第五十話 機上の姫達

国際標準時 西暦2045年8月22日8時00分

末期世界第4層



 機械帝国第4層の攻略を終えた日仏連合と付属する諸勢力が末期世界第4層に乗り込んで3日。

 ようやく態勢を整えた日仏連合は、遂に末期世界軍に対する攻勢作戦を発動させた。

 参加兵力は無人戦闘機216機、無人爆撃機108機、空中管制機3機、輸送機24機、重巡航管制機1機。

 有力な在来の人類勢力である国際連合とは協調路線を取らず、単独での攻勢作戦であった。



「恨みますわよ、グンマァ」


 高度11000m、一般的に成層圏と呼ばれる空域を、3つの編隊を組んで飛行する輸送機の群れ。

 その内の1機に、ルクセンブルク大公国が第一公女シャルロット・アントーニア・アレクサンドラ・エリザべード・メアリー・ヴィレルミーヌ・ド・ナッソーは搭乗していた。

 自由独立国家共同戦線という11ヵ国で構成された国家連合の長であり、他に2つの国家連合12ヵ国に対し主導的立ち位置であるシャルロット公女。

 彼女は今、自身の境遇を恨むようにムスッとして小窓から機外を眺めていた。


「ヘイヘーイ! なんだか元気ないですねー」


 何故か隣の席に座っている人類最強の決戦兵器、日本国が内閣総理大臣御令孫、高嶺華。

 身内以外にはあまり積極的なコミュニケーションをとらない彼女だが、誕生日以降、親しみを覚えたのか、公女の事をNINJAに次ぐ友達認定していた。

 彼女は大半の探索者にとってトラウマと化しているフレーズを気軽に放ちながら、友人だと思っている公女を気遣った。


「ひゃいっ!?

 そ、そうでしょうか!?

 妾、やる気満々ですわ!」


 一方、気遣われたシャルロット公女は、酷く狼狽ろうばいしながらも気丈にカラ元気をアピールする。

 公女は明らかに史上最も多くの生物を直接殺害した存在にビビり倒していた。

 ちなみに先程のヘイヘイによって、偶々彼女達と同じ機体に振り分けられていた自由独立国家共同戦線所属の探索者4名は、食肉工場で順番待ちしている豚の様にその身を硬直させている。



—— カラ元気、しかし指摘しない方が吉 ——



「カラ元気ですねー。

 でも、そういう姿勢、大事ですよねー!」


 高嶺華は折角スキル『直感』によって察することができたというのに、それを気にすることなく友好を深めようとマイペースに突っ走る。

 ストレートな指摘に公女は一瞬固まるが、そこは腐っても三元首に匹敵すると評される傑物。

 すぐに立て直して、はとこの引きオタと接する時同様の愛想笑いを条件反射で浮かべる。


「あはは、ありがとうございます。

 彼の名高きタカミネ女史にそう言われるなんて、光栄ですわ……」



—— 気まずい空気 ——



 戦闘中以外は滅多に『直感』スキルに従わない高嶺華の行動は、いつもがゴーイングマイウェイ。

 シャルロット公女は今、自分だけの箱庭に片側2車線の幹線道路を通された気分を味わっていた。


 グンマもそうでしたが、日本人ってこんなに灰汁の強い人種でしたっけ……?

 確か我が国に駐在されていた大使館の方々は、もう少し慎み深かった気がしますわ……


 公女は現実逃避気味にかつての記憶に思いをはせるのだった。

 






「—— 第一戦闘機連隊の空対空ミサイルAAMによる先制攻撃は成功。

 間を置かず白影が敵前衛の1個連隊と接敵エンゲージ

 迂回ルートを行く第二戦闘機連隊はあと5分後に、敵軍の横合いへ戦線奇襲攻撃か」


 末期世界第4層における俺達の記念すべき第1回攻勢作戦は、今のところ極めて順調な滑り出しをしているようだ。

 天使達は予想通り可燃物だったようで、白影との接敵を期にレーダー画面上にてあっと言う間に溶けていっている。

 このままのペースなら最前衛の敵1個連隊が崩壊するのも30分とかからないだろう。


 後に続く敵2個連隊が慌てて救援に向かおうとしているが、5分後に奴らの横っ面をミサイルで引っ叩く予定だ。

 チーム日本の主力無人戦闘機であるUF-2は、通常はステルス性を保つために胴体部のウエポンベイに4発の誘導弾しか搭載できない。

 しかし、ダンジョン戦争では電子ステルスなんざ機械帝国と高度魔法世界以外には無意味なので、翼下にハードポイントをマシマシに増設して12発の誘導弾を搭載させている。


 今作戦に参加している戦闘機部隊は第一、第二連隊のみだが、彼らの残弾はそれぞれ11発ずつ。

 1発1殺だとすると、2376体の天使を遠距離から一方的に殺戮できるわけだ。

 まあ、今の敵戦力は国際連合の時と同様の1個師団15000体なので、全体の2割にも満たない数だが、誘導弾による奇襲効果は侮れない。

 今みたいに白影の接敵前にタイミングを合わせて行えば、敵の組織抵抗力を一気に奪うことが可能となる。


 最終的に俺達も戦闘機によるドックファイトは避けられないだろうが、それまでに出来る限り敵戦力を削っていきたい。

 そうすれば連合ほどの損害は受けないだろう。


 敵の制空権さえ突破してしまえば、後は敵拠点に爆撃した後、高嶺嬢を投下するだけだ。

 空中戦がメインのフィールドなので、敵拠点がある地点の面積は狭い。

 高嶺嬢さえ投下すれば、パパっと絞めて終しまい。

 今日の祝勝会は手羽先祭りじゃあ!

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