第2話 サブロー

「ハッ!!!」


 釣りあげてから2分ほど経過して、緑のヤツが目を覚ました。


「いや~、びっくりしたよ~。まさか釣り上げられるとはね~。もう驚きすぎて気絶しちゃった~。イビキとかかいてなかった?」


 やけにお喋りで馴れ馴れしいそいつは、人間に対してまるで警戒心がなく、むしろ見た目以外は親近感が湧いてくるほどだった。


「もしかしてお兄さんたちカッパはじめて?緊張しなくてもいいよ~。人類みんな友達だって!俺カッパだけど。」


 軽妙なカッパジョークも飛び出したところで俺は確信した。こいつはカッパのふりをした動画配信者の類だ。特に驚くこともないし、悪ふざけにのってやる義理もない。いつも通り行動しよう。


「それにしても寒くない?寒いよね~。なんでこんな時期に釣りなんて来ちゃったの~?他にやることなかったの~」


 いい年してカッパやってるお前に言われたくはない。そんな悪態を心の内に留める俺とは対照的に、鈍感王の大平はカッパとの会話に交わった。


「12月になるともっと寒くなるし、何より受験で忙しくなるから今年はこれで最後かなって思ってたんだよね。っていうか水の中の方が寒くないの?」


 その通りだ。大学受験まで俺たちに残された時間はそう長くはない。中学からの付き合いになるこいつとも、大学では別々になる。高校から大学を出て、社会人になる頃には、こうして友人と会う機会も無くなってしまうだろう。


「意外と水中は温度が変わらないから、慣れちゃえば平気だよ~。そっか受験か~、懐かしいな~」


「カッパって学校とか行くんだ」


 思わず疑問を口にしてしまった。俺から言葉を引き出したのが嬉しかったのか、カッパの口角がさっきより上がった気がした。


「学校くらいあるよ~。妖怪学校って聞いたことない~?それに試験がないってのも噓だから気を付けてね~」


 妖怪学校を受験する予定はないので気を付ける必要はないが、それにしてもこの自称カッパ、一応しっかりと設定は作りこんでいるらしい。


「ところで君たち名前はなんていうの~?俺はカッパのサブローだよ~。よろしくね~」


石動いするぎです」

大平おおひらだよ~よろしく~」


 大平は完全に心を許したのか、カッパの口調を真似しだしていた。


 

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