第3話
男は胸ぐらをつかんでいた右手を引き、袋詰めの金をカウンターに置いた。
「ありがとうございます」
その金額を確認しようと袋に手をやると、
「先に試し振りだ。魔力とやらが嘘だったらどうなるか分かっているな?」
男は金袋をつかんだ右手を離すことなく、そのままザッと引っ込めた。それから剣を乱暴に掴み取ると、その場で袋をほどく。続けて、シャァっという小気味いい音とともに、勢いよく鞘から剣を抜いた。
研ぎ澄まされた銀色に輝く幅広の刃が姿を現し、その場を照らすように瞬いた。
魔力を宿しているからではなく、一振りの剣としても、上質であると一目で分かる。
「なるほど、剣自体はなかなかのようだ」
男は笑みを浮かべると、早足にギルドに併設されている訓練場へ向かったため、それを追いかける。
道場のような、これまただだっ広い訓練室に入った男は、すぅっと息を吸い、両手で大きく剣を振りかぶると、力任せに振り下ろした。
銀の刃が空気を切り裂き唸りを上げる。すると、その刃の軌道を追うように、細い三日月型の炎がたなびいた。
魔力による炎だ。
そんな目の前の現象に、男は目を丸めている。剣を振り下ろした格好のまま、体を動かせない。
「どうでしょうか?」
声をかけると、男は我に返ってせわしなく瞬きを繰り返す。そして「え、あ?」と大きな独り言を口にしながら、何度も、手元の剣とこちらを見比べた。
取り合わなかった「魔剣」の存在を認めないわけにはいかなくなったからか、男はどこか強がった笑みで、剣をまじまじと眺めた。
「なんだ、本当に、本物なんだな。こんなものお前が作ったのか? この、魔力ってのは一体どんな仕掛けなんだ? 剣を打つときに魔獣の血でも使ってんのか? それでこんなことができるのかは知らないが」
動揺を隠せず、早口になっている。しかし満足気でもある。
「違いますよ。創り方は機密情報ですので、教えかねます」
「ちっ、そうかよ」
魔力を手品のようなものだと思っている可能性はある。しかしそれを訂正する必要もなく、軽く頷いて、営業用の言葉をつづけた。
「では最後に、繰り返しになりますが、返却は二週間以内にお願いします。鞘も袋もそのままお返しください。街のはずれにある私の店に直接お越しいただいても結構ですし、ギルドには頻繁に顔を出していますので、そのときでも結構です。それから、もし期間中に返却いただけなかった場合、ギルドの方に頼んであなたの所在を突き止めることになります。そしてもし、何らかの理由で、例えば、考えたくはありませんが、お客様が息を引き取られたなどの理由で剣をお返しいただけなくなった場合でも、そのまま回収させて――」
「うるせぇな、分かったよ。いちいちむかつくな。ヘラヘラしやがって」
男は表情を歪ませると、舌打ちとともに剣を鞘に納めた。そしてカウンターまで戻り、改めて誓約書にサインをし「ほらよ」と金の入った袋を乱暴に置いた。
「ありがとうございます」
頭を下げると、男は巨体を揺らしてフロアにいる仲間らしき集団の方へ歩いて行った。どうやら手元の魔剣について語っているようだ。
先ほどの力で十分に満足しているのだろう。物珍しい「魔剣」を手にしたことに興奮している。少なからず、普通の剣よりも狩場で目立つことができると考えてのことだろう。自分の活躍を分かりやすく誇示することができれば、集団で獣退治に向かった場合、報奨金の取り分が増えることもあるからだ。
魔剣の力をどれだけ引き出せるかは千差万別、人によって異なる。初振りでは全く使えない人間もいることを考えれば、さっきの男が発現させた炎は、可もなく不可もなくといえる適正だろう。
当然、最初にうまく扱えなくとも、使い続けることで上達する例はあるし、初めてでもっと強大な魔力を操る例もあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます