第68話 ギルド<なごみや家>へ、ようこそ! 3
「じゃあ、次はショウスケさんね」
ギルド<なごみ屋>の新人歓迎の自己紹介。
裸パンツのヴァンクさんの隣に座っていた騎士スタイルのショウスケさんが立ち上がった。
「ショウスケです。ええと、ヴァンクさんみたいな個性はないです。スキルは……。スキルも普通です。すいません」
何故かショウスケさんは謝る。
「ショウスケさんはうちで一番強いよ。猫さんと同じくらい強い」
「おお、そうなんですね!」
猫さんは「なごみ家」の皆さんと交流あるんだな。
「いやいやいや、そんなことは。ナナシさんと比べられては困ります」
ナナシさんて誰だっけ。あ、猫さんの事か。そう言えばそんな名前だった。
「そうでもないと思うけど。ショウスケさんはドラゴンスレイヤーだし。」
「ドラゴンスレイヤー?」
師匠の解説に興味をそそられる名前が出て来た。
「うん。一番強いモンスター<最古竜セルペンス>をソロで倒した人のことだよ。システム上の称号じゃなくてプレイヤー間で言われてるだけだけど」
「うおおお、かっこいい!」
そうか、この世界には<ドラゴンスレイヤー>が実在するんだ。すごいな。いつか私もその称号を手にできるかな。
「いや、運が良かっただけで。ドラゴンスレイヤーというならヴァンクさんやブンプクもそうですし」
「ヴァンクさんもドラゴンスレイヤーなんですね!」
筋肉パンツ恐るべし。
「いや、俺はセルペンスをソロで倒しただけだ。ドラゴンスレイヤーじゃない」
ヴァンクさんがちょっと悔しそうに言う。
「???」
あれ、セルペンスをソロで倒した人がドラゴンスレイヤーなんじゃないの?
私が「?」マークを連打していると師匠がその意味を教えてくれた。
「ヴァンクが言っているのはね、セルペンスを倒した時にはセルペンス用にスキルや装備を調整して臨んだって意味だよ。普通はそれでもドラゴンスレイヤーなんだけどね」
「なるほどー」
ヴァンクさんのこだわりか。
ショウスケさんはいつもと同じスキル構成、同じ装備で倒したから凄い、と言うわけだ。
「それだけじゃねえ。あの時俺はっ……。鎧を着ていたっ!」
「はいはい、そうだねー」
ヴァンクさんの血を吐くような叫びを師匠はさらっと流す。ヴァンクさん的には裸で倒さないと倒したことにならないのか。パンツ道は奥が深い。
「強さにも色々あるんだけど、ショウスケさんが凄いのは同じ装備、同じスキル構成で全てのモンスターをソロで倒したってとこ。ドラゴンスレイヤーだけじゃなくて、デーモンスレイヤーでジャイアントスレイヤーで、って挙げてったらきりないんだけど」
昨日のバルキリーコヒナの鎧の時に師匠には装備を使い分けろと言われた。ゲームならばそれが当然。でも、一つのスタイルで全てのモンスターを打ち取ったというのは最強の在り方の一つだろう。
「それは、凄いですね……」
「いやいや、一応勝ったことがあるってだけで、死んじゃうことも多いですから」
そう言いつつもショウスケさんは嬉しそうだった。
「コヒナさんと同じ片手剣と盾のスタイルだから色々教えて貰えばいいよ」
「はい! よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします、コヒナさん」
ショウスケさんが席に着くと、丁度誰かが転移してきた。
さっきお話に出ていたブンプクさんと言う方だ。
女の人で、桜色の着物に袴、腰には日本刀を佩びている。和風の剣客? みたいなスタイル。
「おっ待たせ~~。あっ、コヒナちゃん初めまして!よろしくね~~」
「初めまして、よろしくです!」
「か、可愛いい~~~~」
ブンプクさんがそう言いながら机の上に色々お料理を並べだす。
わわ、凄いご飯。ピザ、色鮮やかなサラダ、凄い大きなお魚の丸焼きとか、豚の丸焼き。さらにクッキーやケーキ、様々な果物を使ったスイーツまでが大きな机に所狭しと並ぶ。
「わー、凄いですね! お料理ってこんなに色々出来るんですね!」
「ん~~、いい反応ありがと~~。まだあるからいっぱい食べてね~~」
ブンプクさんはそう言って空いていたドラゴンスレイヤーのショウスケさんの隣の席に座った。
「ブンプクさんありがと。んじゃ、丁度いいから自己紹介のご挨拶どうぞ」
「あ、私? はいはい。ブンプクです。<なごみ屋>へようこそ。私以外のメンバー、色々と濃くてびっくりするかもだけど、みんな悪い人達じゃないからね~~」
ブンプクさんも普通の人っぽい。ショウスケさんも強いけど普通の人っぽかったし。というか普通じゃなさそうなのはヴァンクさんと師匠くらいだ。
「気をつけろよ。こんなこと言ってるけど一番やべえのはブンプクだからな」
見た目的にはいちばんヤバそうなヴァンクさんが言う。
「えっ、そうなんですか?」
「ヤバくないよ~~。そういうヤバさじゃないから安心してね~~?」
ブンプクさんがひらひらと手を振る。ブンプクさんは自分でも完全に否定しきれてないことに気が付いているんだろうか。ヤバさにも種類があるらしい。
「ブンプクさんはこの世界でも五本の指に入るアイテムコレクターだよ」
「アイテムコレクター?」
師匠がまたも魅力的なキーワードを出してくる。
「うん。ブンプクさんは大きな家を三つ持っていてその家の全部が隙間なく置かれた激レアアイテムで埋め尽くされてるんだ」
「家が三つ!?」
この世界の家という物は途方もなく高い。小さい家でも私が手に入れられるのはいつになるかわからないというレベルのものだ。
「界隈では<骨董屋>っていうあだ名で呼ばれてる有名人だよ。家三つって聞くとみんなびっくりするけど、飾られてるアイテムの中には一つで家が三つくらい建つ値段が付くのや、ガチで値段が付けられないものもあるんだ」
「そんなアイテムがあるんですか!?」
「んふふふ~~。気になる?」
こんな話聞いて気にならない冒険者がいるだろうか。
「はい! 見てみたいです!」
「んふふ~~。そっかそっか~~。今度ゆっくり博物館案内するね~~」
激レアアイテムの博物館に住んでいるなんて、確かにヤバい人だ。ヤバくて凄い人だ。
「是非お願いします!」
元気に答えたけど、なんだか周りが静かになったような。ん、気のせい?
「あー、ブンプクさん。その時はお手柔らかにね?」
師匠が遠慮がちに釘を刺す。ん? ん? どういうこと?
「やだな~~。ナゴミヤ君は心配性で~~。新人さんを困らせるようなことしないよ~~。ね~~、みんな~~?」
ブンプクさんは不満そうにそう言ったけど、誰も返事を返そうとしない。というか目を合わせようとしない。これは危険な予感。少々早まったかもしれないぞ。
だれもブンプクさんに返事を返さないでいると、ブンプクさんはすくと立ち上がって向かいに座っていた赤ずきんちゃんのリンゴさんの所まで歩いて行った。
にゅっとリンゴさんのまえに横から顔を突き出す。
「ね~~~、そうだよね、リンゴちゃん~~~~~?」
至近距離で横向きの笑顔を向けられたリンゴさんはのけぞり、目をそらした。
「う、うん」
言わされた感たっぷり。おお、怖いぞ。さっきまでの優しいお姉さん風の語尾の「~~」が、何故か今は凄く怖い。
「ほら~~、リンゴちゃんもこう言ってる。みんな大げさなんだよ~~。安心してね、コヒナちゃん~~」
「は、はい」
ぐるりん、とこっちを向くブンプクさんの笑顔に、私はそう答えるしかなかった。
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