第四十七話 『召喚』の価値

 地獄のクッキー地獄から無事に生還したあと、俺はいつも護衛として引き連れている美少女と美少年1、2号の4体と一緒に食堂へ来ていた。

 芯スキル『召喚』の試験を行う為だ。

 根拠地内では食堂が一番広い。


「ぐんまちゃん、何するんですか?」


 食堂で趣味のお裁縫をしていた高嶺嬢が、食堂の一角で集まっている俺達に興味を持ったようだ。

 顔はこちらを向いているのに、器用にも手は淀みなく裁縫を続けている。


「新スキルの試験だよ。

 万が一危なそうだったら助けてね」


「なんだかハイテクそうですね!

 分かりました、注意しておきます」


 高嶺嬢はそう言うと裁縫を中断して、俺の元までトコトコとやってきた。

 何をもってハイテクと判断したのかは分からないが、相変わらず戦場以外では可憐である。


「ヨシッ!

 じゃあ、始めてくれ」


 開始の合図を送ると、美少女1号が前に出る。

 

 俺の手を取りながら。


「えっ?」


 そのまま美少女1号はズイズイ進んでいき、食堂を出ていこうとする。


「えっ? えっ?」


「どこに行くんですか、ぐんまちゃん?」


 俺が知りたい。

 食堂を出た美少女1号はレッドカーペットが引かれた廊下を歩き続け、『道具屋』と表記された扉の前で立ち止まった。




「道具屋?」


「ぐんまちゃん、お夕飯は何を食べたいですか?」


 こんな時に聞かないでくれない?


「ハンバーグかなぁ……」


「分かりました。

 頑張って美味しいの作っちゃいますね!」


 美少女1号は『道具屋』に入ると、注文入力するパソコンの前に俺を連れてくる。

 操作したらいいの?


「…… あっ、新しく『召喚』ってメニューが追加されてる!」


 模様替えの時はなかったから、実装されたばかりなのだろう。

 クリックする。


 美少女1号 召喚(1回目) 10億円

 美少年1号 召喚(1回目) 10億円

 美少女2号 召喚(1回目) 10億円

 美少年2号 召喚(1回目) 10億円

 …………


 えっ、スキルって課金制なの?


 しかも下手な戦車より高い!


 次元管理機構の銭ゲバっぷりに震える。

 まあ、購入しないことには検証できないし、とりあえず美少女1号の召喚を購入してみよう。

 俺は購入ボタンをクリックする。

 美少女1号さん、10億円入りましたー!


 美少女1号 召喚(2回目) 20億円

 美少年1号 召喚(1回目) 10億円

 美少女2号 召喚(1回目) 10億円

 美少年2号 召喚(1回目) 10億円

 …………


 Wow!


 俺が価格の変化に目を剥くのと同時に、パソコンの画面が変化し、金糸で装飾されたレッドカーペットと赤い豪奢な両開き扉が映し出された。

 快活だけど安っぽい音楽が流れ出し、激熱と書かれた扇子を広げた従者ロボが登場する。

 その額には理事長と表記されている。

 そのまま理事長は軽快な足取りで扉まで向かい、少しだけ勿体ぶって扉を開けた。

 画面が扉をくぐるようなカメラワークの後、競馬場の様な場所に情景が入れ替わる。

 競馬場?のゲートに画面がスクロールする。

 ゲートの上には『Horse is Sakura-nabe』の文字がキラキラと輝いている。

 そして、虹色に輝くゲートがスタートピストルの音とともに開かれた!

 

「あっ、何か出てきますよ!」


 高嶺嬢の声につられてそちらを向けば、バソコンの置かれたカウンター横のボックスからゴウンゴウンと音がしだした。

 やがてエレベーター程もある大きなボックスの入り口が開かれる。


「…… こ、これは」


 現れたのは艶消しされた金属ボディーをもった直径2mほどの球体。

 正面中心部は不気味な緑色の光を宿している。

 それは重力なぞ存在しないかのように、空中に浮いたまま微動だにせず制止していた。

 

『鑑定』


『太陽神の眼窩がんか:歌って踊れる自律浮遊拡張ユニット。敵の迎撃から演算機能拡張までなんでもござれ。補給不要でメンテナンスフリー! 1基につき1個大隊の無人機管制可能! 環境に優しい兵器です』

 

 商品説明みたいな鑑定結果だな。

 太陽神の眼窩がんかSolソル Diosディ♂ Orbitオービットか……

 略してSODだな!

 従者ロボの無人機管制機能を強化してくれるようだし、これで将来的な戦力不足問題も解決する。

 クックック、次元管理機構もずいぶんと粋な真似をしてくれるじゃないか!


「とりあえず2基目を購入するか。

 美少女1号、そいつをボックス内から移動させてくれ」


 SODにどうやって指示するか分からなかったので、美少女1号に頼んで退かして貰うことにする。

 ボックス内に居座られては、次の購入処理ができなさそうだ。


ガンッ


 おや?


ガンッガンッ


 SODの様子が……?


ガンッガンッガンッ


 直径2mはあるだろうSODがボックス内から出ようとするも、ボックスの入り口に引っ掛かって出られていない。


「あちゃー、寸法ミスですね」


 高嶺嬢が苦笑いを浮かべた。


「……」


 俺は無言でパソコンの『召喚』画面を端から端まで読む。

 するとやっぱり有りました。

 一番下に※マークで——


『※『召喚』したものは『道具屋』内の受取ボックスからしか取り出せません』


 俺はメニュー画面に戻って『模様替え』をクリック。


『道具屋ボックス拡張:1000億円』


「—— おぅふ」


 次元管理機構の銭ゲバっぷりに震えた。




2045年8月18日 ぐんまちゃんのお買い物

・道具屋ボックス拡張 1000億円

・『召喚』 従者ロボ24体分×2回(10億+20億)=720億円

・UF-2無人戦闘機(80億)×252=2兆160億円

・UB-1無人爆撃機(108億)×36=3888億円

・各種燃料弾薬(2000億円)×3会戦分=6000億円


 合計3兆1768億円也。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る