第九十四話 御夕飯のメニュー選び

国際標準時 西暦2045年9月5日17時57分

高度魔法世界第4層

南部戦線 日仏連合仮設前線基地 食堂用コンテナ



「――ヘイヘーイ、御夕飯の時間なのでカードゲームは終わりにしてくださーい」


『ハイッ!』


 長く続いた決闘者デュエリスト達の熱き戦いは、若干圧が強めの高嶺嬢からの御夕飯宣告で終わりを迎えた。

 美少女1号に挑み続けていた選ばれし決闘者デュエリストも、団体戦をしていた美少年1号~7号と☆彡魔法少女☆彡サバンナ☆ブラザーズも、最下位争いをしていたツネサブローとタタンカも、誰に言われようと決闘デュエルを止めそうにない猛者達が、彼女の一言で一斉にテーブルの上を片付け始める。

 高嶺嬢、怖いもんね。

 しょうがないね!


「今日はここまでにしてあげるね」

「はいアル姉様」


 公女相手に延々と接待決闘デュエルを受けていた白影も満足できたらしく、得意げな顔で勝たせて貰っている勝負を切り上げた。

 白影が愛用する『NINJA』×『上野群馬』デッキは典型的なファンデッキで、勝つためというより俺と白影を愛でることに重点を置いたデッキ構成だ。

 一方、公女の『NINJA』×『シウム・イサイアス』デッキは、プレイヤーへの直接攻撃と速攻に特化した殺意高めのガチ構成。

 当人達の脳みそ性能も考えれば、これで白影が鬼連勝できているあたり、頭の上がらない再従姉妹への忖度が見え見えだ。

 

「シャルはデッキの作り方が下手だから、ディナーを食べ終わったら教えてあげるよ」

「いえ、それには及びませんわ」

「遠慮しなくて良いのに!」

「遠慮ではありませんわ」

「もう、意地っ張りなんだから……」


 たぶん公女が白影から学ぶところはないと思うよ。

 






国際標準時 西暦2045年9月5日18時01分

高度魔法世界第4層

北部戦線 

人類同盟 大韓民国 李允儿イ・ユナ



『アアアアァァァァァァァァ!!』


 正面から迫る巨大な鋼鉄の拳を紙一重で避ける。

 風圧で錐揉みに吹き飛ばされそうになるのを、強化された筋力で強引に踏ん張って避けた拳に足をかけた。

 

「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 エルミナの声が響くのと同時に、消耗していた自分のHP、MP、SPが回復していく感覚がした。

 負担が消え、軽くなった脚でガンニョムの腕上をそのまま駆け抜ける。

 再び自身の頭部へ駆ける私を振り落とそうとするが、それは飛来した複数の矢玉によって妨害された。

 援護射撃、ありがたい……!


「はああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 既に片方しか光が灯っていないガンニョムのカメラアイと視線がかち合う。

 私を敵と明確に認識している無機質な機械眼には、光り輝く聖剣片手に腕を駆け上がってくる私の姿が映っている。

 






国際標準時 西暦2045年9月5日18時16分

高度魔法世界第4層

南部戦線 日仏連合仮設前線基地 食堂用コンテナ



「今夜の日替わり定食はナンとキーマカレー定食か」

「美味しそうですよね、ぐんまちゃん。

 ちなみに私は麺の山菜うどんにします!」

「それも美味しそうだね」


 夕食を提供する43式野戦調理システムの前にできている列に並びながら、高嶺嬢達と今日の夕食選びを悩む。

 高嶺嬢はベジタリアンやイスラム教徒向けメニューを兼ねている山菜うどんにするらしい。

 俺はもうちょっとガッツリしたのが良いかな。


「拙者はチキンステーキとパンのセットにするでござる」

「洋食も良いよね」


 白影は洋食か。

 43式野戦調理システムの調理機能は、本格石窯パンやピザすら焼いてしまうのだから驚きだ。

 他国の探索者達もまさか野営中の夕食で本格石窯パンが出てくるとは思っていなかったのだろう。

 初めて日仏連合の仮設基地で食事をした探索者から頻繁に驚かれることの一つだ。


「妾は鯖味噌定食にしましてよ。

 それとグンマ、のむヨーグルトも所望しますわ」

「公女って意外と渋いよね」


 公女からは白影の誕生日騒動以来、頻繁にのむヨーグルトを要求される。

 上毛の民のソウルドリンクを随分と気に入ってくれたようだ。

 今度一緒に上毛かるた朗読会しようぜ!


「ぐんまちゃんは何にするんですか?」

「うーん」

「拙者と洋食ペアフードがおススメでござる!」

「のむヨーグルト楽しみですわ」

「ちょっと黒いの、ぐんまちゃんに自由に選ばせてあげてくださいよ」

「拙者はおススメを言っただけでござる」

「それ、束縛してるみたいです」

「失礼なっ……白いのこそ、先ほどからトモメ殿に近づきすぎでござる」

「一緒に並んでるんだから、これが普通です!」

「のむヨーグルト……」


 43式野戦調理システムの提供スピードはすさまじく、100人以上の探索者が並んでいたというのに、数分でもう俺達の番が近づいてきてしまった。

 気持ち的にはカレーに傾いているんだけど……


「おう、腹黒!

 今日のカレーは福運たっぷりだぜ!」


 ツネサブロー……!

 ツネサブローじゃないか!

 銀髪ソフトモヒカンが今日も素敵だね!


「じゃあナンとキーマカレー定食しよっと」







国際標準時 西暦2045年9月5日18時22分

高度魔法世界第4層

北部戦線 

人類同盟 大韓民国 李允儿イ・ユナ



『アッアッアッ!!』


 高度魔法世界が誇る決戦兵器ガンニョム、圧倒的な暴力の化身である白亜の巨人は、両眼のカメラアイを潰され、至る所の装甲板が剥がれているにもかかわらず、その武威は些かも衰えさせかった。

 アクチュエーターが破損したのか、片腕こそ既に大型シールドを持つことができず垂れ下がったままだ。

 しかし、もう片方の腕で大型の長剣を振り回して、探索者達を近寄らせることなく一進一退の攻防を繰り広げている。


「クックック、随分と苦戦しているようだなぁ……!」


 既に太陽は地平線に沈みかけ、夕日に照らされてオレンジ色に染まった戦場に、酷く見下したような男の声が響き渡った。


「夜になる前に決める!

 地球人類の未来がかかっている!!

 諦めるな、死力を尽くせ!!!」


 しかし、決死の覚悟で戦っている探索者達に、そんな言葉を聞いている余裕はない。

 戦場に新たに表れたピンク色のキノコヘアーな男の声は、見事に無視された。


「クックック、助力が欲しいか?

 我が力でお前達に勝利を授けてやろうか……?」


 だがそんなことで挫けるほど、男の心は繊細ではない。

 戦場で散々迷った挙句、作戦地域に数時間遅れでようやくたどり着いた男、大韓民国、朴敘俊パク・ソジュン

 彼はおもむろにガンブレードの銃先つつさきを、ボロボロとなったガンニョムの頭部へ向ける。


「受け取るが良い。

 勝利の号砲だ」


ガンッ


 片手で撃たれたリボルバーライフルの弾丸は、見事に外れた。


「…………」


 朴は無言のまま自身の周囲に呪術で支配する眷属を召喚。

 眷属達の陰に隠れてガンニョムに向かって突撃を始めた。


「なんだアレは、敵か!?」

「いや、魔物や天使が混じってる!!

 ピンクキノコだ!」

「クソッ!!!

 混乱した隙を突かれた!!」

「ヤバい、陣形が崩壊するぞ!!!」

「みんな、一旦ガンニョムから離れて!!

 朴の眷属は狙いがおおざっぱで巻き込まれるわ!!!」

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