第百三話 うなりを上げる迷采配

国際標準時 西暦2045年9月7日8時35分

高度魔法世界第4層

南部戦線 日仏連合主力 仮設基地 臨時ヘリ発着場



『なにトロトロしてんだお前ら!!!

 人類同胞の危機だぞ!

 1分1秒の遅れが人類戦線崩壊を招くと知れ!!

 さっさとヘリに乗り込め!!

 Hurry! Hurry!! Huuuuurrrrrrrrrryyyyyyyyy!!!

 ケツにNOFE22式燃料気化爆弾叩き込まれてぇのかっ!!!?』


 地球人類南部戦線総司令官である日仏連合指導者トモメ・コウズケの絶叫じみた怒鳴り声が響き渡る。

 日仏連合の仮設基地には、有人無人を問わず急遽かき集められた100機を超える各種ヘリコプターが、メインローターを回転させながら作戦開始の時を今か今かと待ち構えていた。

 乗り込むのは日仏連合主力と行動を共にしている南部戦線全参加国90ヵ国137名の探索者達、軍団運営に支障がない範囲で抽出された18体の従者ロボ部隊。

 総司令官であるトモメ・コウズケが共に乗り込み、直接指揮を執る人類屈指の精鋭部隊。


「トモメさん、今日は珍しくキレてるな」


 既にヘリへ乗り込んだ探索者達が、現在進行形でキレ散らかしている自分達の司令官を物珍しげに眺める。

 彼らは一昼夜に渡る攻勢作戦を終えて休んでいたところ、突然人類愛に目覚めたトモメ・コウズケの号令により、再度叩き起こされて動員された。

 それに思うところがないわけでもない彼らだが、完全に覚悟がガン決まったトモメ・コウズケを前にして、一言の愚痴すら残すことなく己の心の奥底に永久封印した。

 

「ハナ・タカミネが迷子らしいぞ」

「やっぱりそんな理由だよね。

 トモメさんが人類愛に目覚めるとかありえないもん」

「だよな。

 俺はトモメさんが日仏以外の人類滅亡計画を立てていても不思議には思わないぜ」

「流石にありえないでしょ!」

「だよな!」

「HAHAHA!!!」


 彼らは知らない。

 人類バラバラ化計画の存在を。

 まだ、地球人類は誰も知らない。

 計画発案者兼実行者のたった一人を除いて。


『全員乗ったな!!!?

 ヨシッ!

 乗ったな!!?

 たぶん乗った!!

 乗り遅れた奴はチャリで来い!!!

 全機作戦開始!

 同胞を救いに行くぞっ!!

 燃費は無視してかっ飛ばせっっっ!!!!』







国際標準時 西暦2045年9月7日8時41分

高度魔法世界第4層

北部戦線 前線周辺



「ヘイヘーイ!

 これは完全に迷いましたねー!」


 硝煙の臭いがくすぶる荒れ果てた荒野にて、日本の探索者であり渦中の人となった高嶺華は困ったように周囲を見渡した。

 南部戦線にいる日仏連合主力から20km近く離れた北部戦線の近辺。

 途中には河川も存在する。

 目指していたわけでもなく、どうやってここまで来たのかは謎だが、迷子の高嶺華は北部戦線近くにまで辿り着いてしまっていた。

 

「しかもぐんまちゃんに渡された無線機も無くしちゃいましたねー。

 これは後で怒られるやつですよー……」


 実は彼女の腕についている端末にも通信機能が搭載されているのだが、すっかりその存在を忘却の彼方に置いている高嶺華。

 彼女にしては珍しく、語尾を伸ばした戦闘モードでありながらも自身の失態に少し落ち込んでいた。

 実際のところ、相棒兼保護者である上野群馬は彼女に対して激甘なため、迷子や無線機紛失程度では嫌な顔一つしないだろう。

 そもそも日本全国に応じ放映されている状況下で、総理御令孫を叱れるほどに上野群馬は大物ではない。

 

―― 挽回すれば良い ――


 落ち込む高嶺華に彼女の直感がささやいた。

 時々正論で主人である高嶺華を攻撃してくる直感だが、基本的には彼女の側に立った意見を述べる。


「簡単に言ってくれるじゃないですかー……」


―― 右斜め前方へ目を向けるべし ――


 実直な性格の高嶺嬢は、時々彼女を裏切る直感の言葉に素直に従った。


「うーん、あれはー?」


 言われた通り視線を向ければ、そこそこ大きな兵器が戦闘を行っている。

 魔界や機械帝国で見た存在ほど大きくはないけれど、大きさからしてあれが人類の兵器ではないことくらい彼女にも分かった。


―― 時は来たれり ――


―― 名誉挽回 ――

―― 汚名返上 ――

―― 捲土重来 ――


―― アレを討て ――


―― さすれがぐんまちゃんも褒めてくれる ――

―― 知らんけど ――


 最後に微妙な裏切り要素を混ぜて直感が囁いた。

 戦闘こそ高嶺華が最も得意とする所。

 己の刃により上野群馬の機嫌が直り、自身の名誉が挽回できるなら安いものである。

 そのうえ、ぐんまちゃんが褒めてくれたらとても嬉しい!


「ヘイヘーイ!

 テンション上がってきましたよー!」


 なお、彼女が迷子になった原因の9割は直感による迷采配である。

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