第六十九話 空中要塞陥落まで残り15分

 翼を持たぬ者共との戦いにおける久々の大勝に要塞は湧いていた。

 迎撃に出た1個師団が持ちこたえている間に、機動に成功した骨董品の空中要塞。

 遥か昔に使用されていた随分と古いものであるが、翼を持たぬ者共にとってはその威力は絶大であった。

 戦乙女が温存されたとはいえ1個師団を瞬く間に平らげた彼奴等の羽虫が、要塞砲ですらない前座の浮遊砲台によって一網打尽にされた時は誠に爽快であった。

 この地の戦いで得た経験則から、彼奴等が戦で大きな損害を負った時は次の戦までに1、2日程度の時を要することが分かっている。

 空中要塞以外の全ての砦が堕ち、多くの光輪を失った我らにとって神雫よりも貴重な時間だ。

 ことここまで追い詰められては、いくら空中要塞があろうと我らに勝機はあるまい。

 この機に態勢を立て直し、1匹でも多くの翼を持たぬ者共を道連れにする。

 それこそが第4層で果てる我らの務めよ。

 皆がそう思っていたが故に、戦を終えた夜が明け、日が昇ろうとも彼奴等の羽虫が見えぬことを良いことに油断していたのであろう。


ドゥゥゥゥゥゥゥンゥゥゥゥゥゥゥゥ


 卑劣な奇襲に我らが気づいたのは、紹介のために周辺をまわっていた者達が轟音と共に炎で包まれた光景を見てからだった。


『彼奴等の奇襲だ』

『音を超えて飛ぶ火矢だ』


 空中要塞に控えていた迎撃を任された1個連隊が飛び立とうとするが、それよりも早く彼奴等の火矢が浮遊砲台に向かっていく。

 この階層では、我らは音よりも早く飛ぶことは叶わない。

 浮遊要塞が火矢を撃ち落とすべく雷撃砲を放つと、火矢は雷撃に絡めとられ一息に燃え尽きていく。

 その光景はまさに昨日の焼回しと言えよう。

 しかし、それは敵の狡猾な罠だった。

 雷撃砲は一度放つと二射までにしばしの時を要する。

 小癪なことに翼を持たぬ者共は、先の戦で速くもそれを学び取っていたようだ。

 今までの戦で見てきた彼奴等の火矢とは比較にならぬほど速い火矢、音の波動の10倍よりも尚速いその火矢は、易々と浮遊砲台を魔道障壁ごと火炎により貫いた。

 光り輝く神聖文字で形作られた浮遊砲台の前後から爆炎が噴き出す。


『おおぉぉ、神聖文字が力を失う』

『浮遊砲台を障壁ごと一撃だと』

『なんだあの火矢は』

『途轍もなき速さ、正に疾風迅雷』


 連隊が空域に陣を敷き彼奴等の羽虫が見えたのは、浮遊砲台の神聖文字から光が失われ、意味を無くした文字が崩れ落ちるのと同時だった。

 現れた羽虫の数は先の戦より大分少ない。

 彼奴等も失われた力は癒えていないということか。

 我らの態勢が整うことを恐れるがために逸ったか……


『浮遊砲台が失われども、我らには二重の光輪がある、魔道障壁がある、要塞砲がある』

しかり、要塞には戦乙女も控えている』

『易々と我らは堕とせん』


 威容を誇った浮遊砲台が堕ちれども、我らが士気は意気軒高。

 軍勢同士の戦では機能こそしてやられたものの、今日こそはと気勢を上げる。

 しかし、彼奴等の戦術は我らが理解を超えて卑劣にして姑息であった。

 気づけば軍勢が削り取られ、光輪を疾風迅雷の如き火矢が刺し貫いていた。

 あっという間に要塞を守護する20の浮遊砲台、二重の光輪、1個連隊が取り払われ、数百の羽虫に取り囲まれていた。

 そして、アレが来た。

 他の羽虫よりも一際巨大な忌まわしき悪魔、災厄のレイブンが――




『――当機に搭乗する全乗員に告ぐ、仕事の時間だ』



「ヘイヘーイ、ぶっ放しますよー!」

「拙者は自前で飛行できる故、今から降りちゃダメでござるか?」

「妾は今この時より、女を捨てます」

「平和! 栄光!! 勝利!!!」

「マルタ騎士団! 総勢1名!! 参陣!!!」

「私はノンケだってかまわないで食っちまう人間なんだぜ」




「――なっ、あれは……!!」


 空中要塞直下の柱状台地に取り残されていた探索者30名。

 いつ救助が来るのかも分からず、ただ仲間の力が尽きるのを待つだけだった彼ら。

 失われていく体力に、現実と幻想の境界が曖昧になっていた彼らはその日、目にした光景を生涯忘れることはないだろう。

 

レイブン……?」


 遠目からでも分かる巨大な機体が、単騎で空中要塞に突撃していく。


「無謀だ」


 いつの間にか空中要塞を取り囲んでいた浮遊砲台と二重の光輪は失われていた。

 しかし、空中要塞本体から浮遊砲台とは比較にならない程の夥しい火線が伸びる。

 あのような巨大な機体、しかも単騎では、すぐに火線に絡み取られ、無残な姿を晒すだろう。

 重傷を負い、死を待つだけの探索者達は、希望を抱くことなく残酷な予想を脳裏に思い描く。

 次の瞬間。


「あの、動きは……!!?」

「まさか、トモメ・コウズケ!?」


 鈍重に思われていた暗灰色の巨大な機体は、なんだか良く分からない機動を行い蜘蛛の糸の如き火線をヌルヌルと避けていく。


「あんなの、あの腹黒しかいねぇだろ!!!」


 スティーアン・ツネサブロー・チョロイソンが興奮して撥ねるように飛び起きた。

 その動きには先ほどまで見られなかった力強さがある。

 スティーアンだけじゃない。

 巨大な機体が上下左右前後、捻り落ちながらの急加速は当たり前、調子が良い時はワープ染みた左斜め後方への瞬間移動など、常識を物理法則ごと置き去ったのではないかと疑わしくなる神業的超絶技巧の数々。

 それらを目にするたびに、死を待つだけだった探索者達は気力を取り戻していく。


レイブン……その名に違わぬ、羽ばたくような戦いぶりだ」


 中には未だ幻覚に捕らわれている者もいる。

 それはもうしょうがない。

 きっと血を流し過ぎてしまったのだろう。

 要塞から放たれる数十の雷撃砲を舞うように躱し、数千の火炎弾による赤い弾幕は謎の垂直機動でひらりと躱し、慌てて迎撃に出てきた天使達は、その身に宿す数十の機関砲により瞬く間に汚い羽毛と化した。

 遠目で見るからこそ分かるその異常さは、天使達からはどのように見えているのだろうか。

 天使達は必死にアレを止めようとするが、アレは悉くを食い破り、踏み躙り、轢き殺していく。

 そうしてアレによってこじ開けられた巨大な戦力的空洞を、周囲に展開する無人機群が押し広げて掃討していく。

 ミサイルと見紛うばかりの速度で要塞との距離を秒毎に詰めていく。

 そして最早目視で機体の細部まで確認できてしまうほどの距離になった瞬間、アレは両翼に抱えていた合計24本にも及ぶ必殺の投槍を放った。


ドドドドドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ


 空中要塞を覆っていた強固な魔道障壁を薄紙のように貫通した必殺の投槍は、そのまま幾棟もの要塞上部構造物を貫通し爆発した。

 取り残された探索者達が最後に見たアレの景色は、魔道障壁に空いた穴へマッハ2で突っ込んでいく全長70m超えの巨人機の姿だった。




 日仏連合総司令部、末期世界軍 空中要塞 魔道障壁内部への突入に成功。


『当機に搭乗する全乗員に告ぐ、全砲門、撃ち方始め』


 空中要塞陥落まで、残り15分。


『上野群馬 男 20歳

状態 肉体:普通 精神:俺は風

HP 9 MP 52 SP 15

筋力 12 知能 21

耐久 11  精神 21

敏捷 11 魅力 11

幸運 24 

スキル

索敵 300

目星 89

聞き耳 97

捜索 95

精神分析75

鑑定 86

耐魔力 85

魔石付与 50』


『高嶺華 女 21歳

状態 肉体:決壊寸前 精神:忍耐

HP 62 MP 2 SP 58/62

筋力 62 知能 2

耐久 62 精神 28

敏捷 62 魅力 23

幸運 4 

スキル

直感 300

鬼人の肉体 90

鬼人の一撃 80

鬼人の戦意 70

我が剣を貴方に捧げる【捌】 30

装備

戦乙女の聖銀鎧

戦乙女の手甲

戦乙女の脚甲』


『アルベルティーヌ・イザベラ・メアリー・シュバリィー 女 20歳

状態 肉体:乙女危機 精神:我慢

HP 16 MP 35 SP 36/38

筋力 18 知能 15

耐久 18 精神 6

敏捷 85 魅力 23

幸運 4 

スキル

超感覚 190

隠密行動 130

投擲 150

耐炎熱 160

無音戦闘 95

空中戦闘 130

妄執 102

装備

闇夜の頭巾

深淵の装束

暗黒の手甲

新月の脚甲』


『シャルロット・アントーニア・アレクサンドラ・エリザべード・メアリー・ヴィレルミーヌ・ド・ナッソー 女 20歳

状態 肉体:垂れ流し 精神:解放

HP 10 MP 36 SP 24/36

筋力 9 知能 19

耐久 9 精神 10

敏捷 15 魅力 22

幸運 28 

スキル

幸運 48

根性 95

カリスマ 52

高速詠唱 39

勅令 26

精神復帰 55

精神貯金 73

装備

魔術姫の宝石杖

神聖公女のティアラ

魔術姫の外套

妖精姫のロンググローブ

妖精姫のロングブーツ』

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