第12話

 その後、住人が避難している都合で現在は空き家となっているという木造の空き家も案内された。町人はまだ何か尽くしたいように指示を待っていたが、気にする必要はないと帰させた。


 ルヴィと二人きりの空間。くつろぐように部屋の床敷かれた藁へ腰を下ろしたが、ルヴィは気まずそうな表情で立ったまま、


「あたしがこの町と関わりが無いって、なんで分かったの?」


 静かに声を落とした。


「事実ということで良いですか?」

「意地悪な言い方するね……」

「『退治の報告をする必要はない』というのは不自然でしょう」


 ルヴィは「ふぅ」と小さくため息をつく。


「まぁ、そりゃあそうだよね。ごめんなさい」

「……別に些細なことですが」

「ありがとう」


 町に着いたとき、そわそわしていたのは町の住人と顔を合わせたくなかったからなのだろう。この規模の小さな町で、顔を知らない相手がいるというのは少し不自然だ。知った町だとふるまっていた以上、誰かに会って、知られていないことがばれるのは避けたかったはずだ。


 しかしそうであるなら、この町に獣が出たことをどこで知ったのか。少なくとも、あの街のギルドで依頼は出ていなかったと思う。だとすれば、ルヴィが店に来た目的は、『獣退治』ではなく『魔剣を借りること』だった? 別の町で魔剣の噂を聞いたと言っていた。


 それを推し量るための言葉を考える。


「そうまでして剣を借りたかった理由は何です?」


 ルヴィは静かに腰を下ろし、少し逡巡するようにしてから答えた。


「魔剣の噂を聞いてあの街のギルドに行ったとき、たまたま、新しい獣退治の申請しているところを横目で見て、話を聞いていて……。公開されてる獣退治に参加することも考えたんだけど、前のギルドで、『子供だから』『体の小さい女だから』って断られたことがあったから……」

「だから、一般へ公開される前に、魔剣を借りてここに来て退治する必要があったと」


 視線を落としたまま、小さく頷く。


「現れた獣が魔獣だという情報も、そのときに得たのですか?」


「うん……」

 か細い声とともに再び頷く。自分が盗み聞きのような行為をしたこと、こちらに情報を隠していたこと、罪悪感があるのか。


「ではなぜ獣退治を? 他にもお金を稼ぐ方法はあります、もちろん金額面で言えば獣退治は単価が高いでしょうが」


 前のギルドで断られたという理由も不自然ではない。俺の少女への第一印象も、同じそれだった。


「獣退治が、一番、認めてもらえるから」


 意図がよく分からなかった。


「認めてもらえる?」


 獣退治の金額が高いのは、危険度も相応に高く、その対価となっているからだ。そういった立場としての意味合いだろうか。


 そう考えていたが、ルヴィは慌ててその真意を隠すように早口で続けた。


「それに、魔剣を貸してもらっときすごくしっくり来たの。なんかうまく言えないけど、あたしに――合ってる。魔獣も見分けるのが難しいって聞いてたけど、ちゃんと違いが分かった」


 また引っかかる発言をする。


「今日初めて見て、分かったと?」


「うん」


 さっきとはうって変わった、自信の見える頷き。


 まっすぐな意志を持っていそうな釣り目。大きなブラウンの目。その目を覗く。

 初めて会ったとき、言葉では表せない何か変わった雰囲気を感じた。今もそれは変わらない。その理由が、そこにあるのだろうか。


「何か特別な力を持っているですか? あなたは?」


 店で魔剣の扱いに「自信があったのか」と聞いたとき、思わせぶりな言葉で真意を隠した。それが『あたしに合ってる』を感じたからだろうか。しかしそれを具体的な言葉にはできず、こちらを説得するために『店で働かせてくれたら』なんて提案で押し切ろうとした……?


「ヒュアートはそう思ってくれるの?」


 ルヴィがこちらの目を覗き返す。こちらの心を引き込もうとしている。必死さが垣間見える。


『認められたい』


 その欲求は、ここでも体現されているのかもしれない。


「少なくとも、本当に魔剣を扱ったことがなく、魔獣も見たことがなく、その状態で今日のこの結果を導いたとなれば、間違いなく特別でしょうね」


 それは紛れもない事実だ。

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