第四十一話 戦争考察

 一度考え始めると、思考が加速し続けて止まらない。

 まるで、今まで何かで塞がれていたものが一気に解き放たれたかのように……



 …… うん? なんだかおかしいな。



 そもそも俺はなんで今までこんなに根本的なことを深く考えなかったんだ?



「グンマもコレ飲みますか?」



 知能2の高嶺嬢はともかく、ある程度脳味噌のあるNINJAもこんなこと気にしていなかった。

 アレクセイや顔面凶器ですら、こんなこと一度も話題に上がった記憶はない。

 いや、色々な探索者と話したし、日仏から多くのミッションを受けたけど、一度も敵の事情について触れられていない。




 ………… もしかして、思考制御?


 


 そう考えると納得がいく。

 まともに考えれば、最初に敵の侵略理由を探りたいところだ。

 それに言葉が通じる敵もいるのに、何故交渉という選択肢を思いつかなかったんだ?

 おかしいだろう、常識的に考えて。


「飲まないんですか……」


 相手に交渉する気が無くても、せめて尋問くらいしようぜ?

 というか、確か高度魔法世界第2層で捕虜相手に尋問したじゃん、俺が……!

 何故、あの時は武器庫の位置しか尋問しなかったんだよ……!?

 



 ………… もしかしなくても、思考制御?




 思考制御だよ!

 ミッションでその系統の依頼が無いということは、母国の方も同様の思考制御もしくは何らかの制限があるということか。

 

 そう考えると、他世界側の侵攻理由も怪しくなってきた。

 奴らは何の目的で俺達の世界に侵攻したのか……


「それなら妾はもう一本いただきますわ!」




 いや、そもそも本当に侵攻なのか?




 序盤の敵は明らかに武装の制限を受けていたし、戦闘技術もそこまで洗練されていなかった。

 なのに階層が進むにつれて、武装が強化されていき、軍隊としての質も向上し続けている。

 これでは、序盤の敵は生贄じゃないか!

 いや、でも、奴らの技術力から想定すると、現状でも生贄みたいなものか……


 戦闘中の様子だと、何度も同胞を助けようとしている場面を見たことがある。

 それを理由に、俺は魔界第2層でリンゴ飴大作戦を考え、実行した。

 人命についての感性は俺達地球側とそこまで変わらないはずだ。

 それならば、何故こんなリスクを冒してまで……




 侵攻ではなく、強制されていたら……?




「美味しいですわぁ!」


 強制されていたら、こんな非合理的なことをするのも仕方がない。

 明らかに次元管理機構は、どの世界よりも上位の文明を持つ相手だ。

 そう考えると、あらゆることに納得がいった。


 だが、そうなると、今度は次元管理機構側の意図が読めない。

 何故こんな状況を作りだす?

 今まで味方よりの中立だと考えていたが、敵なのか……?

 そもそも、どうして俺は姿を見たことも、実際に声を聞いたこともない相手をここまで簡単に信用していたんだ?


 ヤバい、思考制御がヤバすぎる。

 思考を制御できるとすれば、今のこの考えも把握されているのか?


 いや、だが、ここまで考えて次元管理機構側から何の干渉も無いということは、常時監視されている訳ではないのか?

 だとすると、他の面子にこのことを相談する訳にはいかないな。

 他世界との交渉や捕虜の尋問も軽々しくは行えないぞ。


「…… グンマァ、先程から何か考え事をしていませんこと?」


 うーん、もしかすると顔面凶器辺りはこのことに気づいてるんじゃないか?

 あの顔で保育士志望という、もしかして鏡を見たことないんじゃないか疑惑のある女だが、彼女は結構視野が広い。

 戦略を練っている最中に気づいていそうだ。

 だけど、一度もこの話題が上がらなかったことを考えると、彼女も俺と同じ結論に至ったか……


 そう言えば、他世界側は動力として魔石を使用していたな。

 一方、俺達の世界では魔石なんて存在しない。

 技術体系だって明らかに魔法的なファンタジーっぽいやつだ。

 機械帝国は一見俺達と同じ技術体系っぽいが、動力が魔石な時点で明らかに魔法的な技術を使っている。

 

「黙っているのに、手は気持ち悪いくらい動いて部隊に指示を出しているのですわ!」


 侵略側と被侵略側の違いはそれか。

 もしかすると、俺達にとっての次元管理機構的なものがあちらにもあるのか?

 これは、異なる技術体系の上位文明による、下位文明を使用した代理戦争?

 

 うーん、それっぽい感じがするけど、違うような気もしなくもない。


「手の動きが気持ち悪いですわ!」

 

 そう言えば、公女の特典『現状を事細かに説明された書物』には、それが書かれているのか?

 次元管理機構を黒幕側だと考えると、黒幕がわざわざ自分の意図を教えてやるのか?

 次元管理機構側にも何らかの俺達に対しての肩入れがあるのか?


 うーん……


 まだ、分からない。


 多分だけど、ヒントは他世界側が持っているのだろう。

 そもそも4つあるダンジョンの中で名前からしておかしいのがいる。

 

 魔界


 高度魔法世界


 機械帝国


 末期世界……!!!


 なんだよ、末期世界って。

 めっちゃディスるやん!


「気持ち悪いですわ!」


 それに奴らはテレパシーで会話してくる。

 指揮官クラスを相手にある程度相手に余裕を持たせながら長期戦を行えば、会話の最中に何らかの情報が得られるかもしれない。

 

 いや、駄目か。


 知能2じゃあ、できないよなぁ……


「あっ、前線が敵の総司令部に到達しましたわ」


 考察は止めて戦争しよっ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る