第4話:メイドの仕事と勘違い
私が魔法を行使すると幾何学的な文字や図形が発動地点に発現し現実が改変される。指定物が霧散し食器などから剥がれ落ち収束され汚れの集合体となる。
「お前魔導士だったのか?」
シェフの一人が私に話しかけてきた。
「えぇ、私にできるのはそう多くないですが。家事を簡略化するくらいは……あの、顔が怖いです」
「そいつぁ助かる!魔導士なんてまずいないからな!」
「やたら騒がしいですがどうされたんですか?」
「あぁ、新人か?今日は御当主様が帰って来るんだとよ。それだけでもないんだがよ」
「というと?」
そう聞くとシェフは顔をしかめながら教えてくれた。
「ここの長女のお嬢様がな…巷邪化け物なんて呼ばれてる。怪物なんざここ数百年現れてないだろうにな。そのお嬢様を担当したメイドが倒れたんだ。それが悪い噂となって新しいメイドが来やしない。お陰で人手不足さ」
それを言い終わるとシェフは一仕事終えたらしく煙草を付け始め使用人休憩所と書かれた部屋に消えていった
その後も調理場や幾つかの部屋の掃除などをして時間が過ぎた。お陰で部屋の見取りも大まかには把握できた。
使用人休憩室に入ると賄いの食事が人数分あり一部の人はもう先に食べ始めていた。凛花と呼ばれたメイドに手招きされ私も座る。
「お疲れ様!初仕事にしては上々だよ!」
「別にどうという事はありませんよ」
「言うねぇ。あ、自己紹介してなかったね私大空凛花」
「私は黒鉄白亜です」
そんな事を凛花さんと言いながら賄いのチャーハンを食べ終えて食後のお茶会になる。
「そう言えば白亜って魔導士なんだって?」
「そんな大層な物でもないですよ?私にできるのは精々生活道具の代わりくらいです」
「えぇー…でも白亜ちゃんもっとすごい事出来そうだけど?」
その言葉を聞いた白亜は少し動揺した。だが出来るだけ顔には出していないつもりだった。
「…急にラフな感じになりましたね。本当にこれ以上は普通の事しか出来ませんよ?あんまり魔法が使えるって言わないでくださいよ?精々普通の魔導士程度です」
「十分じゃない?まぁ、言いふらすつもりもないけど。でも多少でも出来るなら貴族に雇ってもらえるんじゃない?」
「だから今ここにいるんじゃ無いですか」
そう言うと凛花さんは成程と手を付き納得した。
「まぁ、私はここのお嬢様の専属メイドって聞いて来たんですけどね」
「あっ、そうなの?」
「着いたら食洗機代わりにされるとは思いませんでしたけど」
「お疲れ様だよー。お茶入れてくるけどいる?」
「頂きます」
凛花さんがお茶を汲みに行ったタイミングで息説切らしたメイド長が飛び込んできた。
「黒鉄白亜さんっている!?」
その一言を聞いた全員が一斉に私の方を見る
「私ですけど」
その言葉を聞いたメイド長が顔に手を当てため息をつく
「貴女ね…分家とはいえ一応準貴族相当なのよ?…そんなこと言ってる場合じゃない!こっち来て!」
そう言われて本日二度目の半強制連行を体験した。
連れてこられた場所は当主の部屋と思われる私室だった。ノックの後メイド長に促されて入ると父と同年代と思われる男性が座っていた。
すかさず私はスカートの裾を摘まみカーテシーをする。
「黒鉄家長女黒鉄白亜と申します」
「あぁ、そういう堅苦しいのは良いんだ無礼講で行こうじゃないか」
「では、そういうことで」
「まぁ、座ってくれ」
「では失礼します」
促され座ると当主の専属執事と思われる人が紅茶とお茶請けを置き一歩下がった。
「さて、知っていると思うが自己紹介をしようか。12公爵が一鳳凰院家当主鳳凰院大貴だ、君の事はさわりだけは聞いている」
「左様ですか」
「娘の事をあんな状態にした私だが出来る事はしたくてね。罪滅ぼしと言えばいいかな、正直藁にもすがっている。百聞は一見に如かず…だが、もう遅いな明日のほうがいいか?一応君はあの子の治療の間は客人として扱うつもりだから客室はあるが」
「では、今日の内に会いに行こうと思います」
「そうか、すまないな」
「そこは違う言葉のほうが良いと思います」
そう言うと公爵は少し驚いた顔をした後「ありがとう、感謝する」と頭を下げた。
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