第五十五話 雲上の企み
「連合101、107戦闘航空大隊、β4集団へFOX2」
「日仏103戦闘航空大隊、γ2集団へFOX2」
「連合103、104戦闘航空大隊、タリホー、α2集団とドッグファイトへ移行」
日仏連合と国際連合による連合航空軍、その前衛部隊と末期世界軍の戦闘の火蓋が切って落とされようとしていた。
敵軍は既に白影の強襲により僅かながら混乱しているようだ。
アレクセイと公女が断続的に戦闘報告を上げ続ける。
戦況は目まぐるしく変化し、レーダー図上では夥しい光点が交差する。
「連合第3戦闘航空連隊の進路を11時方向に変更。
連合第4戦闘航空連隊の進路そのまま。
連合103、104戦闘航空大隊のドッグファイトは許可できない。
両大隊の進路を3時方向に変更し40%の増速を300秒間継続」
「連合第3戦闘航空連隊、11時に変針。
第4戦闘航空連隊は進路維持。
連合103、104戦闘航空大隊、3時に変針し増速40%」
敵の数はおおよそ1個師団15000体。
それに対して連合航空軍の機体総数は戦闘機だけで648機。
こちらの戦闘機が1機辺り4発の
これに白影のカトンジツすら防いでしまえる障壁すら展開できるのだから、正面から馬鹿正直に攻め込んでも敗北必須。
「連合103、104戦闘航空大隊、M1.4に到達。
増速停止確認。
速度維持時間、残り291秒」
「最初に発射したミサイルの着弾は?」
「Δ1、β1集団へ着弾まで残り115秒」
接敵前に撃っておいた渾身のAAM216発は、予定通りの進路で着々と敵との距離を縮めていた。
コイツラを使って天使達の顔面を引っ叩くためにも、残り2分弱でもう少し場を整える必要がある。
今回の攻勢は偵察という名目だが、俺としては決められるんだったらこれで決めちゃいたい。
抜け駆けみたいで国際連合や雑多な小勢力からの評判は悪くなるが、悲しいけどこれって戦争なんだよね。
実は俺達が乗っているE-203には、高嶺嬢と白影、従者ロボ1個小隊24体がコッソリ乗り込んでいることをアレクセイと公女はまだ知らない。
なんとか戦闘機で敵陣に穴を開け、さり気なく連れてきた爆撃機で障壁を破壊して俺が高嶺嬢達を投下すればもう勝確ってもんよ。
まあ、国際連合も偵察目的なのに爆撃機を4個連隊432機も引き連れているのだから、抜け駆け目的なのは俺だけじゃないようだけど。
視界の端では国際連合元首のアレクセイが、何食わぬ顔でオペレーター業務に勤しんでいた。
「敵中央集団、7割撃破。
敵陣ど真ん中に大穴が空いたな」
隣の席でレーダーを眺めていたアレクセイが思わずといったように感嘆の声を漏らした。
物量と魔道障壁によって盤石の守りを見せていた敵軍は、AAMによる波状攻撃と部隊移動による陽動を巧みに使った戦術で今やその大部分が戦域から姿を消している。
数的優勢、地理的優勢、防御側優勢など様々な面で戦略的に優位だった敵軍だけれど、グンマはそれを戦術だけで覆して見せたのだ。
多様な要素を含んだ地上戦ならともかく、逆転要素の少ない航空戦で戦略を戦術が打ち破るなんて……
実際にこの目で見て、なんだったら実際に妾自身が管制していたのにもかかわらず、とてもではないが受け入れがたい事実だった。
「まあ、トモメならこの程度当たり前か」
アレクセイがさも俺は分かってましたとばかりに訳知り顔でうなずく。
その後方彼女面に少しイラっときた。
「……あら、随分と余裕ですわね」
「もちろんだとも。
特典を保有せずにここまで来ると、相応の余裕も出るものだ」
アレクセイがニヤリと口元を吊り上げるさまがなんとも厭らしい。
特典を持っているにもかかわらず、単独でダンジョンに挑めない妾達に対する嫌味だろう。
悪辣でふてぶてしい性格が端々から滲み出ている。
別にいくらでも言い返せるけれど、空中戦の真っ最中にこれ以上踏み込むのは流石に不味いか。
「……敵は現時点で展開兵力の5割を喪失、部隊機動に若干の乱れあり。
おそらく指揮系統に混乱が生じていますわね」
「普通の軍なら全滅判定だ。
若干の混乱程度で済ませている彼奴等はむしろ異常だな。
テレパシーで意思疎通を取ることのできる強みというわけか」
天使達が意思疎通にテレパシーを用いることは、人類が末期世界ダンジョンで多くの戦闘経験を重ねた現在では既に周知の事実となっている。
近接戦闘を好む探索者の中には、戦闘中に精神へ直接叩きつけられる天使達の罵倒や断末魔を嫌って、末期世界の攻略を意図的に避ける者も少なくない。
誰も彼もがグンマやハナ・タカミネのように図太くはないのだ。
横目でグンマをチラリと覗き込む。
先ほどから会話に参加してこないと思ったら、味方の部隊配置が映るモニターを眺めてなにやら深く考え込んでいるようだ。
雑談をしていた妾が言うのもなんだけれど、戦闘中の指揮官が戦闘から気をそらすのは如何なものだろう。
「とは言っても、ここまで一方的に進めば最早結果は決まったな。
だろう、トモメ?」
「……」
アレクセイが話を振ってもグンマは沈黙したままだ。
余程思考の海に沈んでいるのか、モニターから視線を動かすことすらしない。
彼の様子を見てアレクセイは仕方ないとわざとらしく肩を上げた。
アレクセイの視線はトモメに向いたままだ。
それに妾はほんの些細な違和感がよぎる。
取るに足らない、それこそ普段であれば気にせず流してしまうような極僅かな感覚。
言葉選び、イントネーション、息遣い、仕草、姿勢、目線、表情。
一つ一つは至って通常通りだけど全部合わせてみると何かが違う。
アレクセイの能力を知っている妾には、この違和感を今の状況で流すことなんてできなかった。
アレクセイ、貴方、企んでいますわね……?
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