第六十五話 公女の懇願

『ミッション 【生存報告】

資源チップを納品しましょう

 鉄鉱石:2枚 食糧:5枚 エネルギー:2枚 希少鉱石:1枚

 非鉄鉱石:1枚 飼料:2枚 植物資源:3枚 貴金属鉱石:1枚

 汎用資源:2枚

報酬 準天頂型静止軌道用人工通信衛星 1基

依頼主:ルクセンブルク大公国 大公フェリックス・ジャン・フィリップ・ジョゼフ・マリー・ド・ナッソー

コメント;30名の生存を確認、重症24名、ポーション欠乏、このままだと(字数制限)』


「――この通り、彼らはまだ生きています!

 ですが状況は切迫しています!

 どうかお願いです、グンマ!

 今すぐ救出作戦を……!!!」


「わぁ、良かったですね!」

「ふむ、まさにシチュー・ニ=カツと言ったところかっ……!」

「……」


 ルクセンブルク公国は俺達探索者が常に生放送されている利点を活かし、ウォルターの視点で探索者達の状況をミッション経由で公女に伝えてきた。

 同じ国家に属する探索者同士だからこその連絡手段だ。

 公国からの報告を信じるならば、あの墜落によって重傷者こそ多く出たが奇跡的に死者は未だ発生していないらしい。

 第三世界の探索者達が日々のマジカル肉弾戦によってフィジカル面でのステータス成長が著しいとは知っていたけど、それでも彼らの運は飛び抜けて良かったようだ。

 もしかしたら宗教家のツネサブローが、アレクセイの運気を吸い上げて奇跡を起こしたのかもしれないな!

 ハハッ!


「彼らの多くが重傷を負っており、医薬品も欠乏しているのです!

 一刻も早く状況を改善しなければ、多くの実戦を積んだ貴重な探索者が失われてしまいますわ!

 これは人類にとって取り返しのつかない損害ですし、日仏連合にとっても影響下にある戦力の減少は無視できないはずですわ!!」


「わわっ、それは大変ですね!」

「うぅむ、ミカラ=デタ=サビとはこのことよっ……!」

「…………」


 俺達は今、人類側根拠地に設けた日仏連合の司令部にいる。

 公女がミッションによる情報伝達を見せてきたのと、残存戦力を連れて根拠地に帰還したのは同時だった。

 おそらく公国政府は公女の性格を考えて、帰還中にこの情報を伝えて公女が即時救出を強行に主張することを避けたかったのか?

 だとすると、空中要塞の直下に取り残されたウォルター達の状況は、思ったほど酷いものではないか、それとも生きているだけで手の施しようがないのか。

 これだけだと判断がつかないな。

 まあ、どちらにせよやることは決まっている。

 空中要塞を稼働させた末期世界側が態勢を整える前に空中要塞を攻略する。

 取り残された30名のことは置いておいたとしても、時間との勝負なのには変わりがない。

 公女に言質を与えたくないから先ほどから黙っているけれど、公女は俺が第二次攻勢を躊躇っていると思っているのか、あの手この手で俺を説得しようとしている。


「グンマ、後生ですわ。

 彼らの状況は、彼ら自身の自業自得と言われても反論できません……

 特に国際連合には多大な損害を与えてしまっています。

 ですが、それでも今の人類にとっては補充できない貴重な戦力なのです!

 どうか、どうか……」

「……」

「……」


 高嶺嬢と白影から何とも言えない視線が向けられる。

 彼女達は誕生日大作戦以来、何かと公女には親しめに接していた。

 今回の件に関しても、生死を彷徨っている30名の探索者というよりも、公女に対して同情的なのだろう。

 それでも俺の判断に口を出さないよう、何も言わずにいてくれるのは有難いけれどな。


「日仏連合として、空中要塞を要する末期世界軍の脅威度は認識しているつもりだ。

 時間をかけず可能な限り早急な第二次攻勢の必要性も分かっている」

「グンマァ!

 感謝いたしますわ!!

 それでは早速――」

「――だがっ!

 今回の攻勢で連合は600機を超える損害を負いその補填が急務だし、日仏連合も300機以上の航空機が整備と補給を必要としている。

 さらに今回、敵空中要塞の脅威を認識した以上、同等の戦力での第二次攻勢はありえない」


 第一次攻勢の結果、連合は保有航空戦力の過半という大損失を受けており、連合司令部は正気に戻ったアレクセイを中心となって失われた戦力の補填と大幅な増強を急遽進めている。

 しかし、損傷した機体の修理や新規に調達した無人機の整備などのため、彼らの戦力が稼働するまで早くとも3日はかかってしまうだろう。

 ちなみに3日というのは、国際連合に所属する全員が一切の休憩を取らないことが前提の数字だ。

 現実的にはどれだけ急いだとしても、5日程度はどうしてもかかってしまうことになる。

 とてもじゃないが、30名の探索者達が5日間も持ちこたえられるとは思えない。

 日仏連合の場合は、幸いにも損失機は少なかったので、整備に多少の時間を取られても明日の朝には再出撃が可能となるだろう。

 だけど数的主力だった国際連合を欠いた状態で、空中要塞を要する末期世界軍を相手にするとなると、例え勝てたとしても損害が笑えない数字になってしまう。

 それこそ損害だけなら今回の連合の二の舞になりかねない。

 そうか考えると連合の戦力再整備を待ち、俺達も戦力を増強した上で第二次攻勢を行うのが、日仏の損害という面において理想だろう。


「それでは救助を待つ彼らが持ちませんっ……!

 グンマァ、お願いですわぁ……」

「……」

「……」


 公女が泣き腫らして赤くなった目元をさらに涙で濡らす。

 これまでだったら絶対に見せなかったであろう、彼女の弱い面を露わにしていた。

 それに釣られて高嶺嬢まで瞳が潤い始めている。

 彼女も情に厚い所があるからなぁ……

 白影はちょっと飽き始めたようだ。

 

 日仏連合の保有戦力を根こそぎ動員したとしても、3個戦闘航空連隊と1個爆撃航空連隊。

 連合が第一次攻勢で動員した戦力の半分程度か。

 うーん……

 空中砲台はなんとかなるか?

 あの良く分からない波動を発してミサイルを迎撃していた二重の光輪もいける気がする。

 でも問題は空中要塞本体と駐留兵力なんだよなぁ。


「…………久々に、やっちゃうぅ?」

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