第2話
「しかし魔剣とは面白い売り方をするな。他の店は切れ味だとか材質だとか、聞き飽きた文句ばっかりだ」
「そうなんですね」
嘲笑とも言える笑みから、男は魔剣というものを信じておらず、面白半分で借りようとしているだけにも見えた。
とはいえその反応も当然であり、普通に生活している中で、魔剣を手にする機会はもちろん、耳にする機会も滅多にないだろう。
「では、二週分のレンタル代と保証費、合わせて十万ゴールド頂きます」
カウンターの上に茶色の袋で包んだ剣を置き、合わせて、貸し出しに必要な誓約書を差し出した。
すると男は表情を一変させ、「はぁ?」と、イラ立ちをそのまま声に出した。
「十万と言ったか?」
「はい」
「正気か?」
「はい」
「獣退治の相場を知ってんのか?」
「報酬の相場であれば、ひと月に四件受けて二十万くらいが平均的でしょうか?」
「分かっててそんな値段なのかよ? たかだか剣一本、それも二週間借りるだけだぞ?」
威圧してくる視線を受け流して答えたことで、さらなる怒声が続いた。
ただの風変わりな剣を借りようと考えていた男からすれば、正常な反応とも言える。他の剣と比べれば圧倒的に割高だ。一般の、普通の剣のレンタルを考えると、高価なものでもひと月一万ゴールド程度で、購入したとしても十万ゴールド程度にしかならない。
しかしこの値段設定を変えるつもりは無い。
「特別な剣ですから。それに、こちらに記載の通り、十万の内約には二万の保障費も含まれています。契約通り二週以内で返していただければ、そちらは返金になりますので」
「は、特別ねぇ。魔力ってやつか。それがどんなもんだかしらねぇけど、しかもこの誓約書、返却が遅延すれば追加で違約金二万ゴールド? どんだけ足元見るんだよ!」
男はむき出しの敵意を見せる。
「繰り返しになりますが、これは特別な剣です。魔力は非常に扱いが難しいものです。そのため、期限を厳格に設けさせてもらっています」
「何が難しいんだよ?」
「一種の呪いがあるとでも考えていただければ結構です。二週間も使い続ければ、使用者が魔力に蝕まれて、苦しむことになります」
「呪いだあ? そんなもんで脅そうっていうのか?」
「脅しではなく事実です。そうでなければ違約金なんて儲けません」
「だからって」
怒鳴り声とともに身を乗り出し、胸ぐらをつかんできた。
「ご不満でしたらキャンセルでも構いません。お客様の今回のお仕事は、魔剣を必要とするほどのものでしょうか? そうでなければ使わないに越したことはありませんよ」
「お前……!」
「ここからは商売として言いますが、もちろん、遠征で予定のない凶悪な獣が出て来たり、不測の事態がないとは言いきれません。そうしたとき、今後に獣退治の傭人として働くことができないほどの傷を負わされる可能性もあるでしょうし、最悪、命を落とすことも無いとは言い切れません。備えは万全にしておいた方がいいとは思いますね」
客、まして初対面ではあるが、遠慮を向けるような相手ではない。
「そのために、魔剣を持って行かれるのはいかがでしょう。当然、呪いが恐ろしいというのであれば、余計な心配事を抱えるべきではないでしょうが」
すると男は、それ以上の問答を嫌ったのか、さらに目を吊り上げ、威嚇するように睨みつけてくる。
「いいじゃねぇか、そこまで言うなら借りてやるよ」
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