第6話
ここまで来て引き下がれない意地なのか、魔剣の扱いに本当に自信があるのか、後者であるなら根拠はあるのか。
「分かりました。少々お待ち下さい」
商品のうちの一本を、袋に入れたまま「どうぞ」とカウンターに置いた。
少女が手を伸ばし、剣を右手で掴む。そして、左手を添えて持ち上げる。どこかぎこちなさはあるが、特別力を入れているようには見えない。左手で袋をほどき、あっさりとベルト付きの鞘を抜く。きらめく刃がむき出しになった。
思った以上にスムーズな動きだ。重さは感じていないのか、などいくつが疑問もわくが、少なくとも、剣の扱いにはある程度慣れていると見えた。
「外で、振って見せるね」
「どうぞ」
店の外に出ると、少女はその体と同じくらいの丈を持つ剣を、ゆっくりと振りかぶった。
静かな空気。少女の緊張感が伝わる。ただ。決して弱々しいものでもなかった。どこかぶれながらも、何かが起きそうな、大きな風が吹くような予感――。
剣が、振り下ろされる。
ビュウッという大きなうなり音とともに、辺り一体の空気を巻き込んで粉塵が舞った。雲まで届きそうな漆黒色のつむじ風が、竜のごとく立ち昇る。
見上げ、立ち尽くすしかできなかった。
単純な剣の太刀筋だけを見れば、可もなく不可もなく。キレや力強さがあるわけでもない。しかし、魔剣を、魔力を、確実に捉え、最大限の効果を発揮している。
この少女の小さな体のどこにそんな力があるのか。華奢な少女が持つ大きな剣。繰り出した強大な力。アンバランスな情景の違和感が、思考を収束させない。
そうして、その異常現象は徐々に収まっていくと、少女は満足げにこちらを振り返った。
「こんな感じだけど」
魔剣の扱いは、根拠のある自信だったということなのか。
「正直、驚きました。魔剣を使った経験があるのですか?」
「え? 初めてだけど、でも、使えたでしょ?」
そんなことがあり得るのか。
「自信があったんですか?」
「それは――」
少女は言葉を返そうとしたところで、もったいぶるように息を切ると、
「あたしにこの魔剣を貸してくれて、ここで働かせてくれたら教えてあげる」
有利な立場を得たとばかりに、自慢げな顔を見せる。意外としたたかだ。
しかし「魔剣を貸してくれれば」とだけ言えばいいものを「ここで働かせてくれたら」という条件を加えたのは、少女の真面目さなのか。ただ、ここまでの言動から、考えなしの物言いとは決めつけられない。
口を結びこちらの反応を待つ少女。強く主張するような、意志のこもったブラウンの瞳。その奥をじっと覗く。
そこに介在する、真っ直ぐさと、やはり見える薄くにじんだ翳。
そして、街中で声をかけられたときから消えない、何か引っかかる不可解な何か――。
しかし、
「そうは言いましても、他のお客様のこともありますし、やはり例外を作るわけには行きません」
「……そう」
少女が分かりやすく肩を落とす。
「やはり獣退治はギルドに任せたらどうです?」
「自分でやりたいの!」
これまでの中で一番強い口調だった。瞳の強さも、さらに頑ななものになる。
「……だから……」
歯切れの悪い言葉が返ってくる。感情的になってうまく言葉が出てこないのか、それとも、何かしら事情があり言葉にできないのか。
とはいえ、それを確認する術はなく、口から出てきたことで判断するしかない。
「一刻も早くというのであれば、ギルドで直近に動ける依頼を探すしかないでしょうね。それはが最も早くお金を工面する方法かと思います。報酬の高い獣退治があればなお良いですが、それ以外でも人探しなり、給仕なり、いくらかはあると思います。そこで十分なお金を得たうえでまたこちらに来ていただければと思います」
「じゃあその、今回の獣退治の報酬をそのまま渡すから、前借りって言うのは?」
「個人的な都合で退治するのなら、報酬はありませんよね?」
「そっか、そうだね。でも、だったらやっぱりここでその分働くから」
自分の住んでいる町が獣に襲われているのが本当であれば、それだけ感情的になる理由は分からないではないが……。
だが、あれだけ魔剣を使いこなせる人間はそうそういない。使い慣れているかは怪しいが、少なくとも魔力の理解はしているのだろう。ならば、魔剣に介在する危険性も把握はしているはずか……そうであれば、貸すことに問題はないかもしれない。
この少女が魔剣でどう立ち回るのか、そこに興味があるのも事実だった。
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