第八十七話 誰よりも目立つNINJA

『日仏連合第2機甲師団、敵前線基地に突入開始!

 アフリカ連合第1から第4小隊は20分後に突入を開始する』

『こちら親同盟第3小隊、敵の大規模戦車部隊と遭遇!

 50両以上はいる!

 今、ポイントは送信した!

 戦闘ヘリによる航空支援を要請する!』

『こちらラテンアメリカ統合連合小隊、日仏連合第5師団第21機甲連隊と共に渡河に成功した。

 これより先行している汎アルプス=ヒマラヤ共同体との合流を図る』


 ひっきりなしに戦線各地から戦況報告の無線が飛び交っており、戦闘の激しさを物語っている。

 日仏連合指導者上野群馬率いる地球人類南部戦線は、圧倒的な砲火力と制空権によって渡河作戦を成功させ、高度魔法世界軍の防衛線を4体のガンニョムごと蹂躙した。

 日仏連合5個機甲師団を渡河させた上野群馬は、同行させている探索者と共に突破した戦線を瞬く間に拡大させ、各地の高度魔法世界軍部隊を包囲下に置き殲滅していく。

 しかし、高度魔法世界側も黙ってやられているだけではない。

 高嶺華から運よく逃れていた2体のガンニョムを中心に、反抗作戦を実行に移そうとしていた。


ふわっふ!敵ガンニョム2体、防衛線を越えてきたぞ

ふわぁぁあいつらダッシュしてやがる

ふわっふわっ駄目だ、速すぎて砲撃が当たらない


 人類側の圧倒的な砲火力への対策か、2体のガンニョムは捕捉されないよう走りながら人類側へ接近する。

 高度魔法世界側の防衛線を挟んで対峙していた第4フワッフ軍団のフワッフ達、シャルロット公女の特典により召喚された下僕妖精ブラウニーが、慌てて迎撃するも、有効だとはなりえなかった。

 このままでは迎撃が間に合わずガンニョムが陣地内への突入を成功させてしまい、肉壁用の歩兵部隊でしかないフワッフ軍団は甚大な被害を被ってしまうだろう。

 

ふわっふぅ?これは覚悟を決める時では

わっふぅ!シャルロット公女万歳


 フワッフ達が迫りくるガンニョムの巨体に悲壮な覚悟を固めていると、彼らとガンニョムの間に一つの黒い人影が爆炎を纏って舞い降りた。


「闇夜に生きる忍び、NINJA白影ハクエイ、推参!!」


 今、戦場で最も目立っている全身黒尽くめの不審者、日仏連合フランス共和国アルベルティーヌ・イザベラ・メアリー・シュバリィーが、2体のガンニョムと対峙する。


ふわぁぁぁ!!!アルたんキタァァァ

ふわっ!はやい!

ふわふわ!!きた!盾きた!

ふわわっ!!メイン盾きた

ふっふっふっ!!!これで勝つる


 ヒト型決戦兵器、高嶺華を除けば人類最強の座に最も近い存在である白影の登場に、生を諦めかけていたフワッフ達が湧き立った。

 今朝の食事中に高嶺華がやけにご機嫌で、彼女の主人という設定の上野群馬に絡んでいたことに、不信感と嫉妬で頭がどうにかなってしまいそうだった白影。

 そんな彼女にとって、自身の登場によって巻き起こった数万規模のフワッフ達の歓声は、大いに彼女の自尊心を満たして、彼女の中から嫉妬の炎を一時的に小さくさせることに成功していた。

 気分が良くなったため、カトンジツの印を組む手の動きもキレッキレだ。

 ちなみに彼女の特典であるカトンジツの発動に印を組む必要もなければ、カトンジツと叫ぶ必要もない。


「カトンジツッッ!!」


 しかし、彼女はその名を高らかに謳い上げる!

 上野群馬と初めて出会った時に教えてもらったニンニンポーズと共に、カトンジツの爆炎により一瞬で地上数百mの空中に飛び立つ。

 どうせ飛ぶんだったら、最初から地上へ降り立たずにそのままガンニョムに突っ込んでいけよ、と言ってはいけない。

 勿論、訓練されたフワッフ軍団のフワッフ達は、心の中で思っても口には出さない。

 

『ガアアアァァァァァァァァ』


 戦いの気配を感じ取ったガンニョムが荒れ狂う獣の如き雄叫びと共に、宙を舞う白影へと駆け出した。

 ちなみに雄叫び機能がなぜ付いているのかは、高度魔法世界側と長く戦っている人類同盟も現在調査中である。

 2体のガンニョムはお互いが一塊にならないよう、一定の距離を取りつつ地響きを立てながら猛然と一人の少女へ突っ込んでくる。


「カトンジツ」


 しかし、魔界第4層で山と見紛うほどの大きさを持つ大型魔獣を風船にした白影にとって、今さら全高20m程度のガンニョムは恐怖を覚える対象ではない。

 距離を取っていた2体のガンニョム、それらを同時に赤黒い炎の津波が飲み込んだ。

 

ふわぁぁやっべぇぇ……」

ふぅぅぅアルたんが殿下の八十子で良かったぁ!』


 大規模火山噴火に匹敵する光と熱の猛威に、数km後方で眺めていたフワッフ達が思わずブルってしまった。

 そして彼らの召喚主であるシャルロット公女と、目の前のNINJAが親戚関係であることを神に感謝した。


『アアアアアアアァァァァァ!!』


 しかし、シールドを装備したガンニョムの耐久力は、火山噴火程度では止まらない。

 表面を赤熱させたシールドで身を守りながら、ガンニョムは速度を緩めることなく炎の大津波を真正面から突破する。

 

「カトンジツ!」


 その程度で動揺する白影ではない。

 面が駄目なら点で攻めるとばかりに、放出する熱線を細い糸のように収束させて大地を舐めるようになぞりつつガンニョムへその牙を向ける。

 収束させたことにより数万度の超高温となった熱線は、大地に一瞬触れるだけで気体へと昇華させて間欠泉のような爆発を巻き起こす。

 溶岩と金属蒸気を撒き散らしながら熱線はガンニョムのシールドを薙ぎ払った。


『ガガガガガガッッッ!!』


 耐えきれないと悟ったガンニョムが、熱線を受けるのではなく受け流すことへ瞬時に変えて、体勢を崩しつつも熱線放射を凌いだ。

 シールドには熱線の爪痕が一直線に深々と刻み込まれ、そして熱量に耐えきれずドロリと焼き切れた。

 

『アッアッアッ!!』


 1体のガンニョムがシールドを失いながら足止めされたが、もう1体のガンニョムは相棒が稼いだ時間を使ってようやく白影との距離を詰め切ることに成功する。

 眼前に浮かぶ矮小な空飛ぶ火炎放射器を叩き落とすべく、片手に持った大型の長剣を振り下ろした。


「どこを狙っている?」


 しかし、既に白影の身はそこには存在しない。

 カトンジツによる爆発的な墳進加速を利用した超高速飛行により、白影はシールドを失って体勢を崩したままのガンニョムの眼前に移動していた。

 

「カトンジツッ!!」


 再び放たれる熱線を、態勢が整っていないままのガンニョムに回避できるはずもなく。


ドォォォォォォォォォンゥゥゥゥゥ


 莫大な熱量を投射されたガンニョムは眩い爆炎の中に消えた。

 

『ガアアアアア!?』


 残されたガンニョムは慌てて振り向いたが、一面の赤熱した大地に沈む爆炎だけが目に映る。

 

「お主も後を追わせてやろう。

 ハイクを読むがいい」


 その言葉と同時にガンニョムの直上へ瞬間移動していた白影が、直下に一筋の熱線を放った。

 ハイクを読めという割には、そんな時間は許されない超高速の止めである。

 ガンニョムごと熱せられた大地は融解し、煮え立ち、全てを融かし尽くした。

 


国際標準時 西暦2045年9月3日10時51分


 南部戦線に展開していた高度魔法世界軍ガンニョム全機の撃破を確認。

 南部戦線司令官日仏連合トモメ・コウズケは、戦場の環境変化が軍事行動に適さないものと判断し、フワッフ軍団への追撃命令を中止。

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