第10話

 ルヴィは静かに答えると、右手で、小気味よい音とともに魔剣を鞘から抜いた。


 背丈ほどもある銀色の刃がランタンの光を反射する。ルヴィの銀色の髪が、まるで剣に共鳴するかのように風で揺らめく。


 そんな空気に殺気を感じたのか、魔獣が、ぐるりと頭を動かした。鋭い牙がルヴィに向かって止まる。間髪入れず、四本の足で土埃が舞い上げられた。


 猛烈な勢いで突進してくる。


 だが慌てるほどのスピードではない。ルヴィも同じ感覚だったか、体を翻し、しゃくりあげられた牙を悠々と避け、そのままに剣を薙ぎ払った。


 しかしタイミングがずれ、切っ先が魔獣をかすめるだけだった。小さな漆黒の竜巻が。獣とは離れた場所で発生し、むなしく塵だけが舞い上がる。


 魔獣は後ろ足を器用に操り、直角に方向転換して再びルヴィへ迫った。スピードも上がっている。


 ルヴィは慌てて半身になり、間一髪その牙をかわすが、たなびく魔力が左腕に触れた。


「くっ」


 ルヴィの低い呻き声が漏れる。袖が破け、血が滲む。それでもルヴィは、顔を歪ませながら、すれ違いざまに力いっぱい剣を振り上げた。


 刃が獣の身をえぐる。


 魔獣はけたたましいうなり声とともに吹き飛ばされ、地面へ叩き付けられる。その隙を逃すまいと、ルヴィはすかさず両手で魔剣を振り上げ、打ち下ろす。


 倒れていた魔獣を中心に、星空まで届きそうな、細長い竜巻が立ち昇った。


 一秒――二秒――。


 竜巻が晴れると、そこにいた魔獣の姿も滅されていた。


「ふぅっ」


 ルヴィが息を吐く。――瞬間、別の方向からルヴィに向かって獣が飛び出してきた。魔獣がまだ一匹潜んでいたようだ。


 だがルヴィが慌てる様子はない。

 冷静に体勢を整え、その獣へ、剣を添えるように突き出す。獣はそのまま串刺しになり、そこに発生した竜巻の中で消滅した。


 数分もかからず、いともあっさり、ルヴィは二匹の魔獣を撃退した。


「もう、いないかな」


 ルヴィは周囲を見渡すと、再び息を吐き、構えた剣を下ろした。その表情に、安堵感と満足感、その両方が含まれているように見えた。


 伺うように、ルヴィへ歩み寄る。


「お見事です。怪我は大丈夫ですか?」

「ありがとう。大丈夫、大したことないから。心配してくれてありがとう」

「お客様ですから」


 ルヴィは「えぇ」と唇を尖らせる。余裕はあるようだ。

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