第四十話 分からされた超大型機械兵
国際標準時 西暦2045年8月17日6時30分
機械帝国第4層
日仏連合を中核とした人類軍による第二次攻勢作戦は、2カ所の前線基地を陥落させ、遂に機械帝国総司令部まで10kmの位置まで戦線を押し上げることに成功した。
その時点で、日仏連合主力は最前線で敵超大型機械兵と戦闘中の高嶺華との合流に成功。
残存する1カ所の前線基地に対し、NINJA白影と日仏連合第四機甲旅団、第一、第二フワッフ軍団を差し向けた。
前日から続く作戦に、各部隊の物資は危険ラインを割り込み人員の疲労は蓄積していたが、総司令官上野群馬は攻勢の続行を決定。
空中給油を繰り返しながらも、司令部を局地制圧用攻撃機AC-4の機上に置いたまま機械帝国総司令部攻略作戦に移行した。
頭頂部が雲にかかるほどの巨体を誇る超大型機械兵。
目視による推定で全高2000m全幅700m総重量2000万tという途方もない大きさだ。
膨大な自重を支える強固な鋼殻は、通常兵器を用いた撃破方法が考えつかないほどの脅威である。
そんな化物が今、俺の目の前で、全身ぼろきれの様にされて四つん這いでゲロ吐かされてる。
いや、正確にはゲロではないし、四つん這いでもない。
口のような頭部開口は開きっぱなしで、ボロボロと内部部品を
数百mもの大きさだろう腕部は片方が捥ぎ取られ、四つん這いではなく三つん這いだ。
とにかく、ぼろ雑巾の様にボコボコにされていた。
「もはや哀れみすら感じますわ」
俺の横で同じ情景を眺めていたシャルロット公女が、口元を抑えながら同情の言葉を吐く。
ちなみに一時間ほど前に彼女もトイレでゲロを撒き散らしていた。
末期世界第3層の高嶺嬢や白影と違い、プライベート空間と認識されるトイレ内でのことなので、公女のゲロッパを公国国民は見ずに済んだということだ。
超大型機械兵が高嶺嬢に襲われたのが確か昨日の21時だったか。
かれこれ9時間弱も高峰嬢相手に持ちこたえていたことになる。
何気にぶっちぎりで最高記録だ。
やっぱりデカさとは強さなのか……
『—— ヘイヘーイ! ぐんまちゃんも見てることですし、一気に決めますよー!』
無線機から不穏な声が聞こえた。
とうとう超大型機械兵の命運も尽きようと言うのか。
ディスプレイ越しに見る超大型機械兵の拡大画像では、目元から漏れだしたオイルが涙の様にポタポタ流れ落ちている。
ちょっとグレ始めた中学生男子が、猛り狂ったヘビー級世界チャンプのボクサーに身の程を分からされたかの有様だ。
酷いとか可哀そうを通り越して只々惨い。
あんなになってまで頑張って生きているのに……
それでも彼?を殺すと言うのか……!
まあ、人生ってそんなものだよね。
『一之太刀』
一瞬、朱閃が視界を縦断した気がした。
戦場音楽に包まれていた戦場に沈黙が瞬間的に挿入される。
その沈黙はまるで空間、いや、世界が上げる悲鳴のように感じた。
「…… あっ、あ」
公女の顔が少しだけ
味方の攻撃にビビっているその姿を、俺には馬鹿にする気が起きなかった。
今まで高嶺嬢の間近でしか見ていなかったから分からなかったが、初めて遠目から見て分かった。
アレはヤバい。
ランクで言うとヤバイヤーくらいかな。
白影誕生日事件程ではないが、それでも軽々しく撃つのは躊躇われるほどのヤバさだ。
あんなものを連発すれば本当に世界を切断しかねないぞ。
いや、高嶺嬢が絶賛成長中なことを考えれば、いつかあの必殺技は世界を切り裂きかねないものだ。
ズゥゥゥゥゥゥゥンゥゥゥゥ
あっ、首墜ちちゃった。
世界を切り裂いたらどうなるのかなんて、俺には分からない。
多分すぐに塞がりそうな気もするけど、そうなったら恐らくだが管理側が黙っていないのではないだろうか。
このダンジョン戦争の主催者である次元管理機構は、他世界からの侵略を制限し、こんな訳の分からない状況を侵攻側と被侵攻側に強制できる程度には空間を制御できるのだろう。
そもそも名前からして自分達の事を次元の管理者だと標榜している。
そんな連中が自前で空間切断可能な知能2を放っておくだろうか。
魔界や機械帝国などの他世界は、俺達の世界に侵攻しようとしている以上、次元間をある程度自由に行き来できる技術を持っているはずだ。
それにも拘わらずダンジョン戦争に付き合っていることから、彼らの次元間航行技術は凍結されているか、行使を許されない状況にあるとみて良い。
「ふぅ、何度見ても恐ろしいですわね」
そうでなければ文明の劣る相手に、それぞれの世界で数万の被害を出している現状は到底認められない。
いや、だが本当に他世界側は俺達の世界を侵略したいのだろうか?
わざわざ次元管理機構なんて上位存在に介入されて下位文明世界相手に大勢の被害を出し、やっとの思いで手に入れたとしてもたかだか惑星一つ。
どう考えても割に合わない。
「なんだか妾は喉が渇いてしまいましたわ!」
次元を超越する程に文明が進展しているのなら、近場の衛星や他星系を開発した方がよっぽど手間も少なく安上がりなのではないか?
少なくとも西暦2045年の地球では、万を超える国民を犠牲にして訳の分からない他世界に侵攻するよりも、月や小惑星帯の開発を選択するだろう。
実際に現実的なマスドライバー建造計画もあったのだ。
「グンマ、昨日、貴方の部屋で頂いた白いのを所望いたしますわ!」
「はいよ」
「これこれ、これです! 感謝いたしますわ!」
だったら、何故俺達の世界に侵攻する?
本当の目的は地球という惑星ではないのか?
だったら、人類、知能のある奴隷種族が目的か?
いや、そんなもの人工知能である程度解決できる。
そもそも奴隷制度は一定以上の先端文明では効率が悪すぎる。
だったら、地球の自然か、人類の文明か?
それこそ上位文明である他世界側にとってはコレクション程度の価値しかない。
資源や土地、環境でもない、人類でもない、だったら……… 何が残る?
「美味しいですわぁ」
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