第百話 ジャパニーズTATEMAE【地図有】

国際標準時 西暦2045年9月6日20時51分

高度魔法世界第4層

南部戦線 日仏連合主力 指揮戦闘車両



 敵総司令部攻略の唯一の懸念材料だった大型機動要塞の失踪により、俺達の攻略はつつがなく終えることができた。

 総司令部とその周辺基地群はゴッソリ制圧され、貯蔵されていた莫大な魔道兵器や貴重な技術資料が日仏連合主導で接収された。

 現在進行形で高度魔法世界軍主力と激戦を繰り広げている同盟や連合には悪いが、日仏連合率いる南部戦線組が見事に漁夫の利を決めたわけだ。

 高度魔法世界が主担当のはずなのに、大型機動要塞に押されっぱなしで戦線後退を余儀なくされている同盟。

 包囲殲滅したいのに4体の敵ガンニョムに邪魔されて、なかなか包囲を閉じることができず戦線を延々と伸ばしている連合。

 彼らから南部戦線組の各国がどう見えているのかは推して知るべし……!


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 今のところ北部と中央の両戦線からは、失踪した敵大型機動要塞の再発見報告は流れて来ていない。

 南部戦線からは偵察機を出さずに戦線付近の哨戒で済ませているので、行方不明となった敵大型機動要塞の消息は未だ不明ということになっている。

 いつから動き出していたのかは流石に分からないが、北部戦線で確認されている敵大型機動要塞の移動速度を考えると、案外まだ味方戦力との合流ができていないだけなのかもしれない。

 どこの戦線に顔を出してくれるのか楽しみだね!

 

「……グンマ、第5師団第11戦車連隊の補給と簡易整備が完了しましたわ。

 探索者達は休憩中ですが、無人兵力はいつでも行けますわよ」


 まあ、そんなことはどうでも良い。

 今、俺達日仏連合率いる南部戦線主力の前に広がるのは、ほとんど敵のいない地平線。

 制圧されるのを今か今かと待っていてくれる敵の前線基地が眠る大地。

 折角南部戦線として90ヵ国全員で動いていることだし、人類バラバラ化計画の為にもここは一丁、更なる漁夫の利を貪欲に求めていきたいね!

 みんなで同盟と連合のヘイトを大人買いしようぜ!!

 

「今日のトモメ殿は張り切っているでござるなぁ」

「ぐんまちゃんが頑張るなら私も頑張っちゃいますよー!」


 休憩のために一旦合流している高嶺嬢と白影が、夕食のレーションをつっつきながら戦意を新たにする。

 南部戦線快進撃の中核は間違いなくこの二人だ。

 彼女達さえいれば、うっかり敵大型機動要塞とエンカウントしても余裕で対処できる。

 

「そろそろ連合の顔を立てて差し上げた方がよろしいのでは……」


 総司令部を漁夫の利で制圧という連合の面目丸潰れという現状に思うところがあるのか、公女が遠慮がちに口を開く。

 国際協調って奴ですね。

 悪い言葉です。


「敵と決死の戦いを行っている味方を援護することこそ最優先だよ。

 面子なんて命さえ残っていれば何とでもなるさ。

 それに北部戦線の後退が続いている。

 きっと苦戦しているんだろう。

 今は彼らを救うことに集中しよう」

「ジャパニーズTATEMAEですわね」


 





国際標準時 西暦2045年9月6日21時27分

高度魔法世界第4層

北部戦線 人類同盟コロンビア級戦略原潜2番艦 作戦司令室



「報告、南部戦線日仏連合、進撃を再開した模様。

 北部戦線後方の敵前線基地施設が目標だと推測されます」


 その報告を聞いた人類同盟指導者エデルトルート・ヴァルブルクは、思わず目を閉じて眉間を揉んだ。

 北部と中央に敵の主力を押し付けた日仏連合が、敵の総司令部と周辺基地群をまるまる呑み込んだことは予想の範囲内だし、その後の動きも想定されていたものの一つである。

 しかし、だからと言って精神的に何の負荷もないわけではない。

 順調に戦線を押し上げていた人類同盟の進撃を阻んだ要因である敵大型機動要塞。

 同盟が誇る決戦兵力であるガンニョムと強化装甲を中核に主力部隊で迎撃しているが、その結果は芳しくない。

 巨体相応のぶ厚い装甲と直掩についている敵ガンニョム4機に阻まれて、未だ有効打を与えられずにいた。

 こういう時、どんな相手でも確実に息の根を止める戦力を有している日仏連合が羨ましくなる。

 やはり魔界第2層でのアルベルティーヌ離脱が痛いと一瞬思ったが……

 

「……いや、結局アレも奴が育てたようなものか」


 今では敵ガンニョムを単独で撃破し、人類屈指の戦力となっている彼女だが、もしも同盟に留まっていたままだったのなら、ここまで成長できたのか怪しいものだ。

 

「せめてウチのへっぽこの腕前が並み程度だったらな」


 敵ガンニョムを性能面では圧倒しているはずなのに、何故か互角かそれ以下の戦いを見せてくれるガンニョムパイロットのフレデリック・エルツベルガー。

 自分と同じドイツ人であり、本来ならば頼りにすべき存在なのだろうが、エデルトルートにとっては悩みの種でもある人物だ。

 驚異的な性能を持つ特典ガンニョムに、さらに数百億$の追加兵装を装備させているの言うのに、どういうわけか格下の敵に苦戦する驚異的な操縦技能を持っている。

 その戦闘風景は、エデルトルートに自分が代わりに乗って操縦した方が強いんじゃないかと思わせるほどだ。

 そして驚くべきことに、同様の想いは同盟所属の全探索者が心の内に秘めている。


「はぁ……

 たまには朗報が聞きたいものだな」


「報告、現在戦闘中の敵大型機動要塞の後方18kmの地点に、2機目の大型機動要塞らしき敵影を確認。

 進行方向から、戦闘中の敵大型機動要塞との合流が目的と推測されます」


 エデルトルートは両手で自身の厳めしい顔を覆った。

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