第8話

 事実上依頼自体は終わり私は次の人員補給までの繋ぎという事で雇われ続けている私でしたが。明日ついに新しい人員が入るとの事。

 そして今日は引き継ぎの書類を作りを終わらせたところで御当主様から部屋に来るように呼ばれました。


 ノックをして入出すると御当主様だけがおり、他には誰も居なかった。


「失礼します」


「来たな。まぁかけたまえ」


 私が促されるまま席に座ると御当主様も対面に座る。


「まずは今回の件礼を言う。契約通りの金額とメイドとして働いてくれた分や皐月の魔法授業料も割増しで追加して君の口座に振り込ませてもらった」


「ありがとうございます」


「それと、これは私からの個人的な君への追加報酬だ」


 そう言って彼が机の上に置いたのはアタッシュケース


「何ですか?これ」


「魔法学校の女子制服と入学許可証」


「…はい?」


「驚いてくれたようで何よりだ。君の氷のような表情が解けただけでもやった甲斐があったという物だ」


「…公爵家の権力乱用ももっと有意義な使い方があったでしょうに」


「身内の一人くらいねじ込むくらい分けないさ。それと、最後にもう一つだけ」


 更に置かれたのは陶器のような白色の拳銃タイプのM.A.Eで人間工学に基づいたと思われる流線的な持ち手が特徴の物


「これは?」


「名は『アクケルテ』精密照準補助と魔法使用補助に重きを置いた特化型M.A.Eでうちの財閥で作ってる最新型モデル『アウロラ』の更に改良型の特注モデル。多分金額で言うと150万円くらいかな」


「通常の汎用型M.A.Eの5倍はあるじゃないですか!こんな高級品貰えませんよ!」


 普通の汎用型M.A.Eの販売価格が20~30万程度。特化型なら高くても70万は超えない


「まぁ、これは条件付き。今後もうちと仲良くしましょうっていう」


「はぁ、成程…まぁ、そう言うのであれば折角の縁という事で」


「そっちこそ良いのかい?皐月と魔法で会わなかった事にするって」


「えぇ、その方がいいと思います」


 これは私からお願いしたことで。精神干渉魔法で私の事を忘れて貰う事にした。忘れてもらうと言ってもうたかたの夢のような物。


「お嬢様は…最近私に依存しすぎる気がするんです。それどころか私を見る目が…何というか表現は難しいのですが獣の様にも感じるのです。あの目で見られると逆らえなくなるというか。吸血鬼化に関係するとは思うのですが」


「ふむ…まぁ口裏合わせくらいは協力するが何時か記憶は戻るぞ?記憶をぼやけさせるにしても…」


「ある種賭けですね。それまでに私の事を忘れてくれれば一人でやって行けるかと。ダメだったら…その時はその時で」


「はっはっは。その時は君をあの子の専属メイドにでもなってもらおうかな」


「本気で逃げれば多分逃げきれますけどね」


 本当にいざとなれば転移魔法で何とかなるでしょうし。


「すまんが、私は娘の味方をするぞ?」


「それは手に負えなくなるので勘弁してほしいのですが…」


 魔法も万能ではない。魔法の使用を防ぐ道具も軍事用とはいえある。それを使われようものなら私はただの小娘になってしまう。


「別に、皐月の事が嫌いというわけではないのだろう?」


「勿論ですよ。私にとっては妹のような感覚です。向こうはどう思っているのか分かりませんが」




 その後は軽い魔法学校に入学するについての説明や軽い雑談をした。

 最後にお嬢様の部屋に向かう。


 最近のお嬢様はかなり私にべったりで何かと私に付いて来たがる。そして何をするにも私を呼ぶ。今は私は使用人用の空き部屋を使っていますが一緒に寝るように言ってきます。私もお嬢様には甘い物で一緒に寝てあげる事が多くなりました、正式なメイドではないというのがあり私個人は妹の様に接しています。




「お掃除のお時間ですよ、お嬢様」


「あ、白亜お父様と何の話をしていたの?」


「あー…そうですね。明日の話を」


「明日?」


「わたしは今日で正式にお役御免です。明日人員補充があるそうです」


「なに…言ってるの?ねぇ!」


何を言っているのか分からないと言った表情のお嬢様を無視して話を続ける。


「私がいてはお嬢様は私を頼ってしまいます、頼りすぎるほどに。ですから…」


「何でよ!ずっと一緒にいてくれるって!私を嫌いになったの!!??」


「…ごめんなさいお嬢様、私もお嬢様とのこの約二週間は本当に心からたのしかったです」


「私もよ!!白亜さえいれば何もいらないとさえ思ったもの!姉の様にいえ…むしろ恋人の様に思っていたのに!」


「ごめんなさい、お嬢様…でも大人は噓つきなんです。約束を守れなくてごめんなさい皐月」


 使用人としてでは無く彼女の気持ちにこたえる形で恋人のように接する。皐月を抱き寄せる、最初に会った夜の様に。


「ずるい…ずるいわ…もう、もう何処にも行かせない。ずっと私の側に無理矢理にもいさせるわ。ずーっと私だけのものになればいいのよ!」


 体が震える。心臓を鷲掴みされたかの幻覚を覚え、体が動かなくなる。

 ニヤッと笑うお嬢様を咄嗟に引きはがそうとするもしっかり引っ付いていて離れない。皐月の眼を眼を見ていると思考がぼやける。


「お嬢様!離してください!」


「なんで?さっきは皐月って呼んでくれたのに」


「っ!」


 一際大きく口を開いたお嬢様を見て本能的に不味いと思い。咄嗟に魔法を使う。


「本当に、その魔法は嫌いだわ。わたしがどんなに頑張っても逃げられてしまう。指の隙間から水が零れるみたいに」


 思考が纏まらないながらも先程御当主様から貰ったアクケルテを取り出す。これには既に魔法の起動式が入っているけど調整がまだ済んでない。超特急で調整を接続で行っていますがどうしても時間が必要。


「その…眼…どうしたのです…か?」


「私が吸血鬼化したって聞いてからね。勉強したの…魔眼」


 魔眼…極々一部の魔導士が発現する特殊な魔法でその種類も効果もまちまち…


「精神干渉系魔法…」


 吸血鬼化してそう間もないからそう身体的変化はないと思っていたのですが。精神干渉系魔法によって印象操作を引き起こすものですか。


「不完全なのが今ほど惜しいと思ったことはないわ…」


 ゆっくり歩み寄るお嬢様にゆっくりアクケルテを向けすぐさまトリガーを引く。


「お嬢様はまだまだ甘いですね。」


 魔法が起動し、お嬢様に作用し始める。強烈な音波の共鳴によって意識を刈り取った。

 酷い高音が響く中意識を失い倒れ込むお嬢様をギリギリでキャッチしてそのままベットに寝かせる。


 正直ここまでとは思っていなかった。二週間程優しくしたらヤンデレになりましたなんて誰が信じるのでしょう。


「何が正解だったのでしょうか」


 そうつぶやきアクケルテを構え、トリガーを引いた。

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