第5話
その少女を最初に見た時の印象は清楚だった。塞ぎこんでぼさぼさになった黒髪、暗闇でも鈍く光るルビーのような紅い瞳に私ほどではないが色素の薄い肌。
ただその全てをこちらをにらみつけるような表情がその印象を消し去る。
「何時から、この状態に?」
「詳しくは何とも…ただ一年以上前からこの状態だったらしい」
「そうですか」
この部屋にいるのは私と当主、そして件の令嬢である鳳凰院皐月お嬢様だけ。
「御当主様…二人きりにして頂けませんか?私が出るまで」
「し、しかしだなぁ…」
「気持ちはわかるのですが私も自分の魔法は隠したいのですよ…お願いします」
そう言うと当主は渋々といった表情ではあるが納得したようで部屋の外に出て行った。
「改めて自己紹介と行きましょう。初めまして鳳凰院皐月様、黒鉄白亜と申します」
そうは言ってみるも反応は無い。さて、どうしたものかと悩みながらも彼女が塞ぎこんでいるベットから少々離れたところにある椅子に座る。
そうすると私を目線で追うようにルビーの瞳が動く
「私が貴女のお父様からお願いされたことは二つ。一つ目はお嬢様の精神状態を普通に戻す、具体的に言えば部屋から出て一昔前みたいに。
もう一つは貴女が引き起こすと言われている人の衰弱化現象の原因解明ですが…そちらはほぼ終わりました」
そう言うと彼女は一層私への目線を強め、その重い口を開けた。
「バカな事は言わないで。ここには何人も医者だか魔法研究者が来たわ。その全員が匙を投げたのにあなたなんかに分かるわけないでしょ!!」
「まぁ、その気持ちはよくわかりますが。私には分かるんですよ、魔法特性というのを知っていますか?お嬢様」
「……極一部の魔導士が持ちうる特殊な魔法性質でその大半はその魔法性質の適応範囲ならば特殊な魔法であろうと使用が簡易・簡単になる…」
「正解です、流石ですね」
「それがどうしたっていうの?」
「私の魔法特性は接続といいます。私はインデックスをかいせずアカシックレコードにアクセスすることも、見た対象や触れた対象の情報を情報として閲覧できるんですよ。勿論改ざんも」
かなり驚いている皐月お嬢様を一先ず無視して話を続ける。
「もう一つの秘密は一先ず置いておいて。貴女の衰弱化現象の原因ですが…吸血鬼としての生存本能ですね。先祖返りでしょう」
「何ですって?」
「聞こえませんでしたか?先祖返りの吸血鬼化が原因です。過度なストレスが原因でしょう、御当主様はどうも違うようですから、お母様のずいぶん前のご先祖様がそうなんでしょう」
「私…人間じゃないの?」
「生物学的にはそうでしょうけど。お嬢様はしっかりと人の心をもって人の体を持っていますから大丈夫ですよ」
皐月お嬢様が何とも言えない表情になっているが話を続ける。
「…まだ兄弟の事や今の奥様を気にしていますか?」
そう聞くと震え、縮こまってしまった。私はそっと抱き寄せて昔母にしてもらったようにそっと背中をなでる。
「大丈夫ですよ、貴女は一人じゃありません」
私の胸で大泣きする皐月お嬢様をよしよしと宥める。
「あの兄弟たちを打ち負かしたいですか?」
そう言った瞬間皐月お嬢様が泣き崩れた顔で私を見る。
「出来るの?」
「むしろお嬢様なら御当主様にも勝てますよ。私が鍛えれば」
服の裾で涙を拭った皐月お嬢様はしっかりと意思のともった眼を私に向ける。
「私を鍛えなさい。もう、私はくじけないわ」
「その意気ですよ。お嬢様」
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