第一章 薔薇Ⅷ
「春斗~。そろそろ起きなさい。」
いつの間にか眠ってしてしまったのか、気づいたら外が明るい。
汗がベットに滲み、気持ち悪い。体がベトベトする。
「春斗~。開けるわよ~。」
男子高校生の部屋に朝から入ってくる母親ほど怖いものはないだろう。
母はノックもせずに部屋へと入ってくる。
「いつまで寝てるの?昨日露に勉強教えたからって、、春斗?」
「おはよ。」
僕は清々しさとは程遠い気分で起きる。
きっと青ざめた顔をしていたのだろう。母は心配そうな瞳を僕に向けた。
「ちょっと大丈夫?体調悪いの?」
先ほどまでの図々しさが嘘のように心配している母を見ると、部屋に入ってきたことを許せるような気がした。
そもそも僕を起こしに来てくれたのだ。僕が怒るのはお門違いだろう。
「いや。大丈夫。すぐ支度するよ。」
そう言ってベットから体を起こすが、まっすぐ歩こうとした自分の意識に反し
足がふらつく。
やはり体調がいいはずなかった。
「やっぱりしんどいんじゃないの?今日は休んだ方が、、」
「昨日、露に勉強を教えた後、ちょっと勉強してたんだよ。それで夜更かししちゃったから。本当に大丈夫だよ。」
少し苦しい言い訳な気もしたが、不要な心配はかけたくなかった。
それに僕の体調が悪いことを露が知れば、両親に昨日のことを告げ口するだろう。
それだけは避けたい。
「まぁ。無理はしないでね。それに学校行ったとしても、授業中に寝たら意味ないわよ。」
「わかってるよ。」
下で待ってるわね、そういって母ははにかむ。
こういう察しの良さとやさしさには助けられる。母親は偉大といった人もこういった経験をしたのだろうか。やはり母は偉大だ。
といっても体調が悪いのには変わりない。
シャワーを浴びれば気分も良くなるかと思った。が、汗のうっとうしさが流れただけだった。
顔、結構ひどいな___
脱衣所の鏡には青白い顔が映り、自分が思っているよりもずっと顔色が悪かった。
これなら母が心配するのも仕方ない。
ふと昨日のことを思い返す。薔薇が生えているときは間違いなく激痛だが、抜いた後に痛み続いたことはなかった。
太い注射器を容赦なく抜くようなこれまでの痛みとは違い、昨日は流れる血管や靭帯そのものを引き抜いているような、そんな痛みだった。自分でもよく分からない。
考えるのはやめよう。意識すればするほど痛みも強くなる。
つべこべ言わず学校に行く準備をすることにした。とりあえず、制服に袖を通せばその気になるだろうと、億劫な体を動かせ、髪をふいた。
いつもはなんの気なしに上がる階段が、部屋までの足取りが、長く重く感じた。
部屋に着き、ある程度の支度を済ませたものの、一向に体調が良くなることはなかった。
露には悪いことしたな______
今朝の母親の反応から、昨日のことを話していないことは分かったが、親切心を踏みにじってしまった負い目を感じていた。
リビングに向かうと、父と露が既に朝食を食べ終わっているところだった。
「お、お兄ちゃん!おはよう!」
いつもだったら目もくれない無愛想な妹が、こちらに向かって気まずそうに挨拶をする。
完全に目が泳いでいた。僕の負い目を返せ。
「露は朝から元気だな。うん!父さんそういうのいいと思うぞ!おはよう!!」
「あ、うん。おはよう。」
そんなこと露知らず、父はいつも通り朝から元気だった。いつもは鬱陶しいくらいに熱い人だが、今日は救われた気がした。
僕は軽く朝食を済まし、一刻も早く学校に向かうことにした。
気が変わったり、体調が悪化したりして、鈍感な父親にも体調が悪いことがバレてしまっては面倒だ。
こんがりと焼けた美味しそうなトーストを口に押し込む。焼けたパンのいい香りが、今日だけは焦げていた感じがした。
結局、朝食はまともに取れなかったが、少しだけでもお腹に入れれたので良かったと思い、足早に玄関へと向かう。
「春斗!行ってらっしゃい!体調悪かったら直ぐに電話しろよ!父さんが迎えに行ってやるからな!」
「そうよ〜。母さんもすりおろしリンゴ作ってあげるからね。特別にはちみつも入れちゃうわよ〜。」
「母さん。すりおろしリンゴはもういいよ。子供じゃないし。」
「あっ!待ってお兄ちゃん!私も一緒に行く!」
かなわないな、______
2人は笑顔で僕たちを見つめていた。
体調は最悪と言っていいほどだったが、気分は少し楽になった。
「行ってきます。」
少しはにかんだ表情で、ドアノブに手をかけた。
家族だけにはこの秘密は知られちゃいけない。そう決心した。
貴方を思う僕の気持ちは花になって消えない 海崎 蓮 @Sea_kairen
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