第七十八話 明日の天気は晴れ時々テポドン

 人類同盟の合同説明会を終え、同盟司令部施設内にあった食堂で高嶺嬢と白影の3人で休憩していると、公女が俺達の座っているテーブルへとやってきた。


「――グンマ、少々お時間をいただいてよろしくて?」


 見たところ公女は一人のようで、近くに仲間の姿はなさそうだ。

 シウムにちょっかいをかけられたばかりの俺からすると、周囲の目があるとはいえ同盟施設内で単独行動なんて不用心極まりない。

 国際連合や日仏連合と比べると小規模ではあるものの、彼女は腐っても33名の探索者達を束ねる派閥の長なのだ。

 さらには現状で貴重な手掛かりでもある特典の攻略本を保有している。

 狙われる理由が存在しないはずがない。

 むしろありとあらゆる勢力から、手頃なスナックみたいに見られてそうだ。

 普段なら自由独立国家共同戦線の古参メンバーであるウォルターやツネサブローが、公女が嫌がろうと無理やりにでも付いてきそうなものだけど……

 付いてきていない様子を見るに、彼らに何かあったのか?


「別に構わないけど……公女、君は今、一人なのかい?」

「……ええ、一人ですわ。

 皆、別件で忙しいのです」

「そっか……忠告だけど、あまり同盟の領域では一人にならない方が良い」


 万が一公女に何かがあれば俺の世界バラバラ化計画に支障をきたす。

 しかし俺からの忠告が意外だったのか、公女は少しだけ驚いたようで大きな碧眼をさらに見開き、そして頬を緩ませてクスリと笑った。

 

「貴方から妾の身を案じる言葉が出てくるとは……

 珍しいこともあるのね?

 こういう時、日本だと明日はテポドンが降るというのかしら」

「……っ!?」


 公女のテポドン発言が高嶺嬢のツボに触れたようで、何かを堪えるように俯いて肩を震わせ始めた。

 懐かしいね、テポドン。

 第三次大戦では山ごと発射基地を22式燃料気化爆弾NOFEで焼いちゃったからね。


「シャル、言葉の使い方が間違っておるぞ。

 正しくはテポドンではなく、NOFEでござる」

「……雪ですよ」


 白影が間違いを間違いで訂正したが、これは高嶺嬢的に掠りもしなかったようで、スン……と真顔になって彼女達の言い間違いを訂正した。

 怖っ!

 完全に真顔の高嶺嬢、怖っ!!


「日本語はやはり難解ですわ。

 そんなことよりも、グンマ、先ほどの同盟からの提案、随分と素直に受け入れましたわね?」


 難解な日本語と向き合うことを諦めた公女が、話を変えていきなり本題をぶっこんできた。

 先ほどの同盟からの提案というと、各戦線の分担についてか。

 確かに大会議室でのエデルトルートから受けた提案は、俺もアレクセイも特に難癖をつけることなく受け入れた。

 その結果、国際連合は中央戦線、日仏連合は南部戦線を担当することになった。


「……ああ、このダンジョンの先達はやっぱり同盟だしな。

 後参の俺達は同盟からの要望があれば、納得できない理由がない限りそれに沿うしかないだろう。

 勝手に動いて戦線を乱すわけにもいかない」

「グンマにしては意見が優等生過ぎますわ!

 ちっとも自国都合じゃないではありませんか」


 酷い言われようだ。

 俺ってそんなに他国への思いやりをしてこなかったっけ?

 してねぇわ!

 考えるまでもないね!!


「おいおい、俺だって国際協調くらいは考えているさ。

 それに準備期間として3日間の猶予が与えられているし、エデルトルートの提案にケチをつける材料がない」

「えー、本当ですのー?

 嘘臭いですわ!」


 そりゃあ嘘だもん。

 国際協調なんて考えたことないね!

 準備期間も本当はいらないし、なんだったらアレクセイの国際連合と組んで、明日にでも大規模航空攻勢を仕掛けたいくらいだ。

 末期世界第4層で大規模航空作戦を経験した俺達は、人類同盟と比べてかなり航空戦力が充実している。

 その航空戦力を全て投入して超大規模航空電撃奇襲作戦をしかければ、即日階層攻略も十分に見えてくるだろう。

 今はやらないけどね。

 俺が南部戦線を担当する目的は、以前に蒔いたグレートゲームプレイヤーの種、イロコイ連邦タタンカ・ケンドリックの状況を確認すること。

 そして可能ならば彼にも公女と同じくODAで首輪をつけたいところだ。

 ついでに今回の同盟が主導する作戦、それを主導しているのは同盟内のどの派閥かを特定できれば尚良し。

 エデルトルート派だったら面子を叩き潰して影響力を削ぎ、違う派閥でそいつらが有力そうなら作戦を支援してそいつらの影響力を強化してやる。

 もちろん、全部俺の思う通りには進まないかもしれないが、世界は着実に連帯の綻びを拡大させていくことだろう。

 ふふふ、日本の夢が広がリング!

 みんなバラバラになっちゃえ!


「グンマ、絶対に碌でもないこと考えてそうですわ!」

「誤解を招くようなこと言わないでもらえる!?」

「あと妾達もグンマと一緒に南部戦線へ向かいますわ!」

「えっ、そうなの?」


 俺の言葉に公女はむすー、と鼻息を荒くする。

 彼女の赤みがかった茶色のドリルヘアーがフワリと揺れた。


「もちろんですわ!

 ラテンアメリカ統合連合と汎アルプス=ヒマラヤ共同体も配属は一応中央戦線ですが、南部戦線よりの位置に展開するそうです。

 久々に第三世界諸国が揃い踏みですわね!」


 うっわ、一気に面倒臭い気配がしてきたぞ……

 もしかしてエデルトルートに烏合の衆のお世話、押し付けられちゃった感じですか?


『お前がバラバラに散らかしたんだから、ちゃんと自分で面倒見なさい!』


 保育士と化した顔面凶器の幻聴が聞こえてきた……

 散らかす専門でいたかったぜ……!

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