第六十一話 誤射の勝利
「一体なにを見てヨシッて言ったんですの!!?」
救出すべき探索者達にあろうことかミサイルをぶち込んだグンマは、私の非難もどこ吹く風かの如く満足げな様子で大型ディスプレイを眺めている。
彼の視線の先にあるディスプレイには、ミサイルの爆風により尻餅をついて、遠目から見ても驚きのあまり呆然としている6名の探索者達が映っていた。
敵地に降り立って最初の攻撃が、まさかの味方から即座に打ち込まれたミサイルだったら誰だって驚きますわ!
「驚くべきことに全員無傷か……!
トモメは、ヤル時はヤル奴だと思っていたが、マジでヤル奴なんだな!」
「ああ、一発だけなら誤射だからな……」
アレクセイの言う通り、グンマの自称誤射による人的被害は出ていないようだ。
着弾地点が探索者達から数十m離れていること、ミサイルの用途が空対空で元々の炸薬量が少なかったこと、地形が微妙に傾斜になっていて爆風や破片が直撃しなかったことなど、様々な要素が奇跡的に重なった結果なのだろう。
もしもこれを狙ってやっていたら彼の戦術能力は人知を超越していると言って良い。
だけど、一発だけなら誤射とかいう謎理論は止めて欲しいですわ……
「そんなことより、これで通信状況もちょっとは改善されただろう」
グンマはそう言って妾から通信用マイクを取り上げた。
「こちらHQ、敵本拠地に降下した探索者6名、応答せよ。
先ほどは不幸な誤射で災難だったな」
不幸な誤射で災難……?
悪意しか感じませんわ!
『――ッガッ―― こちら自由アジア諸国共同体所属、チベット連邦、テンジン・ペンバだ。
トモメ・コウズケ……やはりあなただったか』
「応答しましたわ!!」
「流石だな、トモメ……暴力、やはり暴力、暴力こそが全てを解決する……!」
「誤射の勝利というわけだ」
「こんな時に馬鹿おっしゃってないで、妾にマイクを貸してくださいまし!」
ようやく応答したチベット連邦の探索者テンジンと交信すべく、誤射愛好家のグンマからマイクを奪い取る。
連合の敵本拠地への爆撃は現在も続いており、敵の魔道障壁は崩壊の一途をたどり、施設にも少なくない被害が出ている以上、敵はいつでも空中要塞を稼働させてもおかしくない。
脱出するために残された時間の余裕は全くないだろう。
この際、彼らの事情はどうでも良い。
そのような些事は基地に戻れてからどうとでもできる。
今は一刻でも早く彼らに危険を伝えてどんな手段を使っても本拠地から脱出させなければっ!!
「――ですからっ、貴方達は本拠地の攻略なんて言ってる場合ではないのです!!
とにかく本拠地から脱出してください!!」
公女が何とかして6名の探索者を脱出させようと必死の説得を行っているが、どうにも上手くいかないようだ。
彼らとしても、多くのリスクを冒して連合の爆撃機に潜り込み、遂に他の勢力を差し置いて敵本拠地に乗り込むことができたのだ。
公女は命の危険を理由に脱出を迫るけど、彼らからすれば命の危険なんてどこから調達したのか分からない輸送コンテナに乗り込んだ時点で百も承知だろう。
チベット共和国のテンジンを始めとした6名にとっては、ここで何かしらの功績を得なければ、ただ連合にとびきりデカい借りを作って国内外からのあらゆる評価がボロクソに下がるだけだ。
十中八九、彼らがこんな八方塞がりの状況に追い詰められているのは連合が仕組んだことなのだろうし、大抵の探索者だったらそんなこと簡単に察する。
しかし、それでも表立っては連合の陰謀だなんて言えない上、悪い意味で注目を集めている彼らに対する扱いを考え直さざるを得なくなる。
もしかしたら連合は、そうして追い詰められた彼らを取り込むことが目的なのか?
いや、流石に安直すぎるな。
「あぁ、もう!!
何故そこまで強硬ですの!?
死んだら全てが終わりですのよ!
貴方達の祖国だってこんな無謀な博打、認めていないはずですわ!!」
時間だけが無常に過ぎていく。
公女の焦りはどんどん酷くなっていくが、それに比例してアレクセイの纏う雰囲気が酷薄さを増している。
航空部隊への管制はほとんど放棄している状況だけど、無人機達は予め設定されていた指示とプログラムに従って愚直に戦闘を進めていた。
4個連隊もの爆撃機は大隊単位に分散して敵本拠地に波状爆撃を仕掛け、戦闘機は天使達の迎撃部隊を少なくない犠牲を払いながらも攪乱している。
1機あたり12億5000万$の超高価格を誇る連合御自慢のIl-36輸送機12機は、既に作戦空域に到着しており、本拠地からほんの十数km離れただけの空域でゆったりと滞空していた。
6名の探索者は対価のない公女の説得如きでは脱出なんてしないだろうし、このまま彼らが危機的状況に陥った時にでも輸送機からの空挺降下による戦力投下で彼らの脱出する隙を作るのかな。
その場合、6名の探索者は連合に対して、爆撃機に潜り込んだ件と併せて二重の借りが発生することになり、雁字搦めな状態で公女派閥からの脱退と連合への加入に踏み切ることになるだろう。
「……おや!?
敵本拠地の様子が……!」
アレクセイから待ちに待った喜ばしい声が発せられた。
遂に敵本拠地に隠されたギミックが動き出したか。
「時間切れ、か……」
「そ、そんな、もう、ですの……?
こんな……こんなことって……」
『――姫さんっ、大丈夫だ、俺達がなんとかしてやるよ!』
「えっ、この声、まさか――」
「ツネサブロー!?
ツネサブローじゃないかっ!!!」
無線機から突如聞こえてきた自由独立国家共同戦線が誇るツートップが一角、ハッピー・ノルウェー草加帝国の探索者スティーアン・ツネサブロー・チョロイソンの声に、俺のテンションは爆上がりした!
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