第7話

 しばらく考える。魔剣の危険性を考えれば保険を設けることは必須だ。しかし、この少女に当てはめる必要性があるか……。

 悩むところだったが、条件付きで飲むことにした。


「いいですよ、分かりました」

「ありがとう。優しいね」


 少女がほっとしたように笑顔を見せる。


 それから手に持っていた魔剣を鞘におさめ、そのままベルトを肩に回した。背丈ほどの剣を背負った姿は、勇ましいとも不安定とも形容できた。


「ただ今回の件、私も同行させていただきます。前借りですからね」


 少女は「え?」と不意を突かれた声を漏らした。


「問題ありませんよね」


 立ち回りに興味があるという理由は伏せておく。


「そ……そうだね」


 明らかに目線は泳いだが、立場上断れないと感じる性格なのはもう握った。


「でしたら、さっそく向かいますか?」

「う、うん。お願い」


 そうして向かう場所を地図で教えてもらう。山の中の田舎町の様だ。訪れたことはない。距離的には歩いて半日程度か。


「では準備をしますので、少々お待ちいただけますか」


 奥の部屋で遠出の準備を行う。

 道のりに時間もかかるが、滞在時間がどのくらいになるかも分からない。どの程度で獣を見つけられるかによる。戻ってこられるのは、どんなに早くても明日、遅ければ一週間以上かかる可能性もある。最低限の携帯用の食糧などを持ち、店も閉めることにもなるため、必要な仕事道具も、商品である二本の魔剣も担いで持って行く。さらにそれらとは別に、護身用の剣をベルトに差す。


 こちらが準備している間、少女はカウンターの傍で大人しく待っていた。隙を見て逃げ出す可能性も頭に入れ注意を向けていたが、やはり真面目な性格なのか、おかしな動きを見せることはなかった。


 準備を終えて部屋から出ると、少女は旅路をせかした。


「早く行こう。夜が明ける前には着くようにしたい」

「そうですね。夜中の方が獣の現れる確率は高いでしょうし」

「うん、あとそうだ、改めて自己紹介すると、あたしの名前はルヴィっていうの」

「ええ、さっき誓約書に書いて頂きましたから」

「あ、そっか。ねぇヒュアートさん。あの、敬語は使わなくてもいい? さっきから分かってると思うけど、あたし、苦手で」


 少女はかすかにうつむき、頬を緩めて自虐的に笑った。


 最初からほとんどため口だ。必死な感情の現れかとも思ったのだが、それが素であったということか。


「だから、ヒュアート、もね、敬語は使わなくていいよ」

「そうですか。しかし遠慮します。ルヴィさんはお客さんですからね」


 少女は、「残念」と苦笑いとともに足を進めた。

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