第六十話 スポンサーからのFollow up!
「――なんだあれは!?
なぜ我々の爆撃機から人間が投下されているんだ!」
アレクセイが迫真の声を機内に響かせて、大ぶりな身振り手振りで自身の驚きを表現している。
彼が見ている大型ディスプレイには、敵の本拠地に降り立った6名の探索者達の望遠映像が映し出されていた。
戦闘や爆撃による煙や埃などが邪魔で望遠映像だと彼の詳細については判別がつかない。
種も仕掛けも察している俺からすればわざとらしいことこの上ないが、どうやら連合は今回の空挺降下を不測の事態としたいようだ。
あくまでも自分たちの責任にはしないらしい。
まあ、そりゃあそうだよね。
「一体どういうことだ!
まさか自由独立国家共同戦線による攻略特典目的での独断専行か!?」
「そんなわけないでしょう!?
それよりも彼らを一刻も早く脱出させなくてはっ!!
あそこは死地です!
このままだと彼らの命が……!!」
おっと、アレクセイが公女に罪を被せてきたな。
もしかして探索者損失の原因を公女に被せることで、公女の求心力低下による派閥の取り崩しを狙っているのか?
だとしても、現状だとあまりにもあからさま過ぎて、この茶番に引っかかる奴は中々いないと思うぞ。
まあ、当の嵌められた公女はアレクセイの演技を完全に無視して焦りをあらわにしているけど。
外聞や政治的な駆け引きを気にすることなく、彼らを脱出させようと必死の形相を浮かべている。
そして公女の発言から、やっぱり彼女は敵の本拠地に隠されたギミックについてある程度の知識はあるらしい。
その知識に基づいた彼女の想定では、空挺降下した6名の探索者達の生存は彼の地にいたままだと絶望的のようだ。
まあ、そりゃあそうだよね。
あの探索者達がどんな考えでこんなことをしたのかは分からないけど、人生って厳しいものですね!
「我々連合の資材にあんな輸送コンテナはそもそも存在しないぞ!
俺も爆撃機には爆弾と空対空ミサイルの搭載しか指示していない!
これは自由独立国家共同体による周到に計画された欲塗れの妨害工作だ!!」
「妾達だってあんなコンテナ保有していません!
彼らと連絡を取る手段はないんですのっ!?
人の生死がかかってるんですのよ!!」
馬鹿正直に俺達のコンテナに探索者が紛れ込んでいたなんて、流石に言わないよな。
とは言っても航空戦力を日本製兵器で固めている公女達は、あのような無人爆撃機に搭載可能な輸送コンテナなんて保有していないことなんて、兵器の提供者である日仏連合にとっては周知の事実だ。
それでもアレクセイは公女に罪を被せるのを止めようとはしない。
こいつ、本当に戦前は医者志望だったのか?
絶対医療ミス隠蔽するじゃん……
まあ、互いの祖国に生放送されている現状、連合があの探索者達と直接接触して爆撃機にコンテナとして潜り込ませることを誘導するなんて思えない。
どうせ碌でもない方法で彼らの功名心を煽り、わざと彼らに放置された輸送コンテナを発見させて忍び込むよう仕向けたんだろうけど……
それにしても今の段階で少数の探索者による敵本拠地特攻は無謀なんて誰でも分かる以上、アレクセイによる公女への冤罪はかえって連合の失点となりかねないだろう。
アレクセイだってそれは十分理解しているはずだ。
きっとあの探索者達はただの前振りであって、本命はもっとえげつない感じなんだろうなぁ……
人類同盟と比べて加盟国数や国力に大きく水をあけられている国際連合にとって、新たな国家の取り込みや親連合化は最優先すべき目標だ。
彼らの目的がそれである以上、今回の陰謀も目指すべきところは公女派閥の取り込みにあるだろう。
「お前達はそこまでして攻略特典の振り分けを優位にしたいのか!
なぜ一致団結して人類の敵にあたらないんだ!?」
「今はそんなことどうでも良いですわ!
早く彼らに脱出するように伝えないとっ!!
どうすればいいんですの!!?
グンマァァァァァ!!?」
しかし、残念なことにその目的は俺の構想とは相反している。
このままアレクセイの手の平で転がされているのも気に入らない。
絶賛パニックを起こしている公女が何故か俺に助けを求めてきたし、公女のスポンサーである日仏連合として、ちょっくら引っ掻き回してやるぜ!
「こんなこともあろうかと、機械帝国から付いてきた探索者全員に携帯無線機を配布済みだ。
電波中継用の無人機を先ほど障壁内に突入させたから、そろそろ通信できる程度の電波強度は確立できていると思うよ」
「こんなこともあろうかと、連合の格納庫は監視カメラによって常時監視されているのだ。
基地には既に録画データの送付を指示してあるから、もうそろそろデータが送られてくるはずだ。
第2層で物資集積地が破壊工作に遭って以来、用心のために監視カメラを設置していたが、まさかここで役に立つとはな。
同胞たる人類を信じたかったのだが……」
「流石ですわグンマ!」
グンマが差し出してきたマイクを奪うように掴み取って、すぐに死地へと降り立ってしまった彼らに呼び掛ける。
「こちらHQ、敵本拠地に降下した探索者6名、直ちに応答してください!」
「――――」
応答しない。
グンマが電波強度は十分だと言ったので、妾の声はあちらに届いているはず。
「こちらHQ、敵本拠地に降下した探索者6名、直ちに応答してください!!」
「――――」
やはり応答は無し。
否応にも焦りが脳内を塗りつぶしていく。
このまま戦闘が激化すれば敵の本拠地は真の姿である空中要塞として猛威を振るうだろう。
そうなってしまえば彼らは勿論、戦闘空域にいる連合の航空部隊は壊滅的被害を負いかねない。
万が一彼らが生き残っても、彼らの回収は絶望的になってしまう。
「こちらHQ、敵本拠地に降下した探索者6名、お願いですから直ちに応答してください!!!」
「――――」
応答無し。
ここまで呼び掛けて応答がないとなると、敵の本拠地に対する空挺降下は彼らの意思によるものなのだろう。
視界の端で、アレクセイが酷薄な瞳で妾を見ている。
嫌よ。
あんな奴の下らない思惑で、人類の希望である探索者を易々と失うなんて絶対嫌!
「こちらHQ!!
本当に、お願いですから、妾の声に応えてくださいまし!!」
「中継用無人戦闘機、FOX2」
「えっ」
「マジかよ、トモメ」
咄嗟に目を向けた正面の大型ディスプレイには、白煙を吐き散らしながらまっすぐに突き進む1本の空対空ミサイルが映し出されている。
本来だったら空を飛び交う飛行目標に対して、音速の数倍の速度で追いかけまわし食らいつく必殺の矢は、本来の役割をかなぐり捨てて無誘導で眼下の大地に向かって突き進む。
その先には6名の探索者達がいた。
次の瞬間、彼らから100mと離れていない地点に突き刺さったミサイルは、搭載されていた10㎏程度の爆薬と残っていたロケット燃料を盛大に爆裂させた。
「ヨシッ!」
「いや、ヨシッじゃないですわ!!!」
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