第153話 ダーニンの乱②

 その日は師匠の帰りも早く、ヴァンクさんとハクイさん、リンゴさんと旧メンバーが私を含めて五人もログインしていた。新しい人たちもいっぱい。ギルドの拠点にいる人だけで二十人くらい。魔物使いのオンジさんやギルド肥大化の立役者のマッキーさんもいる。


 拠点に来ないで遊んでいる人たちも多いのでログインしている人を全員合わせたら三十人近いんじゃないだろうか。


「凄い人数だねえ。折角だからみんなで何かしようか。あ、でもやりたいことある人はそっち優先して下さいねー」


 例によって予防線を張りながらの師匠のお誘い。これだけの勇者が揃えば最古竜セルペンスだってびっくりして逃げだしそう。


 まあセルペンスは人数多ければ何とかなると言う相手ではないけどね。ブレス一つで半分が死んで、その回復と蘇生をしてる間に残った半分が死ぬと思う。初見で勝てる相手ではないのだ。


「どこかのボスでもいいんだけど、かくれんぼとかする? ささやかだけど賞品出すよ」


 お、いいですねかくれんぼ。これだけ人数多いと面白そうだぞ。


 かくれんぼは文字通りのかくれんぼ。鬼が一人でみんなが隠れる。見つかった人も鬼になって隠れている人を探していく。鬼が増えてくのだ。待ってると暇だからね。で、最後まで見つからなかった人が優勝。


「ナゴミヤ、お前賞品出せるのか?」


 ヴァンクさんがいぶかしげに聞く。


「え、いや、まあ。あんまり期待はしないでね?」


 まあ、そうですよね。師匠だからね。かくれんぼはかくれんぼだけで面白いのだ。別に賞品がなくたっていい。モンスター退治もいいけどたまにはこういうのもね。


「ふむ。それなら僕から賞金を出そうか。マスターの財布では心もとないからな」


 ビッグなお申し出をしてくれたのは私の隣にいたリンゴさんだ。


「マジで? リンゴさんありがと。正直助かる」


「なに気にするな。丁度賞金首を一人倒して左うちわなんだ」


 おおー、とギルドメンバーたちから歓声が上がった。これはかなりの賞金が期待できる。


 リンゴさんは自分も賞金首だけど賞金稼ぎでもある。賞金首を倒すと凄い金額の報奨金が冒険者ギルドから支払われるのだ。金額は今まで賞金首がしてきた罪の重さと、討伐されるまでにかかった時間とで決められる。左うちわなんて言ってるってことは相手はかなりの大物だったんだろう。


 賞品はなくてもいいけど、あったらあったで燃える。冒険者ってそういうものでしょう?



「じゃあ、ルールを説明するね」


「ちょっとww待てよwwww」


「うん? ダーニンさんどうしたの?」


 ダーニンさんは猫さんの一件以来師匠を目の敵にしていて何かというと突っかかっている。師匠も大変だな。ダーニンさんがいない時は割とギルドも平和なんだけど、そのあたり気が付いてくれないものかな。


「鬼ごっこてwww付き合わされる身にもwwなって欲しいんだけどwww」


「あ~、そうか。ごめんねえ。最初に言えば良かったねえ。無理に付き合わなくていいよ。みんな好きなことしてね。ギルドイベントは参加自由だからね」


 いや、ちゃんと言ってたよ師匠。やりたいことあるならそっち優先してねっていつも通り予防線張ってたよ。ほんとそうしてくれたら楽なんだけど。でもダーニンさん的には納得できないらしい。


「いやwwそうじゃwねえだろwwwwww」


「うん?」


「何でwwギルド優先しないんだよwwwwwwwおかしいんじゃないのかwwアンタww」


「う、ううん? 俺は確かにおかしいけど、ううん?」


 ダーニンさんとしてはみんなでモンスターを一緒に狩るのが正しいらしい。それもボスだと効率が悪いから適度な中級モンスターを。そしてみんなが均等にダメージを与えないとダメ。師匠みたいにダメージ与えられないとか論外。


 今までのダーニンさんの主張をまとめるとそうなるんだけど。


 それ、楽しいのかな。ダーニンさんは楽しいのかもしれないな。ダーニンさんはな。


「アンタさ、いっぺん俺とタイマン張ってよwww」


「おお、模擬戦? いいよー。じゃあ今日はそれで行こうか」


 これだけ無茶苦茶言われても相手の意図を組んであげようとする。どこまでもお人よしの師匠である。模擬戦も楽しいけどね。でもモンスター討伐と違って勝ち負けが出ちゃうし、興味ない人にはつまらないんじゃないかなあ。でもみんな一度くらいはやってみたいかな?


「模擬戦じゃwねえよwwwwww」


「うん?」


「俺が勝ったらwwギルドマスター降りて貰うからw」


 は?……はああああ?


 どんな思考回路だ。ダーニンさん要はこの大人数の前で師匠を負かしたいのかな。師匠がギルドマスターを降りたらどうするつもりなんだろうね。まさか自分がやるとか言いださないだろうな。


「うう~ん、それは困るなあ」


 流石に師匠もいいよ、とは言わなかった。良かった。この人なら言いかねない。


「元々wなんもしてないからw困んねえよwwww自信ないのwwwwwギルドマスターの癖にwwww」


「ううん、そうだねえ」


 まあダーニンさんじゃ絶対師匠には勝てないだろう。本気になったら多分一発もダメージ入れられないよ。ダーニンさん別にうまくないし。


 でも師匠もダーニンさんには勝てないだろう。師匠ダメージ当てられないし。


「何なんだよwwオマエwwww」


「何なんだって言われてもねえ」


 のらりくらり答える師匠だけどそもそもダーニンさんの主張には正当性がない。何なんだって言われても困るのだ。


「言っとくけどコレ、ここにいる全員の総意だからwwww役に立たないギルドマスターに降りて貰うってwwwwww」


「えええ、まじかー。ギルドマスターって役に立たないと駄目なの?」


 大丈夫でーす!


 しかし総意て。ダーニンさん大きく出たなあ。意味知ってるのかな。今ここにいる二十人くらいの中で精々五、六人ってとこじゃない? 今ダーニンさんの後ろにいる人たち。他の人はみんなかくれんぼ歓迎ムードだったよ。


 ダーニンさんの言う「役に立たない」は「ダメージを当てられない」っていう意味なんだろうけど。別にギルドマスターのお仕事はダメージ当てる事じゃないからね。大体ギルドマスターの仕事っていうけど、師匠だって遊びに来てるんだよ。


 私が平静でいられるのには理由がある。私の隣にいる人が私以上に物凄く怒っているからだ。いや、怒っているなんて生易しいもんじゃないな。私に向けられているんじゃないのはわかっているんだけど、それでも怖いくらい。


 私は占い師なので勘は鋭い。でも特に武道とかをやっているわけではないのでソレを肌で感じたことなんて勿論なかった。リアルは平和だからね。


 だけど今私の隣にいる人。リンゴさんから発せられてるコレ。画面越し、ネット越しにビリビリ感じるコレはいわゆる「殺気」という物じゃないだろうか。


 ダーニンさんコレほんとにわかんないのかな。


「ぶっちゃけww空気読めないリーダーってw迷惑だからwwwリアルと一緒でwww」


 殺気がついにはじける。私の隣からリンゴさんの姿が一瞬で書き消えて———


 私はリンゴさんがダーニンさんに飛び掛かってぼこぼこにしちゃうんだろうなって思っていた。でも次に起こったの私の予想外のことだった。


 リンゴさんが襲い掛かったのは、ダーニンさんじゃなくて師匠の方だったのである。

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