第6話

「といった感じです」


 当主と二人で現状報告等を済ませる。当主は真剣な顔で私の話を聞き終わると一人にしてくれと私を追い出した。

 時計を見ると20時前だった。そのまま皐月お嬢様の部屋に向かう、もう私はここに来た時の私服に着替えている。この後は皐月お嬢様の特訓に軽くだが付き合うことになっているからだ。



 皐月お嬢様の部屋に戻ると既に皐月お嬢様は準備を始めていた。


「お疲れでしたら明日からでも良いのですよ?」


「一秒でも早く私はこの恐怖を払拭したいの。それに、私はまだ貴女の事を信用したわけじゃないから」


「それはごもっともで。一先ず私をここに呼んだ御当主様を信じてもらうという事で」


「そうするわ」


「では、授業を始めましょう。お嬢様には魔法を実戦レベルには扱えるようになってもらいます。身体能力で勝つのは薬でも使わないと今からじゃ無理です。お嬢様は私と実戦形式で模擬戦をしましょう、殺す気で私に攻撃してください」


「いくら何でもそれは…」


「失礼を承知で申し上げますと…二年ほど部屋に引き籠っていた箱入りお嬢様に負けるほど私は弱くはありません」


 見るからに怒っている皐月お嬢様を一先ずスルーし。一つのM.A.Eを取り出す、彼女が以前使っていた物らしい。


「使い方は覚えていますか?」


「えぇ」


「なら良かった、こちらで調整は済ませてあります」


 彼女がもつM.A.Eはリストバンド形態汎用型と呼ばれる一般的に普及率の多いタイプ。まぁ数年前の物なので型落ち感は否めないが。

 装着し終えた皐月お嬢様が部屋を出ていこうとするので待ったをかける。


「待ってくださいそんなネグリジェでやる気ですか?これに着替えてください」


「わ、わかった…」


 とりあえずジャージやスニーカーを渡して着替えさせる。一応全て新品をメイド長に用意してもらった。



「着替え終わりましたね?恐らくお嬢様はまだ外出るのは嫌と思われるのですがその認識であってますか?」


「…うん」


「では、これから起こることは秘密です。よろしいですか?」


「何する気よ」


「まだ秘密です。それでは行きましょうか」


 私は自分のM.A.Eの一つを取り出した。固有名称はシルバーキー私専用補助機能付きの大型自動拳銃型M.A.E。

 マガジン部分の魔法式保存ストレージを入れ替え事前にブックマーク登録している地点の座標データを呼び出し魔法を起動する。


「しっかり私に引っ付いて下さいよ?」




 次の瞬間には全く違う景色に移り変わる。辺り一面の青々とした草原の大地に燦燦と降り注ぐ日光。

 何が起きたのか全く理解できていない皐月お嬢様を一先ず置いて、私はもう一つのM.A.Eを取り出す。固有名称はクロノセクション、見た目はロングソードと呼ばれる物で一応今回は保険として出したに過ぎないが私の魔法を攻撃に転用するのに使う。


「ここ何処よ!!!???」


「秘密です、良いから始めましょうか時間が惜しいので」


「秘密って…」


「ここなら好きなだけ魔法を使えます、まずは好きに魔法を使ってみましょうか」





 それから約一週間私が動く的となりたまに魔法で相殺しながら欠点や問題点を指摘・考察・対策しながら皐月お嬢様をみっちり鍛えた。

 彼女はやはりというか収束系統魔法が得意らしい。というのも彼女の家系である鳳凰院家は血統魔法のジャベリンを使えるのだがそれには高度な収束系統魔法技術を必要とされる。収束した質量体や光を弾にするジャベリンだが皐月お嬢様もしっかり使えるようになり割と本気で私を殺す気で攻撃してくる。

 一応言うとジャベリンは着弾地点で発射した質量体等を内包した拡散系統魔法でばら撒くため場合によっては核兵器並の被害を出すとされるちょっとしたミサイル…


「ねぇ、白亜ってなんなの?人間?」


 丁度一週間たった今日急にそんな事を言われた。一応使用人という立場で来ているのでメイド服を着てはいますがお嬢様のお世話以外はしていない。


「対軍隊を想定した魔法をポンポン撃ってくるお嬢様に言われては仕方ありませんね」


「なんで魔法が斬れるのよ…」


「お嬢様に教えることも一先ず終わりました、これ以上は国立の魔法学校で教わってください。お嬢様の学力なら一年もあれば十分でしょう」


「終わりって…じゃあ」


「えぇ、明日は貴女の恐怖の象徴を打ち負かしましょう」


「ついになのね…」


「先に言っておきますが…お嬢様はかなりお強いです。自信を持ってください」


「自信…ね」


「試合形式で戦っていただきます。因みに相手であるお二人は了承しました、あとはお嬢様の覚悟です。あの夜の覚悟はまだありますか?」


「勿論あるわ…でも。いざと思うと足が竦みそうになるの」


「大丈夫です、私がいます。私では役不足ですか?」


 ベットに座る皐月お嬢様の横に私も座り安心するようにと抱き寄せる。

 この一週間はかなり濃密な一週間でした、彼女と実戦形式の訓練以外は常に一緒に過ごしそれこそ寝食を共に過ごし自分の妹の様にお世話をして過ごしました。

 正直一週間や一か月どころか一年単位を覚悟していましたが皐月お嬢様は芯の所はまだ折れていなかったのか、私が治せたのかは分かりませんが上手く立ち直るチャンスを上げられたようです。

 それでも私以外でだと御当主様以外にはコミュ障状態ですので早いところ治ってほしいところですね。年下の異母兄弟を叩きのめせば治ってくれるといいのですが。


「ずっと…一緒にいて?」


 か細い声で私の胸に寄りかかる皐月お嬢様は本当に年頃の乙女に見える。後一か月程で私とタメの16歳になるらしいが私にとっては可愛い妹のような物だ。

 だけれどその問いには答えられない。私は彼女を治療すればこの家での役目は終わり出ていかなければいかない


「……なんで。なんで答えないのよ」


「お嬢様…大丈夫です、ずっと一緒にいますよ」


「本当に?」


「はい、本当ですよ」


 そう言うと彼女は嬉しそうに私の膝に頭を乗せて膝枕の状態になる。


「えへへ…」


「もう…仕方ありませんね」


 これでいいんです、大人は噓つきな物です。お嬢様は怒るかな?私は一応来週から一般の公立高校に入学しますし。お嬢様の噂も払拭されれば本職のメイドが代わりにあてがわれるでしょう。その時私は不要ですからね。

 


 最近しっかりと健康的な生活を送れている皐月お嬢様は結構引き締まった体になってきた。ぼさぼさだった髪も美しさを取り戻し誰もが認める美少女でしょう。

 私の膝で熟睡し始めた皐月お嬢様の髪を撫でていると扉がノックされる。ここに来る人は限られる、私が「どうぞ」と答えると当主とその専属執事が入ってくる。

 その二人に口に人差し指をあて静かにすることを伝えると意味が分かったようで、ゆっくりと扉を閉めこちらに近づいてきた。私が自分の膝の代わりに枕を挟み落ちないようにベットに戻す。


「明日についてでしょうか?」


「そうだ、私の部屋に行こう」


「分かりました」


 私達はベットですやすやと眠る少女を起こさないように部屋を出た。


 


 私達は明日の最終的な打ち合わせをすませる。一通りのすり合わせが終わった所で私からも話を切り出した。


「私がここを出る時の事ですが…少々お願いがあるのです」

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