第10話

 真新しい制服に身を通す。少々特徴的な制服は誰が見ても日本魔法学校の東京校の生徒だと分かるだろう。

 黒レース付き三角襟のシャツ、黒のベスト、胸下まで隠れる程度の黒いケープマント、赤チェックのスカート、赤ネクタイ。特にケープマントには個人で好きに刺繡を出来るらしいです。とは言え私は既に刺繍されたものを渡されたのですが。

 鏡に写る制服姿の自分姿を眺めおかしい所が無いか確認する。最近特に伸びてきた白銀の髪を手で軽く整えると少々早めに魔法学校に向かう為家を出た。



 日本に8校存在する国立魔法学校、ある程度の魔法を扱える青少年を集め教育する事を目的とした高・大統一一貫校だ。此処東京校は特に大きく日本最大級の大きさを誇り、人工島に浮かぶマンモス校で教職員等を含め約2000人が居るという。



 入学式の会場である体育館に着いた私は二階席の適当な席を選んで座り、最近製作している完全オリジナルM.A.Eの作成に入った。前日にはほぼ形となってはいたのですが細かい仕上げなどは終わっていなかったので丁度いい暇潰しとして作業を始めます。

 とは言え、仕上げの段階なのですぐに終わってしまった。隣を見ると私の端末を覗き込む女生徒が居た私と同じ色のネクタイをしているため同学年と言うのは分かる。


 私の視線に気づいた彼女は顔を真っ赤にして開口一番謝罪してきた


「ご、ごめんなさい!つい見てしまって」


「あぁ、別に構わないわ。どうせ私しか使わないし」


「見たことない形のM.A.Eでしたけど。どこのメーカーの物なんですか?」


「あぁ、これは自作」


「自作…自作!?」


「えぇ、私が自分自身どの程度の技術力を持っているかわかっていませんがこの度製作できる環境が出来たので作っています」


 そう言って折り畳みの端末を仕舞う。失敗作だったら恥ずかしいと言うのもあるから。


「そ、そうなんだ…あ!自己紹介がまだでしたね。|西宮立夏≪にしみやりっか≫って言います1年E組です」


「同じく1年E組黒鉄白亜ですよろしく。敬語は要らないよ?同級生なんだから」


「そう?じゃあお言葉に甘えて。そっちこそキャラじゃないでしょ?気にしなくていいよ?」


「あはは…えぇ、そうです」



 立夏と話しているとすぐに時間話過ぎ、式の開始時刻となりました。

 新入生代表の挨拶で現れた女生徒の名前を聞きすぐに察した。


「彼女、公爵家ですね」


「やっぱり?お淑やかそうだけどそう言うのにじみ出るよね」


 小声で喋ると立夏も答えてくれました。これ以上は教師に怒られそうなので自重する

 紗美原涼香と呼ばれた新入生代表の彼女の事は一先ず忘れ。この長ったらしい式のつまらなさにため息をついた。



 その長い式も終わり教室に来た。魔法の実技成績で区別される中でうちのクラスは特殊性もしくは成績下位の者が集まっている。

 そもそも魔法を使える魔導士の絶対数が少ない中で教師が少なく1学年全5クラスある中で3クラスしか魔法教師は居ません。このクラスは先生がおらず基本的に自習の時間か実技訓練もしくは教育用デスクに転送された情報。

 それらがしっかりとされていれば基本的に問題は無い。


「教育機関…ねぇ」


「そう悲観するものでもないですよ」


私がそう零したのを聞いた隣の席の男が口を開いた。


「あぁ、申し訳ない。私は葛城幸田だ、よろしく」


「黒鉄白亜です、よろしくどうぞ」


「あぁ、さっきの続きだけどね。実技は兎も角魔法に関しての情報だけならこのクラスでも一応十分な情報を貰える。教員の増員が難しいのは魔導士の絶対数がすくないからだろうし、仕方ないのさ」


「それはまぁ、確かにそうですが。肩透かし感は否めませんよ」


「言うなぁ。それなら図書室にでも行ってみると良いんじゃないかい?部活の用事以外で碌に行く人はいないらしいが。折角生徒証を貰ったんだし行ってみたらどうだい?」


 彼の言う通り、この学校には保存書庫も兼ねた巨大な図書室があるらしい。実際に行ったことは無いですが利用者は少ないらしく、一応この学校の在学中は生徒証があればそのICチップで本を借りることが出来るはず。禁書等は流石にそれなりの権限が必要なため教師でもない限り保管エリアには入れ無いでしょうけど。


「では後で行ってみます」


「あぁ、行ってらっしゃい」




 今日は入学式と学校生活についての説明等で終わり、それらも終わり席を立った後声をかけられました。


「おーい白亜!」


「あぁ、立夏どうしたんですか?…そちらの方は?」


 振り向いた所そこにいたのは立夏だけではありませんでした。立夏の肩までの長さでは無く腰まで伸ばした黒髪と整った容姿の少女、背丈は私や立夏と変わらない。


「紹介するよ!沢城玲 中学からの友達でさ。紹介しようと思って」


「沢城玲と申します、得意魔法は自己加速術式と高周波ブレードを得意とします」


「初めまして、黒鉄白亜です。得意魔法は…まだ秘密です。あぁそうだ、こちら葛城幸田さん」


 ついでとばかりに休憩時間隣の席と言う事で喋って仲良くなった幸田を捕まえる。


「やれやれ、その女子グループに入るのは気が重いから黙っていたのに。葛城幸田だよろしく、得意魔法は…無系統の障壁魔法を使った体術。よし待っていてくれ、この流れで俺も友人を紹介しよう」


 そう言って彼は少し離れていた席の男子生徒を引っ張ってきた。


「紹介します、立花竜二 体力バカです」


「いきなり引き連れてきて酷いやつだなオメーはよ!えー立花竜二だ、よろしく頼む。竜二でいいぞ!得意魔法は収束系硬化魔法と振動系の増幅」


「じゃあ私も白亜で大丈夫です」


 その後は軽く親睦を深めるため少々雑談したのち、解散となりました。と言うよりは過半数が寮に住むためその作業があったからです。荷物が届く時間になったので解散となった形です。




 私はそのまま図書室に向かいました。

 噂通り人っ子一人おらず。一応掃除はされている本棚を眺めながら中央にある貸し出しカウンターに向かうと一人の先生が暇そうにコーヒーを飲んでいました。


「おや、図書館利用者とは珍しいね。何用かな?」


 その男性の先生は心底珍しそうにそう聞いてきました。


「学校の授業はそこまで難しい物ではなさそうでしたし図書室なら何かあるかと思って来ました」


「まぁ、ここにある本なら教室の机から見れるんだけどね。まぁ、折角来たんだコーヒーでも飲むかい?」


 そう差し出されたマグカップには淹れたてほやほやのコーヒーが入っていた。図書室でこんなに自由にしても良いのかと思いつつ、そのカップを受け取り一口飲む。


「…美味しいですね」


「だろう!?いやぁ、この図書館の管理者に任命されてからこれだけが楽しみでね。数年前は図書委員っていうのがあったんだけどもう希望し居ないし」


「立候補者がいないって。委員会なんですよね?」


「別に生徒会の下部組織とかじゃないさ。精々僕の代わりにみんなが部活してる間ここで来るかもわからない人を待つ業務さ」


「はぁ、確かに人気なさそうどころか利用者の居ない図書室で待機するのもですね」


「まぁ、0では無いのがねぇ…やっぱり手元で見たい!とか。一部の電子化されてない本を借りに来たりするから」


「それ、私でもなれるんですか?」


 そう言うとその先生は眼を丸くした。


「そりゃあなれるけど。君部活はいいのかい?」


「生憎気に入るものは無いんですよ。その暇があったらM.A.E関係の事をした方が有意義じゃない?と思いまして」


「まぁ、貸し出し業務をするならコーヒー飲もうがM.A.E関係の事してようが自由だけど」


「なんだ、天国じゃないですか」


「M.A.Eならロボ研とかあるよ?」


「別にロボ作りたいわけでは…」


「それもそうか。まぁ分かったよ、君を図書委員にしておく。コーヒーは一杯20円ね、飲み物はコーヒー・お茶以外は表向きは駄目だけどバレなきゃよし。食事は駄目ねそもそも飲み物もカウンター以外駄目。その他の詳しいのは明日ね」


「先生、名前教えてください」


「あぁ、すまない。僕の名前は|中島聡≪なかじまさとる≫だ好きに呼びたまえ。君の名前は?」


「1年E組黒鉄白亜です、よろしくお願いします。中島先生」

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