第1話:白銀の大地に舞い降りし幼女

 目を覚ますと知らない天井だった。そんなフィクションの中だけと思われる現状に驚きつつも体を起こす。全身が軽い痛みに襲われたがそれ程でもないのでベットから降りる。

 部屋は質素だが調度品が幾つかある事から客室と思われる。立て掛けあった姿見を見ると人形のような幼女が写る。自分の動きに応じて鏡の中の幼女も同じ様に動くその幼女は人形のような整った顔立ちに紅い瞳そして美しい日光を反射する白い髪

 なぜこうなっているのか、思い出そうとするも記憶が欠落しているのか何も思い出せない。だが何故か知識だけは思い出せる。自分の事で思い出せるのは名前がやっとだったが家族の事を思い出そうとすると頭が割れそうなほどの頭痛に襲われる。すぐに考えをやめようと深呼吸をしようとするも過呼吸になってうずくまる様な形になってしまう。

 収まらない頭痛は次第にむしろ悪化していく。ハァハァと荒い息を吐き嗚咽を漏らし始めていると扉が開き、一人の年老いた女性が現れ私を見るとギョッとしたがすぐに私を抱きしめて背中を撫でてくれた。それが暖かくて、安心できて暫くそうして貰っていると頭痛も荒い息も落ち着いてきた。


「Verzeihung(ごめんなさい)」


謝罪すると彼女は少し困った顔をしてしまった。その理由は直ぐにわかった。


彼女は私とは違う言語を発したからだ。


 彼女に連れられて部屋を出てリビングと思われる場所に着くと一人の男が居た。年齢は私の手を握ってここまで連れて来た彼女と同じくらいと思われる筋骨隆々な男性だ。

 私は彼の対面の椅子に座らされるとその男が端末を操作し私と同じ言語で喋り始めた。


「テストテスト…あぁ、言葉は分かるかい?」


「はい、分かります」


「それは良かった、君はどこの誰だかわかるかな?何か覚えている事でもいい」


その回答に首を横に振ると彼は「そうか…」と残念そうに唸った

女性が戻ってきて私にホットミルクを渡してくれた、蜂蜜が入ったものだ。


「改めて自己紹介をしよう、|黒鉄宗也≪くろがねしゅうや≫と言う。まぁ、好きに呼んでくれ、隣にいるのは私の妻で」


「|黒鉄春香≪くろがねはるか≫よ、よろしく」


「私はソフィア・フォン・シュヴェリーン……だと思います。記憶が曖昧ですけどそれは覚えてます」


「そうか、一先ず君がどうしてここに居るのかの経緯を説明しよう」


 彼が話してくれた内容をまとめるとこうだ、ここは日本の北海道の片田舎で。彼が猛吹雪の中この家に帰ろうと帰路についているところ雪に埋もれかけていた私を見つけ、ギリギリの所で私を助け出したという。誇張表現無しに一度は死にかけていたらしい。


「一先ず家で預かることにした。うちの家はそこそこの地位でね。仕事柄それなりの伝手もあるから少女一人低体温症から救うのは訳は無いんだが…すまんが記憶喪失まではね。どこまでは覚えているんだい?」


「一般的な知識と魔法についての知識に自分の名前と歳くらいです…」


「まぁ、そう言う記憶とかは専門外だからわからんな…君さえよければだが、うちの子になるのはどうだろう?正直君をこんな目にあわせるような親の所には返したくはない。新しい戸籍も用意して名前も変えてね」


 その提案は恐らく常識的に考えておかしいのだろう。だが私ほ酷くそれを渇望した。命の恩人でもあるしさっき私が苦しんでる時抱き寄せて撫でてくれた時温かみを感じた。私のぽっかり空いた欠落が埋まる気がしたから


 その日から私は黒鉄家の一人娘となった。

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