第八十六話 女の子だって暴れたい

国際標準時 西暦2045年9月3日8時58分

高度魔法世界第4層

南部戦線 前線



 新興独立国家協定イロコイ連邦の探索者タタンカ・ケンドリックは、作戦開始から延々と続く効力射の嵐を半ば放心しながら眺めていた。

 日仏連合主導による南部戦線の攻勢作戦。

 当初、元々アフリカ連合や親同盟諸国と共に南部戦線を苦労して支えていた彼は、途中参入の日仏連合が南部戦線を主導することを内心で面白く感じてはいなかった。

 タタンカとて日仏連合を率いるトモメ・コウズケの手腕は、実際に指揮下で戦ったことがある以上、嫌になるほど知っているし、保有戦力的にも日仏連合が主導することは間違っていないと思っている。

 だからと言って簡単に納得できていたら、人類はとっくの昔に一致団結してダンジョン戦争を戦っているだろう。


「1000を超える砲戦力による効力射は圧巻だな。

 まるで神の裁きだ」


 いつの間にかタタンカの隣に立っていたえんじ色のローブを身にまとった黒人青年、アフリカ連合ボツワナ共和国モルラハニ・モディサゴシが、タタンカの内心を代弁するかのように目の前の光景を表現する。

 絶えず撃ち込まれる155mm榴弾と220mm収束墳進弾は、敵の防衛線が噴火しているかのようなどす黒い爆炎の壁を作り出していた。

 榴弾はともかく収束墳進弾は1発当たり10万$だと考えると、その弾薬消費量とそれにかかる莫大な費用に思わずゾッとする。

 

ゴゥーーーーーーーー


 砲撃音に交じって聞こえてきた轟々とした音に、2人は思わず視線を空に向けた。


「あれは……」

「知っているのか、モルラハニ?」


 ポツポツとした胡椒粒のような黒い点が飛行機雲を引きながら戦場へ向かってきている。


「事前に説明されていた日仏連合の航空爆撃連隊だ。

 あれがやってきたということは、いよいよ砲撃を切り上げて全面攻勢が近いな」


 高度魔法世界側の対抗砲撃が途絶えて既に50分以上経過している。

 日仏連合の戦闘機部隊により制空権も最初期で確保済みだ。

 いつの間にか砲撃音や航空機の飛翔音に交じって、ヘリコプターの羽音も聞こえだした。

 全面攻勢は近い。







国際標準時 西暦2045年9月3日9時42分

高度魔法世界第4層

南部戦線 高度魔法世界防衛線内側 日仏連合第3師団第12機甲連隊



 アフリカ連合中央アフリカ帝国アニセ=ベデル・トゥアデラは、前方数kmの位置に現れた4体の敵ガンニョムを見て思わず苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。

 MPを温存するために今も発動していない胸ポケットにしまったカードコミューンに思わず手が伸びる。

 ☆彡魔法少女☆彡サバンナ☆ブラザーズの一角であるプリプリ☆ブラックの自分レベルではないと、敵ガンニョムとはまともな戦闘にならないことは、今まで南方戦線を大国の支援なしに支えてきた自分達が良く分かっている。

 本当だったらサバンナブラザーズ7人全員で当たりたかったが、他のメンバーがどこにいるのかまでは咄嗟の状況で把握できていない。


「あの数は無理ですよ!

 俺っち達で対処できる相手じゃないですって!

 ここは増援を待ちましょう!」


 同じアフリカ連合のルワンダ共和国ステファノ・ムギシャが、アニセの動きを察知して、彼の腕を掴んで引き留める。

 その間も日仏連合の多脚戦車が敵ガンニョムに砲撃を浴びせているが、ガンニョムの持つシールドで防がれていて有効打を与えている様子はなさそうだ。

 155mm榴弾砲の直撃すら耐えているあのシールドは、第4層になってから初めて確認された敵ガンニョムの新装備である。

 北部戦線で同じく敵ガンニョムと戦闘を経験している人類同盟によれば、地中貫通爆弾バンカーバスターの直撃でようやく一部破損させることができるらしい。


「しかしそれでは折角突破した防衛線を再び奪われることになるかもしれん。

 ここが踏ん張り時、我らが勇を示す時だ」


 アニセは自身の腕をつかむステファノを優しく振りほどき、カードコミューンをパカッと開いた。


「ウホウホ☆プリティ・ウェーブ!」

『ヘイヘーイ!』


 カードコミューンに内蔵されたチークとリップを塗るのと同時に、アニセが眩い光に包まれた。

 光の中で薄っすらと、なまめかしい変身シーンが繰り広げられる。


「草原の使者、プリプリ☆ブラック!!」

『ハイテクそーな盾なんて持って生意気ですよー!』


 黒色の英雄が戦場に立つのと同時に、視界に見えるガンニョムの1体がシールドごとその巨体を縦一文字に叩き斬られた。

 その光景を見た黒色の英雄は静かに変身を解いた。


「だから増援を待ちましょうって言ったじゃないですか!

 無駄にMP消費しないで下さい!」


 ステファノの言葉が言い終わる前に、もう1体のガンニョムの頭部が内部フレーム諸共に引っこ抜かれていた。

 血のようなオイルらしき液体が盛大に噴き出している。

 ガンニョムの1体は後退りに失敗したのか、腰を抜かしたように尻餅をついていた。


「……女の子だって、暴れたい、か」



国際標準時 西暦2045年9月3日9時46分



 南部戦線、敵ガンニョム4体を撃破。

 南部戦線司令官日仏連合トモメ・コウズケは攻勢継続を指示。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る