、
「辛らつ……」
「思ったことを言ってるだけですが、何かあるんです?」
さらに言葉を続けると、静かに首を振った。
「いや、ごめん。ヒュアートの言う通りだから何もないよ……ごめん」
謝罪の言葉が口癖にでもなっているのか。謝る必要はない、と思う。この店に居着くことになったのが、自身が強引に押し切った結果であり、そこに罪悪感を抱えての言葉だろうか。
だったら最初からするなとは思うが、本人も同じように思っているからこそ、積極的に距離を縮めようとしているのか……ただ、ルヴィが聞きたいことはきっと、
「私の過去を知ることで、魔剣の知識を得られるかもしれないと思いましたか?」
そんなところだろう。
「え? いや、そんなつもりは……」
またちょっと口をつぐむ。違ったか?
「なんか気分を害したのならごめん、本当に、そこまでの考えはなかったから」
「……別に謝る必要はありませんが」
単純に静かな空間が続いていたから話をしようと口を開いただけか。話題を探した上で、見つかったのがそれだったと。
「じゃ、じゃあ、あたしの昔の話をしようかな」
ルヴィは仕切りなおすように言った。しかしそれは、強がるような言い方でもあった。その瞳には少し揺らぎがある。
ルヴィの過去――初見で魔剣を使いこなし、魔獣を見分けることができたという。それは特別な環境で育った可能性があると想像はできるが――。
別に、沈黙の時間をあえて取り除く必要はない。
「無理に話す必要はありませんよ」
すると、ふっと表情が緩み、
「ありがと、優しいね」
また的外れなことを言う。
「ずいぶん皮肉な言葉を使いますね」
そう返すと、今度はキッと表情を硬め、
「なんでそうなるの? 違うよ。あたし本気でそう思ってるよ。ここに置いてくれてることもそうだし、なんかひねくれてるなとは思うけど、でも、なんていうか……」
「無理に持ち上げようとする必要はありません」
「そんな、あたしは本当に」
本当にそう思っているんだろうと感じてしまうことが、どこか居心地悪い。
「買い被りです。私は自分のしたいようにしているだけです。あなたのことも、あなたのためではなく、私がそうしたいだけです」
「……でもあたしが無理矢理押し通したことだし……」
それまでの勢いがなくなり、また瞳を揺らした。さっきから表情がせわしない。別に落ち込む必要も謝る必要もない。
じっと、その少女を正面に見据えた。
不思議そうに見返してくる。その顔に向かって、
「見た目がね、好みなんですよ」
「へ?」
ルヴィは目を真ん丸にして固まった。
「は、冗談ですよ」
すぅっと、ルヴィの緊張が解けていくのが分かった。そうしていた方がいい。
だけどすぐに表情を落とし、そしてまたこちらを見て、
「あのね、あたしは孤児で、拾ってくれた人のもとで育ってきたの」
ルヴィは小さな声で話し出した。
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