第三十七話 追い詰められし結末
西暦2045年8月16日17時29分、日仏連合が中核となり第三世界諸国と合同で開始した第二次攻勢作戦は、第一段階目標である機械帝国防御壁と近隣の前線基地を半日とかからず陥落せしめた。
その後、日仏連合はその勢いのままに第二段階目標である戦域の中央を流れる大河の中州に築かれた敵陣地の攻略に移行した。
この時の現地人類軍総指揮官は名将と誉高い上野群馬氏であった。
同氏らしくない無節操な軍事行動の原因は、一説によると一部の前線部隊が著しい命令無視の末に暴走した為だという説もあるが、同氏は後にこの説を激しく否定しており、事前に策定した計画通りだと主張している。
これは同氏の副官を務めていたシャルロット・アント―ニア・アレクサンドラ・エリザベート・メアリー・ヴィレルミーヌ・ド・ナッソー女史も同様に暴走説を否定している。
その他、戦闘に参加していた探索者からも否定の声が多く聞こえるものの、やはり現地部隊の暴走説は一部の識者から根強い支持を受け続けており————
ハッピー・ノルウェー草加帝国 聖教アフテンポステン紙より抜粋
西暦2045年8月16日18時5分
高嶺嬢と白影、日仏連合が誇る人類戦力のツートップが暴走したことで済し崩し的に再開された戦闘。
第二段階作戦は兵站備蓄もままならない状態で幕を開けた。
人類側の中核であり、戦力の9割以上を担っていた日仏連合軍は、第一段階作戦完了の段階で備蓄弾薬は5割を切っており、当初のような濃密な事前砲撃を行うことは難しかった。
第三世界諸国は8割以上残っていたものの、たかだか1個機甲連隊の兵力では軍団規模の戦力がぶつかり合う戦場の状況を変えるには小さすぎる。
そこで総指揮官の俺はこれまでとは異なる戦術を取る。
火力を前面に押し出して、射程と火力に劣る敵兵力を磨り潰していた従来戦術は捨てた。
先ずは圧倒的個体戦闘力を誇る高嶺嬢で、敵の防御陣形を敵前線基地ごと貫通する。
これをやると相手は死ぬ。
次に音速超えの機動力と戦略兵器クラスの広域殲滅能力を有する白影で、敵の防御陣形に空いた大穴から浸透して内部を燃やし尽くす。
これをやっても相手は死ぬ。
最後はシャルロット公女を馬車馬のように酷使して
これだと公女が死にかけるけど相手は死ぬ。
俺は直ちにこの作戦を実行した。
この時の俺は、これで万事解決だと考えていたのだ。
西暦2045年8月16日21時3分
『ヘイヘーイ! ぐんまちゃーん!
おっきな機械が動いてますよー!』
どうやら高嶺嬢が敵軍を貫通し過ぎてしまったようだ。
明らかにダンジョンボスっぽい超大型機械兵と敵の総司令部前で会敵している。
ちなみに本隊である俺達は彼女よりも50kmほど後ろの位置にいた。
川幅4km越えの渡河作戦を2回ほど行わなければならないし、彼女に追いつくのはどれだけ急いでも丸一日はかかるだろう。
「とりあえず倒しといて」
俺にはそれしか言うことができなかった……
戦域地図に表示されている敵総司令部までの巨大な敵戦力の空白地帯は、僅か3時間の間でどれだけの虐殺が行われたのかを物語っていた。
ついでに敵の英雄クラスも追加で1体が残骸として無人偵察機に発見されている。
本当にコイツ等は強キャラなのだろうか?
「グンマァァ!?
ヤバいですわぁぁ!」
公女が恐ろしいものを見たような悲鳴をあげた。
休憩なしのフワッフ3万体召喚でドリルが折れていた公女だが、一体何を見てしまったのか。
「アル姉様がぁぁぁ!?」
そう言ってディスプレイの一角を指す。
俺がそちらに目を向けると、全くの手付かずだった戦域の右上部分を占める敵地に、いつの間にか白影が橋頭保を築いていた。
「何やってんの、あのNIINJA娘!?」
敵地はハチの巣をつついたかのように活発化し、その地域の機械兵たちが一斉に白影のいる場所に集結しようとしている。
何もかもが準備不足の中、図らずしも第二戦線が誕生してしまった瞬間である。
俺の中で全てのプランが崩れ落ちる音がする。
機械帝国軍と大河を挟んで睨み合っていた第一、第二機甲旅団は、第四フワッフ軍団を前面に押し出しつつ急遽川幅8km近い渡河作戦を行わざるを得ない。
川幅8kmなんて渡河というよりも、もはや揚陸である。
無茶だ。
単身で敵の大ボスと敵本拠地を同時に相手取ろうとしている高嶺嬢への援護?
無茶にもほどがある。
少なくとも野戦砲では届かない。
俺は頭を抱える。
こんなの無茶だよ……
物理的にどうしようもないよ……
「や、ヤバいですわぁ……」
頼りない公女は情けない顔でしょうもない泣き言しか零さない。
「…… かねぇ」
「グンマ?」
「…… るしかねぇ」
「グ、グンマ……?」
「やるしかねぇ!!」
「グンマ……!」
うおー! 俺は後方支援キャラをやめるぞ! コウジョーーッ!!
いざという時の為に武器屋で購入したとっておき!
見せてやるぜ!! 上野群馬の勝利の方程式!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます