第10話 巨鮫の進撃
「凪義……何だかワケわかんねぇけどよ、俺はお前のこと信じてるぜ」
「ああ、ありがたい」
凪義は、それ以上何も言わなかった。鯱の方も同様である。怪しげな男の
「交渉決裂、ということかな?」
「お前と交渉する気などさらさらない。僕のすべきことはただ一つ、お前の作ったくだらないサメどもを一匹残らず滅ぼすことだ」
「へぇ、凪義は自分の仲間を殺すんだね」
蓮は笑みを浮かべつつ、どこか苦々しげな面持ちをしている。まるで凪義の返答が面白くないといった風に。
「サメが仲間か、笑わせる」
「もういいよ。
海水をかき分けて、巨大ザメは突進を仕掛けてきた。巨体ながら、その泳ぎは速い。水上バイクの如き速さで二人に接近してくる。
「こいつが切り札か……」
凪義は回転刃を始動させたチェーンソーを構え、地面を思い切り蹴って高らかに跳躍した。そして巨大ザメの鼻先目掛け、真っ逆さまに落下した。
「
落下エネルギーの乗った回転刃が、巨大ザメの鼻に当たった。だがこのサメの皮膚は、回転刃を全く通さない。まるで戦車のように硬く、分厚い皮膚をしている。
刃を弾かれた凪義はサメの鼻を蹴って後方に飛び、背後の砂浜に着地した。
「やはり硬いな。一筋縄ではいかないか……逃げるぞ」
「ちっ、しゃあねぇ!」
凪義と鯱は、巨大鮫に背を向けて逃げ出した。このような巨大ザメを相手に真っ向勝負を挑むなど、どだい無理な話である。砂浜を脱し、道路を横切り、雑木林の方へと走った。
――しかし、彼らはただ、考えなしに逃走しているのではなかった。
浅瀬から砂浜に乗り上げた巨大ザメ。しかし、その動きが止まることはなかった。胸鰭を使って、地を這うようにして陸を動き回っている。木をなぎ倒し、家屋や車を破壊しながら、二人を追いかけた。
その速度は、重たい体に見合わず速かった。だがその巨体ゆえ、家屋や木などの障害物に体がひっかかると速度が鈍ってしまう。
凪義たちは細い路地に入り、そこからまた雑木林に踏み込むなどして、サメの動きを鈍らせるような進路を取っている。そのため、巨大ザメはなかなか距離を詰められずにいた。
二人が向かった先には、プロパンガスのボンベを満載した軽トラックが一台、停まっていた。
「よし、奴は来ているな」
二人は足早にそこを離れ、少し離れた場所に立っていた広葉樹の陰に身を隠した。鯱は起爆用のリモコンを固く握りながら、敵を待ち受けている。
そこに、巨大ザメが姿を現した。軽トラックごとボンベを押し潰さん勢いで、トラックの方に迫ってきている。
顎下に軽トラックの荷台が収まる距離まで、巨大ザメが接近した。丁度その時、鯱はリモコンのボタンを押した。
「ひゃっはぁ! 爆破だぁ!」
トラックの荷台に仕掛けられた爆弾が、リモコンによって起爆された。プロパンガスの誘爆によって爆発がさらなる爆発を起こし、赤い炎と黒い煙がサメの巨体をすっぽり覆い隠した。鯱は腕を大きく振り上げてガッツポーズをした。
「やったぜぇ! これでフカヒレ野郎もホトケさんよぉ!」
爆煙に包まれた巨大ザメを見て、鯱は子どものようにはしゃいだ。その顔はシャチの仮面に隠されて見えないが、きっと喜びに満ちているだろう。
流石の巨大ザメも、あの凄まじい爆風と炎に遭っては死なないはずもない。そう思えるほどの大爆発であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます