第百一話 同胞との合流
国際標準時 西暦2045年9月7日1時11分
高度魔法世界第4層
中央戦線 国際連合前線基地
日付が変わった時刻にもかかわらず、国際連合前線基地の司令部施設は煌々とした灯りで満ちていた。
その中の一室では、国際連合元首アレクセイ・アンドーレエヴィチ・ヤメロスキーが最新の戦域図を前に思案に耽っていた。
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高度魔法世界の決戦兵器である大型機動要塞は合流に成功し、人類同盟主力との戦闘を継続している。
同盟軍の戦線は既に基地として使用している原子力潜水艦まで後退しており、これ以上の戦線後退はダンジョン戦争初の原潜喪失を意味していた。
同盟は空爆と砲撃の飽和攻撃により敵大型機動要塞の進撃を止めようとしているが、単独の時ですらそれに失敗しているのに合流してしまった今となっては、同盟の作戦が成功する確率は低いだろう。
追い詰められていく同盟指導者の顔面凶器を思い浮かべ、アレクセイの口角が思わず吊り上がった。
「これが愉悦か」
「……?」
思わずこぼした言葉に、同席していたブラジル連邦探索者ケイラ・デ・デボラ・ロドリゲスが反応する。
しかし、アレクセイはそれを気にすることなく、視線を戦域図に向けたまま動かすことはなかった。
先ほどは同盟側の作戦成功率を低いと評価したが、実際問題、戦略原潜陥落による周辺地域への放射能汚染、最悪の想定である敵による弾道弾の奪取を考えると、他の勢力がそれを許さないはずだ。
アレクセイの視線が戦域図における東部全てを制圧した勢力に向けられる。
名称としては南部戦線だけど、もはや東部戦線と呼称した方が良いだろう。
日仏連合はガラ空きとなっている高度魔法世界軍主力の後背で、巨大な戦力を配置していた。
既に高度魔法世界の飛行場は全て日仏連合によって制圧済みであり、敵の航空支援が消滅したことで各地の人類軍はさらに有利な条件で戦闘を行えるようになった。
トモメもたまには良いことをする。
制空権確保のための戦闘機を爆装させ、地上支援に全力を注げるようになったことは大きい。
敵の戦闘機に対し脆弱なヘリ部隊が自由に戦場を飛行できるようになり、戦術の幅も大きく広がった。
「そろそろ頃合いでしょうか」
主語が抜けたケイラの言葉が、思考と合致してアレクセイは思わずうなずいた。
国際連合は敵戦力の完全包囲は達成できていないものの、半包囲は完成していると言って良い。
包囲下には4体の敵ガンニョムが囚われており、24時間以上続く連合側の積極攻勢の甲斐もあって、敵軍の疲労も溜まってきているだろう。
疲れを知らない無人兵器で構成された地球人類軍と違って、高度魔法世界軍は全て生身の兵士だ。
生身の兵士にとって、疲労という要素は大きい。
この状況下で航空戦力のフリーハンドを得た今ならば、一斉攻勢によって包囲を閉じてしまえる可能性は低くないはず。
戦果を横取りされるおそれのある日仏連合主力と連合の主戦線とは距離もある。
連合を敵視する同盟は敵大型機動要塞にかかり切り。
連合は安心して目的を果たせるだろう。
正に頃合いだ。
「決戦だな」
国際連合の悲願、特典持ち探索者に匹敵する戦力の獲得。
アレクセイとケイラの視線は、戦域図に投影された4体の敵ガンニョムに注がれた。
国際標準時 西暦2045年9月7日4時39分
高度魔法世界第4層
北部戦線 前線
『一切の出し惜しみをするな。
あらゆる手段をもって迎撃しろ』
人類同盟指導者エデルトルート・ヴァルブルクの司令は単純にして明快だった。
その言葉にアレクセイ・アンドーレエヴィチ・ヤメロスキーのような、有無を言わさぬ強制力はない。
その言葉に上野群馬のような、神がかった戦術性は見出せない。
しかし、戦場にいる全ての探索者が理解し、目的を共有させるには十分だった。
人類同盟は保有する全ての航空機を爆装させた。
戦闘機には誘導爆弾をペイロードギリギリまで搭載し、輸送機の貨物室には巨大な燃料気化爆弾が積み込まれた。
戦場の空はヘリと航空機によって覆い尽くされ、その火力は全て地上を我が物顔で占有する大型機動要塞に注がれる。
野戦重砲、戦車砲、迫撃砲、ロケット弾、対戦車ミサイル。
あらゆる火砲が大型機動要塞に砲口を向け、ありったけの砲弾を叩き込む。
人類同盟による決死の迎撃戦は夜を徹して行われ、夜明けの時刻が近くなっても止まることなく継続する。
しかし、敵の進撃が止まることはなかった。
やがて東の空が白み始めた。
極東の空には黄金の太陽が眠りから覚めようとしている
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