第三十九話 移り行く戦況
国際標準時 西暦2045年8月17日0時45分
機械帝国第4層
前線 日仏連合第一機甲師団 強襲遊撃兵団
島嶼諸国連合 キプロス共和国 マリオス・カコヤニス
前日の昼から開始された第二次攻勢作戦は日付を跨いでも決着を見せなかった。
むしろ戦闘は激化の一途を辿っている。
日の光も消えた深夜だと言うのに、戦場は数km先を見通せるほど明るい。
戦場のあちこちで燃え盛る炎、各種重火器の発砲炎、常に打ち上っている照明弾など光源に困ることは無い。
『
目の前で
40体の茶色い毛玉の集団から放たれた計20本の飛翔煙が、真っ直ぐに空を切りながら1km先の機械兵集団へ次々と飛び込んでいく。
連続した爆発がハッキリと視認できる。
機械兵の巨大な身体が一瞬で光の中に消えた。
『
駄目だ、やってない。
残火に照らされた鋼鉄の肉体が悠然と立ち並ぶ。
四肢の欠損はあるものの、未だ大半の個体は稼働状態。
着弾で荒れた大地を踏み鳴らしながら、整然と進撃を続けている。
『
『
『
戦線が増えすぎて野戦砲による支援砲撃が間に合っていない。
機甲部隊はその機動力を十全に発揮して戦線全体をカバーしようとするが、前線部隊が突出し過ぎていて、もはや戦場は線ではなく面となってしまっている。
日仏連合は三大勢力の一角と言えど、本質的には2ヵ国による小身の勢力。
それが災いし、彼らが投入している2個機甲師団程度では広大な第四層ダンジョンの戦場を面で支えることはできない。
なにより、最前線を強引に押し上げるハナ・タカミネ女史に全く追いつけない。
総司令官である日仏連合指導者トモメ・コウズケ氏はこの状況を打開すべく、一部の機甲連隊を先行させつつ、急遽新設した新編フワッフ軍団を機甲部隊の間隙に投入し、線から面となった戦場を制圧しようとしていた。
「クソッ……!
ロボット共が硬すぎる」
歩兵用の対戦車ロケット程度では致命傷が与えられず、かと言って機甲部隊のない
それを補う野戦砲の支援砲撃は戦線を維持できるギリギリのラインでしか間に合っていない。
司令部から間断なく届く指令によって、各部隊が有機的に連携しているからこそ戦線が崩壊していないだけだ。
僅かでも部隊運用を間違えば、巨大なダムが小さな穴からあっと言う間に決壊するかのように戦線は崩壊していくだろう。
ゴオオオオオオオオオォォォォォォォォ
重く沈んだ轟音が戦場の大地を震わせた。
最前線となっている敵の本拠地から数十km離れている筈のここからでもアレの姿ははっきりと分かる。
巨大な、あまりにも巨大なその姿は、私の心を折るには十分過ぎた。
目測で体高2000mを超えようか、頭頂部が雲にかかるほどの巨体は、私達と機械兵とのスケールの違いを矮小な人間にアリアリと分からせる。
あんな鉄の塊をどうすれば良いのか。
もはや勝ち方が分からない。
『
『
ブラウニーの士気が下がっている。
このタイミングで司令部から後退の指令が届いたことは幸いだ。
一旦、下がって態勢を立て直す。
「総員、後退だ!
対戦車ロケットを斉射したら、300m後退する!」
ゴォォォォォォオオオオオオオ
私の指示と同時に、上空から轟々とした音が迫ってきた、
思わずその場の全員が空を見上げる。
ゴオオオオオオオ
光源のない空は、肉眼では暗くて分からない。
しかし、ナニかが雲を突き破って急激な勢いで降りてくる……!
進撃していた機械兵たちが停止し、上空に向けて盛んに矢を放っている。
アレは私達の味方なのか?
『—— こちら司令部』
突然、無線から声が聞こえた。
この声には聞き覚えがある。
この戦場で戦う者なら誰もが聞き覚えがあるだろう。
『これより、この戦域への航空支援を開始する。
各部隊は指令に従い後退せよ』
総指揮官トモメ・コウズケ。
機械帝国第四層における総司令部が、前線までやってきた。
『
『
『
『
「変態飛行だっ……!」
夜なのに機体の形がハッキリと肉眼で分かるほどの低空を飛ぶ巨人機。
至る所から飛んでくる機械兵の対空射撃もなんのその。
時にバレルロール、時にコブラ、時に垂直上昇回避……
その鈍重な巨体でどうしてそんな曲芸飛行染みた機動ができるのか。
そもそも機体の向きを維持したまま垂直回避ってどうやるのか。
疑問が尽きない変態的な空中戦闘機動。
そんな変態航空機から吐き出される夥しい砲火は、戦域に散らばる機械兵の部隊を粉砕していく。
気付けば、遠くから無人多脚戦車の砲火が見える。
1つ2つではない。
10や20でも到底足りない。
100を優に超える機甲戦力だ。
戦場の空気が代わったことを肌で感じた。
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