第八十八話 アレクセイの欲しいものリスト
国際標準時 西暦2045年9月3日22時17分
高度魔法世界第4層
中央戦線 国際連合前線基地
国際連合元首ロシア連邦アレクセイ・アンドレーエヴィチ・ヤメロスキーは、本日の攻勢作戦の結果を更新した戦域図を眺めながら思案に
3日間の準備期間を置いて実施された記念すべき第1次地球人類合同攻勢作戦。
人類同盟、国際連合、日仏連合の三大勢力が各戦線で戦力を集中させたため、全ての戦線において前進することができていた。
しかし、その様相は北部、中央、南部の3つの戦線でまるで違っている。
人類同盟が担当する北部戦線では、流石は人類最大勢力と言うべきか、場所によっては10km以上も戦線を押し上げることに成功していた。
敵前線基地と数km程の地点に戦略原潜を設置することにも成功しており、攻勢作戦は順調に進んでいると言って良いだろう。
この調子でいけば明日には敵前線基地を陥落させてしまうかもしれない。
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一方でアレクセイ率いる国際連合が担当する中央戦線は、前進にこそ成功しているものの、その進みは遅々としたものであり、投入した兵力と資材の割に戦果としては微々たるものだった。
これは国際連合の戦力が見掛け倒しというわけでもなく、対峙する中央戦線の高度魔法世界軍が予想以上に盛況だったというわけでもない。
アレクセイを始めとした連合指導部の意図したところであった。
アレクセイはこの階層を攻略するにあたり、末期世界第4層で敵が隠し持っていた空中要塞に関して懸念していた。
同様の空中要塞とまでは言わないが、高度魔法世界第4層でも戦況を覆し得る超兵器が存在するのではないか。
報告によれば、魔界第4層でも体高数百mもの大きさを誇る巨大魔獣が出現したらしい。
確かな知性を持つ連合指導部は、高度魔法世界第4層でも未確認の超兵器が、極めて高い確率で存在すると判断した。
その結果が攻勢作戦での消極的な軍事行動である。
幸いにもこのダンジョンを元々攻略していた同盟は、戦力を出し渋ることなく積極的な軍事行動を実施しており、高度魔法世界側にとって、連合よりも同盟の方が脅威度は高く映ることだろう。
ならば敵の超兵器が最初に標的とするのは、より脅威度の高い同盟戦力であり、連合は同盟を鉄砲玉として様子を見つつ、敵超兵器への対抗策を練れば良い。
「……てっきりトモメもそう考えると思ったんだがなぁ」
南部戦線と担当する日仏連合主導者トモメ・コウズケは、第4層ダンジョンが隠し持つ超兵器を全て直に見てきた人物だ。
即物主義のきらいはあるが、その知性は自分や同盟のエデルトルートに並ぶ。
だったら連合指導部と同様の判断を下して、敵超兵器が姿を現すまでは大人しくしているものだとばかり思っていた。
しかし、実際の日仏連合は5個機甲師団もの戦力を渡河させて敵の戦線を突破し、敵ガンニョム6体を撃破、敵4個連隊を包囲殲滅、敵前線基地2ヵ所を陥落させただけでなく飛行場すら占領してしまった。
今では大きく進めた戦線に防衛戦力として1個機甲師団を展開し、主力である5個機甲師団は決戦兵力としてやや後方にて待機させている。
「初日でここまで猛威を振り撒けるのは流石ではある」
人類最精鋭、日仏連合。
その言葉を日仏連合はこのダンジョンにおいても証明してみせていた。
「敵のガンニョム4体を数分で蹂躙したハナ・タカミネには、もはや恐怖しか感じない」
なんでもガンニョムの頭部を内部フレームごと引っこ抜いたらしい。
想像しただけでアレクセイは恐怖に震えた。
「同じく敵ガンニョム2体を戦場ごと融解させたNINJAマスター白影の武勇には感嘆する」
アレが忍者としての正しい在り方だとは、日本文化にそこまで詳しくないアレクセイですら思はない。
しかし、マッハで飛翔する空飛ぶ火炎放射器の存在は、規格外のハナ・タカミネを除けば間違いなく同盟の超兵器、ガンニョムと並ぶ人類最強の一角と言えよう。
「だが、これで敵は日仏連合を最大の脅威と見做したはずだ」
今回の攻勢で最大の戦力を投入したのは人類同盟だが、最大の戦果を挙げたのは日仏連合だ。
このダンジョンで初めての敵ガンニョム撃破は、高度魔法世界側にも衝撃を与えたことだろう。
これで敵が超兵器を投入するとき、その標的は日仏連合、人類同盟、そして最後に国際連合の順番になる。
国際連合はこの戦場で最も安全な立ち位置を手に入れることができた。
「エデルトルートに足手纏いのお守りも押し付けられて、トモメは大変だなぁ……」
人類同盟は戦力が整い切れていない第三世界諸国を、全て日仏連合の担当する南部戦線に配置している。
アレクセイも指揮下に置いていたラテンアメリカ統合連合と汎アルプス=ヒマラヤ共同体を南部戦線に最も近い場所に押し込んだ。
もしも敵の超兵器が戦場に現れたら、奴らは連合ではなく日仏に頼ることだろう。
調略も思うように進んでいないし、ここで少し痛い目を見れば、大勢力の庇護下に入るべき理由を少しは考えるはずだ。
勿論、アレクセイにとって、そのようなことは些事でしかないが。
彼の目的、敵超兵器の矛先を回避し、戦場の混乱から身を守ろうとする理由は別にある。
「連合にはどうしてもこれが必要だ。
このダンジョンで、これを必ず手に入れる」
アレクセイの視線が、航空写真に写る敵ガンニョムを冷たく見つめていた。
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