第九十三話 熱き決闘

国際標準時 西暦2045年9月5日17時03分

高度魔法世界第4層

南部戦線 日仏連合仮設前線基地 食堂用コンテナ



「――私のターン!

 私は手札から儀式カード『踏み台公女』を発動!

 手札の『ベネルクスの宝石』、フィールドの探索者『ルクセンブルク大公国第一公女シャルロット・アントーニア・アレクサンドラ・エリザべード・メアリー・ヴィレルミーヌ・ド・ナッソー』を生贄に捧げる。

 そして『踏み台公女』の効果により…… クックッ、出でよっ、人類最強の戦術家『上野群馬』!!」


 複数の仮設コンテナを連結させていることで、100名程度なら容易く収容できそうなほどの広さを持つ食堂用コンテナ。

 そこでは今日も日仏同盟が攻勢作戦を行わなかったことで、暇を持て余した探索者達が己と祖国のプライドを賭けた熱き決闘デュエルを繰り広げていた。

 今も、ルクセンブルク大公国ウォルター・アプルシルトンが、公女を生贄に俺を召喚していた。

 お前がサラッと墓地に捨てたカード、お前の主君だけど良いのかい?

 

「……」


 俺の隣で観戦している公女が、切なそうな表情で墓地に捨てられた己の姿がプリントされているカードを見つめていた。

 曲がりなりにも忠臣を自称する相棒による生贄扱いは、公女の心に無視できないダメージを負わせたようだ。

 彼女のチャームポイントである赤みがかった茶色のドリルヘアーも、心なしかショボショボに萎れている。


「ここで三元首クラスを出してきますか……!?

 でも、君の探索者カードは『上野群馬』1枚だけ、軍勢カードはただの『下僕小妖フワッフ』しか存在しない。

 いくら三元首と言えど、今ならただのクソ雑魚ナメクジっすね!」


 対戦相手のルワンダ共和国ステファノ・ムギシャが、自然な流れで俺をディスる。

 ステファノの言う通り、サポートカードである俺は、他のカードがフィールドにあってこそ活きてくる。

 しかし、ウォルターのフィールドには探索者カードは俺だけで、軍勢カードも肉壁としてしかまともに機能しないフワッフしかいない。

 これでは俺は本来の能力を発揮する前にワンパンでボコられるだけだろう。


「……」


 公女が無言で俺の背中をサスサスしてきた。

 なんだよ、その、妾は分かってますわって感じの顔は。

 言っておくけど、公女も多少は魔法モドキを使える程度で扱いとしては大差ないからね?


「クックッ、私は場に伏せてあったイベントカード『乗れよ公女、俺の愛機だ』を発動!

 デッキ、手札、フィールドにある『公女』と名の付く全てのカードを墓地に送り、『上野群馬』を進化!

 顕現せよ、撃って避けれる空飛ぶ総司令部『上野群馬ライドオンAC-4』!!!」

「……何…… だと……?」


 ウォルターは躊躇なく己の中の公女を全て墓地に叩き込んだ。

 遂に明かされた伏せカードの正体に、ステファノが信じられないものを見たかのように衝撃を受けている。


「……何…… ですの……?」


 公女も衝撃を受けているようだ。


「驚くのはまだ早い!

 さらに私は場に伏せてある最後のカード、イベントカード『シャルロット公女、初のスキャンダル』を発動!

 墓地にある全ての『公女』をゲームから除外し、漆黒の深淵より躍り出よっ!

 嫉妬に狂った哀しき根暗『アルベルティーヌ・イザベラ・メアリー・シュバリィー』を特殊召喚!!!」

「アルたんキタァァァ!!」

「はやい!」

「きた! 盾きた!」

「メイン盾きた!」

「これで勝つる!!」


 白影が特殊召喚されたことで、ギャラリーのボルテージが上がって一気に湧き立つ。

 俺と白影がフィールドに揃った以上、ウォルターの勝利がほぼ確定していた。

 ステファノは思わず手札で口元を隠すが、青ざめた顔色を隠しきることはできていない。

 終わったな。

 少し距離を取って後方ラスボス面で観戦していた従者ロボの美少年1号と4号のコンビが、興味を失ったように席を立とうとしていた。

 真の王者である美少女1号は別テーブルで連勝記録を更新中だ。


「……妾は」


 ゴミのようにフィールド外で山積みされた自分のカードを見ていることしかできない公女。

 俺は先ほどのお返しに彼女の背中をサスサスしてあげることしかできない。

 元気出すのだ、へけっ!







国際標準時 西暦2045年9月5日17時09分

高度魔法世界第4層

北部戦線 

人類同盟 アイスランド エルミナ・ヨハンネソン



 敵ガンニョムを孤立させ、大兵力で包囲するところまでは順調に進んでいたガンニョム捕獲作戦。

 でも、通常兵器は効かなくて、しょうがないから探索者達で攻撃しようってなったんだけど――


「――あたしっ、衛生兵なんだけどなぁぁぁぁ!!!」


 愚痴を叫びながら、こちらへ投げ飛ばされてきた装甲輸送車の残骸を、我武者羅がむしゃらに身体を投げ出して避ける。


ドゴンッッッッッ!!!


 さっきまで自分が身を隠していた墜落したヘリの残骸が、10t超えの鉄塊に圧し潰される音が凄まじい振動と共に鼓膜を打ち鳴らした。

 地面に投げ出した自分の身体が、衝撃で再び宙を舞い、土塗れになりながらゴロゴロと転がされる。


「もうイヤァァァ!!!」


 口の中に入り込んだ戦場土の苦みで吐き気がするけど、そんなこと気にならないくらい必死で身体を動かして、この場を一刻も早く離れなきゃ!

 獣のように無様な四つん這いのまま、成長したステータスによる筋力で強引に身体を前へと押し出す。

 筋力16のステータスは、そんな自身の体たらくにもかかわらず、身長208cm体重82kgのこの身体を数m前方へ放り出してくれた。

 その最中で見た敵ガンニョムは、部隊長の允儿ユナを筆頭にした10人以上の探索者達に纏わりつかれていながらも、依然変わらぬ様子で大暴れしていた。


「ウチのガンニョムオタと違って化物すぎでしょ!!」


 薙ぎ払うように振るわれたガンニョムの大型シールドを、4人の探索者が正面から受け止める。

 それぞれのスキルを発動させたのか、凄まじい速さで迫る数十tの巨大な金属塊をたった4人の人間が受け止め、一瞬の均衡を作り出してしまう。

 その隙に攻撃線上にいた複数の探索者が退避することに成功し、4人は役目を終えたとばかりにシールドの力に逆らうことなく吹き飛ばされ、空中でクルクルと回転した後、危なげなく地面へ着地した。

 少しでもタイミングを誤れば4人まとめて挽肉になっていた奇跡的な連携と防御技術。


「――私だってっっ!!!」


 それに琴線を刺激されたのか、允儿ユナが叫びながら自身にかける強化スキルのギアを一段階上げた。

 離れていてもはっきりと認識できてしまうほどの力が、允儿ユナの身体から放出される。

 やり過ぎだ。

 あれでは身体が持ってくれない。


「無茶しすぎだって!!」


 スキル『手当(魔)』『充填(魔)』『補給(気)』を允儿ユナに向けて同時に発動させる。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛、吸われるんじゃぁぁ!」


 MPとSP、自分の身体から大事なものが吸われていく感覚は、どうしたって慣れるものじゃない。

 あたしのMPとSPはどちらも18、すぐに無くなるわけじゃないけど、このペースで吸われちゃうとそんなに余裕ないよぉ!

 あたしの身体は悲鳴を上げるけど、その甲斐もあって身体強化に成功した允儿ユナは、数段階強化されたステータスで対抗20m近いガンニョムの身体を無理やり駆け上がり始めた。

 ほとんど垂直の壁を走っているようなものなのに、允儿ユナは重力を感じさせることなく、振りほどこうと暴れるガンニョムを構いもせずあっという間に頭部へと辿り着いてしまった。


「人類を舐めるなぁぁぁぁ!!!」


 允儿ユナの持つ長剣がガンニョムの双眼、その片方へ突き刺さった。







国際標準時 西暦2045年9月5日17時18分

高度魔法世界第4層

南部戦線 日仏連合仮設前線基地 食堂用コンテナ



「――馬鹿な、私の、『上野群馬』×『NINJA』×養分『公女』デッキが……!?」


 絶対王者美少女1号を前に、ウォルターが5分で膝を着かされた。


「妾、養分ですの……?」


 流れ弾がハートを直撃した公女も同時に膝を着く。

 よーしよしよし、よーしよしよし。

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