第五十三話 発言権と戦力の比例関係

国際標準時 西暦2045年8月28日9時45分

末期世界第4層


 末期世界第4層に侵攻を開始して9日目、攻略は順調に推移していた。

 あまりにも想定通りに進むので、恐ろしさすら感じるほどだ。

 もしかして何かの罠にかかっているんじゃないのか?

 いつもなら高嶺嬢か白影が何かやらかすところだが、空中戦がメインの為か、空を飛べない高嶺嬢は制御下にあり、白影も対抗心を燃やすことなく冷静な判断ができている。

 こんなに順調に進んで果たして良いのだろうか……


 『召喚』によって従者ロボの無人機管制能力を増設したにも関わらず、航空戦力しか活用していないために彼らの管制能力にも現状かなり余裕がある。

 高嶺嬢の護衛に1個分隊の従者ロボを付けられる程度には余裕アリアリだ。

 もはや魔界や機械帝国での切羽詰まった部隊運用が懐かしい。


 第三世界諸国の探索者達も活躍の場が少数精鋭での拠点攻略の為、軍対軍が戦闘の主体だった前回の機械帝国と比べ、良い感じに個々人の戦闘経験が蓄積されている。

 特に元々公女派閥の武闘派ツートップだったツネサブローとウォルターの成長は目覚ましく、二人揃えば第三世界諸国最強の戦闘集団と謳われる☆彡魔法少女☆彡サバンナ☆ブラザーズと良い勝負ができるかもしれない。

 下僕従者フワッフの装備と無人兵器導入率さえ改善すれば、陸戦に限ってだが同盟や連合に対抗可能なんじゃないのか?


 そう考えると公女達も順調に成長したものだ。

 なんだか育成ゲームをしてるみたいで楽しいね!

 






「…… なんだか楽しそうだな、トモメは」


 妾と背中を向き合わせて座る国際連合元首アレクセイが、専用にしつらえた指揮官席に座るグンマを見ながら呟いた。

 その独り言を拾う人間はいなかったが、妾はつられて目の前の統合情報ディスプレイから視線を外してグンマの表情を窺う。

 …… 相変わらずのポーカーフェイスで分かりませんわ。


 日本が誇る重巡航管制機E-203、その機内には妾とグンマ、アレクセイの他には従者ロボ以外に誰も搭乗していない。

 世界最大の旅客機をベースにした機体に、僅か3人と4体しか乗っていないなんて贅沢極まりない。

 機内設備だって8基の量子コンピューターを搭載していたり、一人一人に幾つもの統合情報ディスプレイを用意されていたりとかなり豪勢だ。

 こういう地味な金満感は止めて欲しい……


 日仏を中心とした複数の国家連合による6日間6派に渡る攻勢作戦、国際連合による当初からの数十派もの航空攻勢。

 膨大な空軍力で押し潰された末期世界側は遂に全ての前線拠点を失い、いよいよ残すところ敵総司令部のみとなった。

 それに伴い、流石に1つの標的を別々の作戦で攻撃して味方撃ちする訳にもいかない為、日仏連合と国際連合は合同攻勢を行うこととなった。


 ディスプレイに表示された戦域図を見る限り、再前衛の日仏軍1個戦闘機連隊、連合軍2個戦闘機連隊が想定接敵ラインに至るまで残り10分ほどか。

 先頭はもちろん、人類最強の空中戦力であるアル姉様。

 ここまで群馬の戦術が大嵌りしてスムーズに攻略を進めていったが、果たして最後に待ち受ける総司令部には通じるのかしら……


 妾の特典『これで完璧! 次元間紛争介入裁定 完全攻略ガイドブック』によれば、今回の末期世界第4層は初めて末期世界側の空中要塞が登場するステージ。

 最後のボスも空中戦を本領とする風神。

 軍の要となる戦乙女1個連隊も今までの戦闘では消耗を抑えて温存していたようだし……

 グンマが奇襲手段として使用している空対空ミサイルAAMも要塞を使用した陣地戦になってしまえば、威力が小さすぎて有効な攻撃手段にはなり得ないだろう。

 

 グンマもアレクセイも今回の攻勢は飽くまでも漸減目的であり、そのまま敵基地を攻め落とそうなんて考えてはいないようだけど。

 でも、参加兵力は日仏2個戦闘機連隊1個爆撃機連隊、連合4個戦闘機連隊4個爆撃機連隊と実に戦闘機648機、爆撃機540機と膨大な戦力だ。

 小国ならば丸ごと石器時代にすることも可能な破壊力を持っている。


 相手の出方が分からない以上、調子に乗って変に刺激しなければ良いのだけど……

 ううぅ、自前の戦力が乏しすぎて発言権皆無ですわ……

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