第九十八話 タイキックの爪痕

国際標準時 西暦2045年9月6日09時00分

高度魔法世界第4層

南部戦線



 大型機動要塞出現による人類同盟の戦線後退から一夜明け、戦況は沈静化することなく逆に激化の一途を辿っていた。

 北部戦線では同盟の迎撃も空しく、大型機動要塞の進撃はとどまる様子も見せず、同盟の戦線はさらに後退している。

 しかし、一部の戦線では状況打開のために夜を徹した攻勢が行われており、北部戦線全てで同盟が劣勢というわけではないようだ。

 むしろエデルトルートのことだから、この際に敵の大型機動要塞の鹵獲を考えていても可笑しくはない。

 また、中央戦線では引き続き攻勢が継続中であり、国際連合は順調に一部戦線を前進させていた。

 しかし、高度魔法世界軍が慌てて2体のガンニョムを援軍として派遣した為、その進撃は今朝にかけてやや鈍り始めている。

 ここからの展開は連合の地力が試されるだろう。

 彼らが思惑通り敵ガンニョムを鹵獲できるのか、アレクセイのお手並み拝見といこうじゃないか。

 そして見事なまでにスッカスカの俺達日仏連合と愉快な仲間達が担当する南部戦線。

 どうせ敵総司令部周辺にもう一体くらい大型機動要塞が隠れているのだろうけど、高嶺嬢と白影がいる以上、恐れるほどのものでもない。

 総司令部には魔石もたんまり貯蔵されているだろうし、ここでわざわざ同盟と連合の準備が整うまで待つほど俺は我慢強くない。

 同盟も連合も、それぞれの目の前にある問題を処理するのにまだ時間はかかりそうだし、南部戦線での再攻勢はもう少し戦況が進んで、敵が隠している切り札を払拭させてからが良いのだろうけど……

 どうぞお食べ下さいとばかりに差し出された御馳走大戦果に、慎み深いと自分では思っていたのだが、俺は自身のスケベ心を抑えることができなかった。

 他の戦線が一生懸命に敵の主力と戦ってる中、ファニーウォーで楽してる南部戦線がこんな良い所取りみたいなことをして少しだけ良心が痛みますが……

 敵総司令部とその周辺基地群、デザートに大型機動要塞、お土産に敵の技術資料、貯蔵兵器、その他諸々、膨大な魔石はプライスレス。

 日仏連合がゴチになります!!!

 ヒョー!!

 たまんねぇ!!


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国際標準時 西暦2045年9月6日09時00分

高度魔法世界第4層

南部戦線



「敵主力と激戦を繰り広げる他の戦線に対し支援攻勢を行う」


 日仏連合指導者上野群馬はその宣言の下、南部戦線に展開していた日仏連合主力5個機甲師団と麾下諸国90ヵ国137名の探索者に北進を命じた。

 

「敵の司令部施設に攻撃を行い、指揮系統を混乱させる」


 目標は高度魔法世界総司令部とその周辺基地群の制圧。


「今もなお、他の戦線では戦友達が決死の戦いの最中にある」


 想定される進路上の現在確認できている敵戦力は、僅か2個連隊。


「南部戦線に展開する全軍に命じる、前進せよ」


 他の戦線に展開する敵主力の1割にも満たぬ戦力を相手に、上野群馬は人類最強のヒト型決戦兵器と人類最速のNINJAを真正面から叩きつけた。


「地球人類は諸君の奮戦を期待する」


 700両近い砲戦車両による効力射を開戦の号砲とし、前線に展開していた敵1個連隊の半数を吹き飛ばして、南部戦線の攻勢が始まった。




国際標準時 西暦2045年9月6日11時06分

高度魔法世界第4層

南部戦線 前線



 どこまでも広がっている殺風景な荒野の風景は見慣れたものだけど、今はその地で1500両を超える多脚式戦闘車両が一軍となって蠢いていた。

 上空には制空権確保のための戦闘機、地上支援のための爆撃機と攻撃ヘリが、轟音と共に編隊を組みながら作戦空域を旋回している。


「攻勢中の全部隊に通達。

 もうすぐ敵総司令部の周辺基地群が見えてくる。

 北部戦線で確認された大型機動要塞の出現も予想されるだろう。

 くれぐれも慎重を期すように、だが速度は落とすな。

 進撃せよ、進撃せよ、進撃せよ。

 全てを蹂躙し、戦場を駆け抜けろ」


 俺が無線機でそう伝えると、周辺の車両に分乗している探索者達が、車体から身を乗り出して各々の武器を突き上げた。

 後方に展開する自走砲とMLRSは、今もなお絶えることのない効力射を進路上にある敵基地群に叩き込み続けている。

 敵の航空戦力は所詮第1世代戦闘機程度の戦力であり、直掩の戦闘航空連隊によって攻勢開始1時間を待たずに空から姿を消されていた。

 空で自由を得た爆撃機は、後方の飛行場と敵基地群を往復しながら爆撃の雨を絶やさない。

 たまに発見する敵の防衛戦力は、地上の多脚戦車が接触する前に攻撃ヘリが殲滅していく。


「進撃が速すぎますわ!

 本当に敵司令部を今日中に陥落させるつもりですの!?」


 俺と共に指揮戦闘車に乗る公女が、時速60kmで走る多脚式車両の揺れに耐えながら、性急な進撃に抗議してくる。

 確かに速いけれど、スカスカの敵戦力を考えれば無茶な速度というわけでもないだろう。

 しかも主力を一塊に運用しているから、常に正面の敵へ全軍の火力を集中できる。

 従者ロボによって高度に完成された最新鋭の機甲軍団による全軍突撃を止められる戦力は、高度魔法世界にはほとんど存在しない。

 大型機動兵器にしても、高嶺嬢と白影をセットでぶつければ勝てないわけがない。


「問題ない。

 そのための陣形だ」

「うぅ、ですが……」


 公女には事前にこの作戦のことは伝えてある。 

 彼女も勿論理解はしているのだろうけど、1個軍団規模では前代未聞な進撃速度に少しビビり気味だ。

 そんなことだと、また今朝みたいに白影からあうとーって言われてケツにタイキックかまされちゃうよ?

 俺の考えを察したのか、公女が自身のケツをサスサスとさすり始めた。

 

「車両の振動が響きますわ……」

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