第11話

 だが見事なのは事実だった。完璧に魔力を使いこなしていた。一振り目こそ力みが出たのか外してしまったが、すぐに修正し、無駄な動きもなく、的確に魔力を発動させた。


 魔剣は一般に流通しているものではなく、ごく一部の限られた人間しか存在を知らない。そのため、当然ながら魔獣は魔剣でなければ倒せないということもない。困難や苦杯があっても、獣退治は普通の剣を含め、一般的な武具で行うのが普通であり、そこに疑問を持つものはいない。魔剣を使いこなせれば、対応できる幅が広がるため、単に退治の難易度が下がるというだけだ。


 そんな背景がありながらも、目の前のルヴィは、魔剣の使い方を熟知しているとしか考えられない立ち振る舞いを見せた。本当に、使ったことはないのか。


「それじゃ、帰ろうか」


 ルヴィはせかすように声を上げた。すでに魔剣を鞘に納め、歩き出そうとしている。


「町の人に報告しなくていいのですか?」

「うん。こんな真夜中だし、また今度にする。もう今まで来ていた獣は来ないんだしね」


 不自然なセリフだ。わざわざ条件を付けてまで魔剣を借りたのは、獣に怯える町の人々を助けるためだと言った。であるなら、退治したことは真っ先に伝えるべきだ。そうしなければ人々の不安は解消されない。


 つまり、それが意味するところは――、


「あなたは、この町との関係はないということですか?」


 そう聞くと、ルヴィは目を丸くさせて、「え――」と声を詰まらせた。


「な、何言ってるの? あたしはこの町の――」


 そんなとき、ドタドタと、慌てた様子の足音が近づいてきた。


「ギ、ギルドの方ですか?」

「あ……え?」


 この町の住人のようだった。夜中ではあったが、今の騒ぎで目を覚ましたのか、あるいは獣が来るのを見張っていたのか。なんにしても、ルヴィは町人の登場に動揺を隠せないようで、目線が泳いでいた。


「見ていました。ありがとうございました。獣を退治してくれたのですね。まさかこんなに早く対応していただけるなんて。なんとお礼を申し上げればよいか」


 ルヴィの様子をよそに、町人は何度も頭を下げ、昂ぶった心を抑えきれないようだった。お礼に食糧やらなんやらを用意すると、息をするのも忘れたような早口で続けた。


 終始気まずそうに俯いていたルヴィは、早く町を出たいのか、提案されたすべての礼に首を振り、遠慮し続けた。こちらとしても、荒らされた町からの礼を期待するわけにもいかず、同意する。


 そうしたこちらの対応に、町人が恐縮しきりだったこともあり、休憩する場所が欲しいとだけ頼んだ。もう夜中の深い時間、このまま山道を下って帰るのも、陽が昇ってからでも遅くはない。ルヴィは少しの抵抗を見せたが、一人で山を下りるわけにもいかないと思ったのか、しぶしぶ従った。

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