第14話

「では、売り子でもやってもらえますか?」


 魔獣退治から戻り一晩明けた朝、店に居つくことになったルヴィへ言った。

 それ以外やれることはない。


「剣は返してもらいましたし、一週間も働いてもらえば十分な対価になります」


 特例で貸しはしたが、もう剣は返してもらった。短い貸出期間の金額を計算した上での仕事量だった。しかし、ルヴィは、


「もっと働くよ。昨日も言ったけど、あたしは住む場所が欲しいんだもん。しばらくここにいさせてもらうためにも、ちゃんとやらないと。別にお金もいらないし」


 欲がない、と言えなくもないが、適切な言葉でもないのだろう。


「それとさ、やっぱり敬語やめようよ? もうお客さんじゃないんだし、他人行儀だよ? それに、なんかちょっと冷たく聞こえるんだよね。ヒュアートの敬語って」


 冷やかすように見上げてくる。


「感じ方は人それぞれですから」

「あはは、ごめんね。冗談だよ」


 一転、表情を崩して笑う。人の調子をとるのがうまい。この辺は地の性格だろう

か。


「別に謝る必要はありませんが、どちらにせよこういう喋り方のほうが慣れていますので、やめろと言われても難しいですね」

「そっか、しょうがないのか……でもちょっとずつ、崩していけたらいいね」


 ルヴィは苦笑して息をつき、仕事に入った。

 とはいえ、売り子の仕事なんて客に誓約書を書かせて剣を渡すだけだ。加えてこの店で扱っているのは魔剣五本のみ。客は一日に両手で数えられるレベルだ。


 今日もいつも通り、客が来ることもなく時間だけが流れていく。一人で忙しくなることもなかったことが、二人いるとことさら暇を持て余す。


 二人でカウンター内の椅子に座り静寂を過ごす中、ルヴィがその空間に絶えられなかったのか、口を開いた。


「ねぇ、ヒュアートっていつからこういうことやってるの?」

「ここに来てからは三か月くらいですね」

「へぇ、『ここに来てから』ってことは、他の場所でもやってたってこと?」

「そうですね」

「じゃあ、一番最初はいつだったの?」

「……もう覚えていませんね」

「ふぅん、じゃあずっと同じところでやらなかったのは、なんでだったの?」

「ただの気分転換ですよ」

「そっか……でも、魔剣なんどうやって手に入れたの? 自分でつくったりするの?」


 ルヴィの口調がフッと硬くなったのが分かる。

 さりげなく、それでも核心を突こうとする。


「それが知りたいわけですね」


「……そうだね。昨日言った通り、あたしは魔剣を知りたいの」

「まぁ、教えてもいいですよ。あなたの過去を話してくれるなら」


 興味のあることはいくつかある。魔力に関する感性、それがどうやって磨かれたのか。


「……あたしが話さないだろうって高をくくってるの?」

「自意識過剰ですよ。質問を答える代わりに、それ相応の見返りをもらおうとしただけです」

「いじわるだ」


 ルヴィは少しいじけてそっぽを向いたものの、懲りずに視線を向けてくる。


「あたしは、もうこの店の人間なんだし」

「臨時が抜けていますね」

「で、でも、今は全部で五本だけど、増やしたりはしないの?」


 また話を戻したな。


「需要がありませんし、貸したものを把握するための手間も費用もかさみますので」

「値段を下げれば、もっと需要が増えるとか」

「今が適正な値段だと思っています」

「なんで?」


 じっと目を覗いてくる。体の接近に、ずっと感じ続けている不可解な何かの感覚が増す。


「ねぇ、なんで?」


 その目を見返しても、その正体が何であるのかはやはり分からない


「そうですね。まぁ別に隠すことでもありませんので」

「うん」

「借りる人間の欲を抑えるためです。魔剣は危険なものですから、それを枷にしているわけですよ。保障費や延滞金もその一つです」


「そう、なんだ。なるほどねぇ……」


 分かったのか分からないのか、ルヴィは眉間にしわを寄せ、首をかしげたまま頷いた。

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