第九十九話 禁断の武器、エルフソード

『ヘイヘーイ!

 全員まとめてケツバットですよー!』


 弾幕を展開する敵のトーチカへ向けて、高嶺嬢はそのセリフと共に敵の大型戦車を叩きつけた。

 トーチカのべトンが粉砕し、戦車の装甲が無残に潰れ、次の瞬間には各々の内部に搭載されていた弾薬と燃料が起爆して木端微塵こっぱみじんに吹き飛んだ。

 重厚無比の永久陣地だった高度魔法世界第4層における敵の総司令部。

 そこは今、降臨した人類最強のヒト型決戦兵器である高嶺嬢の手によって、血と煤に塗れた産廃置き場と化していた。


「ワぁ……ア……たった一人で陥落させてますわぁ……」


『全員あうとー!』


 指揮戦闘車のモニターには、ズラリと並んだ要塞砲塔を高嶺嬢が駆け抜けながら撫で斬りしている映像が映っている。

 映像の端々に映るエルフや獣人といったファンタジーにお馴染みの存在、その肉体の欠片。

 末期世界の天使達もそうだけど、やっぱり人型の敵はグロイよね!

 高嶺嬢はこれの大量生産は平気なのに、なんでタルの中身如きが駄目だったんだろう?


「あっ、敵総司令部と周辺基地群の半包囲が完了しましたわ」


 既に包囲対象は手綱の切れた決戦兵器によって蹂躙されているのだが、命令を忠実に実行する従者ロボ達は、律儀にも俺が指示した半包囲陣地を完成させたようだ。

 本来ならば彼らの仕事は十分過ぎるくらいには速い。

 人間の手ではどうしてもここまでの速さで陣地構築は無理だろう。

 しかし、高嶺嬢の前では全てが遅すぎた。


https://img1.mitemin.net/ha/zg/bns9gvygj1oneru4a0r5ar852x3t_ys1_1d1_16t_9tz9.jpg


 敵の司令部施設は既に崩壊しており、その機能を完全に停止していた。

 事前に遠距離砲撃や空爆でダメージを与えていたとはいえ、あまりにも呆気ない陥落だった。

 

「これで本当に終わりですの……?」


『ぐんまちゃーん!

 見てますかー?

 ぐんまちゃーん!!』


 今もなお放映を続けているグロ映像から視線を逸らした公女が、敵の手応えのなさに思わず疑念を抱いたようだ。

 それに関しては俺も同感である。


「こちら群馬、高嶺嬢へ。

 見てるよー」


 確かに先走った高嶺嬢によって敵の総司令部は陥落したが、彼女がどれだけ屍を積み上げていても階層攻略の通知は一向に届く様子がない。

 敵の作戦司令部らしき区画は血の海に沈んだし、高級将校の住居区画は建物ごと叩き斬られている。

 基地から脱出する航空機や車両は捕捉次第、全て撃破してきた。

 ここまでやれば階層ボス役の敵総司令官も流石に殺害できているはずだろう。

 それにもかかわらず、階層攻略の通知が端末に届かないということは、元からこの総司令部には階層ボスがいなかったということだ。


「それを確かめるために、白影と従者ロボに周辺を探らせているよ」


 そもそも俺は敵の大型機動要塞が、この地に秘匿されていると考えていた。

 今までのパターンを思い出しても、それは間違った予想ではないと思う。

 だったら何故、高嶺嬢によってここまで惨たらしい惨状が作り出されているというのに、敵の決戦兵器である大型機動要塞は姿を現せないのか。

 違和感。

 おそらく、俺達は大事なものを見過ごしている。

 機械帝国の全高2000mの超大型機械兵や末期世界の直径500mの空中要塞と比べれば、高度魔法世界の大型機動要塞は些か見劣りする。

 前者が4層で1個しか存在しない超兵器だったら、力関係的に大型機動要塞は2、3個存在しないと戦力的に釣り合わない。

 確実にこのダンジョンには同盟とバトっている奴の他に、最低もう1個、同格の超兵器が存在しているはず。

 そしてその配置場所は、このダンジョンにおける最奥部の総司令部であるはずなのだ。


『これが本場のタイキックですよー!』


 先祖代々日本国籍の大和民族である高嶺嬢が、タイ王国を差し置いて本場を自称するタイキックを巨大な列車砲にお見舞いしていた。

 2本の線路を占有していた全長50m近い大きさの列車砲は、身長158cmの高嶺嬢のタイキックにより、その巨体をひしゃげながら放物線を描いて飛んでいく。

 途中でへし折れた長大な砲身が、クルクルと空中で回転しながら幾棟もの基地施設を削り倒して大地に突き刺さる。


「もはや災害ですわね」


 本場を自称するタイキックによって、次々と蹴り飛ばされる敵の巨大兵器群を見ながら、公女が諦観の籠ったため息を吐いた。

 

「物理法則の超越っぷりがすごいよね!」


 高嶺嬢の無双風景に慣れた俺だが、今回の連続タイキックは是非とも生で見たいと思わせる大迫力映像だ。

 最近は俺も軍を指揮することが増えて、高嶺嬢と一緒に探索することがめっきり減ってしまったけれど、初心に帰って同じ戦場に身を置くのも良いかもしれないな。


『――こちら白影、トモメ殿、応答願いつかまつる』


 おっ、白影からの無線だ。

 何か見つけたのかい?


「こちらトモメ、白影、どうした?」


『大規模な掘削跡地を発見。

 土の具合から見て、数日以内に掘り起こされているように見えるでござる』


 白影から送られてきた地点情報を、白影同様に探索を命じている従者ロボに送ると、さしたる時間もかからずに到着した無人偵察機による映像がモニターに映し出された。


「これは……!?」


『覚悟してくださーい!

 エルフソードは容赦しませんよー!』


 映像を見た公女が、思わず隣のモニターに映し出されている、高嶺嬢によって美麗なエルフの頭蓋が脊髄ごと引っこ抜かれる光景を目にしてしまった。

 そして高嶺嬢は常人では理解できない思考の果てに、エルフの脊髄をエルフソードと名付けて振り回し始める。

 耳以外は人間の美男子と変わらぬエルフが受ける尊厳凌辱の拡大映像に、予期せぬSAN値チェックを見舞われた公女が硬直する。

 

「よくやった白影、これを見つけたかった」


『ふふん、拙者はまたもや主の役に立ったでござるな!

 これぞ拙者の忠義にござる!』


 モニターに映し出された超巨大なナニカが地面から抜け出した跡地。

 今もなお高嶺嬢がエルフソードで暴れながら、高度魔法世界の残存兵と90ヵ国の諸国民にトラウマをお届けする総司令部の近隣で発見したその場所。

 それは間違いなく、2基目の大型機動要塞が出現した跡だった。

 

『ああー、エルフソードがー!?

 ですが負けませんよー!

 出でよ、ワンワン脊髄剣!』


 戦闘に熱が入って強く握り過ぎてしまったために、持ち手の頭蓋が粉砕されたエルフソードをポイ捨てした高嶺嬢。

 彼女が近くにいた犬耳の生えた犬型獣人の頭部を掴むと、冒涜的なセリフと共に再び脊髄ごと頭を引っこ抜いた。


『トモメ殿、もっと褒めて欲しいでござる!』


「流石だな白影、惚れ惚れしちゃうぜ!」


 既に姿を消した2基目の大型機動要塞。

 その跡地からは巨大な足音が、西へ向かって続いていた。


『ああー、ワンワン脊髄剣がー!?』

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