第八十五話 南部戦線、攻勢開始
国際標準時 西暦2045年9月3日7時55分
高度魔法世界第4層
南部戦線 日仏連合第1機甲師団 南部戦線司令部
末期世界組が高度魔法世界第4層に侵攻し、人類同盟らと合流して4日目。
人類同盟指導者エデルトルート・ヴァルブルクとの合意に従い、日仏連合は第三世界諸国を引き連れて南部戦線に展開した。
南部戦線の展開戦力は日仏連合6個機甲師団、親同盟諸国1個機甲師団、自由独立国家共同戦線2個機甲連隊4個フワッフ軍団、新興独立国家協定1個機甲連隊、アフリカ連合1個機甲連隊、ラテンアメリカ統合連合1個機甲連隊、汎アルプス=ヒマラヤ共同体1個機甲連隊。
日仏連合指導者上野群馬の指揮の下、90ヵ国138名の探索者と5000両を超える無人戦闘車両、33万体のフワッフが作戦開始の時をただ待ち望んでいた。
https://img1.mitemin.net/3a/no/mck5gsuo7lge3ke295kjb39f43kd_b63_1d1_16t_a6ne.jpg
事前に行った航空偵察の結果、この戦線に展開した俺達に刺激されたのか、南部戦線に点在していた敵ガンニョム6体が戦力を集中していることが確認された。
敵の防衛線前面には各勢力の機甲連隊を展開させている。
それらの火力支援のため、日仏連合第6機甲師団に所属する5個機甲連隊を南部戦線の各所に散開させている。
そして日仏連合5個機甲師団と138名の探索者は敵防衛線突破のために、1個軍団を形成してやや後方で待機させていた。
エデルトルート達と決めている作戦開始時刻まで残り5分。
俺は35式指揮戦闘車の内部で公女と共に戦域図を眺めながら、作戦開始の時を待っていた。
「もうそろそろで作戦開始ですわね」
沈黙が嫌だったのか、公女が時計を見ながら話しかけてきた。
既に公女を始め、指揮下の各部隊には作戦行動を伝えてある。
今更特にやることはないのだが、だからと言って何もせずただ待っているのは緊張感が無駄に高まるだけだし、公女とのおしゃべりはちょうど良かった。
「ああ、作戦はいつも通り敵防衛線への砲撃だ」
現在展開している768門の野戦重砲と348両のMLRS(多連装ロケット弾システム)には、作戦開始と同時に60分間の効力射を指示してある。
南部戦線に展開している高度魔法世界軍9個連隊とガンニョム6体には、総計1万tを超える鉄量を空からプレゼントしてやろう。
喜んでくれるかな?
「いつも通り頭の可笑しい事前砲撃の後は敵防衛線への攻勢ですわね」
「1個爆撃航空連隊で支援爆撃を実施しながらの攻勢だな」
南部戦線の欠点は数あるが、中でも辛いのは人類側根拠地にある飛行場から最も遠く離れていることだ。
南部戦線ほどではないけど中央戦線もやや離れているが、こちらはアレクセイがわざわざ中央戦線後方に飛行場を新設するという力押しの解決策で解消してしまった。
準備期間として設けられた3日間で、小規模とはいえ一つの航空基地を新設してしまうのは、国際連合の底力と言えよう。
「戦闘時間を考えると、航空爆撃の機会は1、2回と言ったところですか……」
「それは事前に分かっていたことだよ。
問題ないさ」
今回の第1時攻勢作戦、俺達南部戦線組の目標は、敵防衛線後方にある敵飛行場の奪取だ。
敵の5個連隊とガンニョム4体を撃破した上で、途中にある2つの敵前線基地を陥落させる必要があるけれど、この飛行場さえ取れれば制空権確保が一段と楽になる。
連合が設置した航空基地を借りさせてもらうという選択肢もあるが、その場合、アレクセイからどんな対価を吹っ掛けられるか分かったものではない。
だからと言って連合と同様に新しく航空基地を新設するなんて、流石に金を浪費しすぎている。
いくら日仏が絶賛経済大躍進中のイケイケな大国と言えど、無限に金が出てくるわけではない。
「目標の敵飛行場まで直線距離でおおよそ30kmほどですわね。
敵防衛線前面に河川もありますし、流石に厳しい戦いになりそうですわ」
「そのための3日間の準備期間だ。
戦線も全域を押し上げるつもりはないし、戦力だって集中させている。
勝算は十分にあるよ」
南部戦線に日仏が持ち込んでいる6個機甲師団のうち、実に5個機甲師団を飛行場奪取に投入する。
第三世界諸国も機甲部隊は保有しているけれど、やっぱり兵器の性能や従者ロボによる管制能力で日仏の機甲連隊の方が部隊の質は格段に高い。
全ての車両が多脚式で統一された機甲師団なんて、日仏くらい揃えていないだろう。
高機能高価格と謳われる日本製兵器は伊達ではない。
日仏の部隊に追従できるのは、ODAによって同じく日本製兵器を装備している公女の自由独立国家共同戦線の機甲連隊くらいだ。
「航空偵察で全ての敵兵力を確認できるわけではありませんし、甘い想定をしていると危ういですわよ……」
「そんなことは百も承知だ。
航空支援として戦闘ヘリも1個連隊を用意している。
北部と中央が崩壊しない限りは、作戦は計画通り進むはずだ」
航空爆撃を代替する航空支援として、無人戦闘ヘリ1個連隊108機も戦線に展開させる予定だ。
それに俺は今まで魔界、機械帝国、末期世界と、全ての第4層ダンジョンを経験してきた。
思い出すのは魔界の超大型魔獣、機械帝国の超大型機械兵、末期世界の空中要塞。
どれもが第4層で初めて確認された敵の超兵器だ。
高度魔法世界にも同様の超兵器が用意されていると考えるのが自然だろう。
このダンジョンのどこかに、戦況をひっくり返すような超兵器が眠っているはずだ。
それが北部か、中央か、南部か、どの戦線なのかは分からない。
もしかしたら全ての戦線に投入されても不思議ではないと思っている。
「……そろそろ時間ですわ」
「ああ、いよいよだな……」
俺は手元の無線機を操作し、南部戦線全域に展開する全ての部隊への通信を開く。
「こちら日仏連合司令部、トモメ・コウズケ、南部戦線に展開する全ての部隊へ。
これより高度魔法世界第4層第1次地球人類合同攻勢作戦を開始する。
各部隊は作戦計画に従い、作戦行動を開始せよ」
現在の時刻は午前8時。
人類の攻勢が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます