第三十六話 描写のない英雄
「—— これが英雄クラスか…… 実際に見ると大きいな」
防御壁内部に築かれていた機械帝国前線基地を陥落させた戦闘後、俺はシャルロット公女を伴って実物を見るために現場まで出向いてみた。
目の前にある部品は
指の半分が
高嶺嬢とエンカウントしてしまったが為に、
いや、あちらはパイロットが操縦しているのに対し、こちらは自分自身の肉体であることを加味すれば、反応性や敏捷性など多くの面で機械兵側が上回っていることだろう。
「まともにぶつかれば1個機甲旅団は食われるな」
事前に築いた陣地に
もしも高嶺嬢や白影並みにフットワークが軽ければ、戦場で偶発的に戦闘が発生してしまうことも有り得る。
そうなってしまえば、如何に第4世代以降の主力戦車とはいえ、旅団クラスの戦力が失われてしまうはずだ。
「一部の残骸を見ただけで分かってしまうのですね……」
公女が複雑そうな表情を浮かべる。
彼女の反応を見る限り、攻略本に書かれている情報と俺の予想は大きく外れてはいないようだ。
「何を当たり前のことを…… 我が主にかかればこの程度の推察、アマヨノ=ツキでしかないでござる」
いつの間にか隣にいた白影が口を挟んできた。
あれ、俺の『索敵』にさっきまで反応なかったんだけど。
『索敵』の信頼度が最近怪しくなってきた……
「わひゃっ!?
アル姉さまっ、いきなり現れないで下さいましっ」
俺はもう慣れてしまったが、公女はいきなりのNINJA出現に驚いて自慢のドリルを震わせた。
彼女の
「シャルは修業が足らぬな。
精進すると良い」
しかしNINJAムーブに入った白影にはどこ吹く風。
全探索者中最高の敏捷値がなせる
ちなみにここまで、誰もアマヨノ=ツキの誤用については突っ込まない。
「むぅ、アル姉さまもグンマも能力の無駄遣いですわ」
公女はそう言って怒ってますと言わんばかりに頬を膨らませる。
どこぞの決戦兵器と違い、その程度の表情は可愛いものだ。
あっちは口から火を吐く5秒前のような謎の迫力があるからなぁ……
俺が公女と白影とじゃれ合っていると、端末の戦域情報が更新される。
高嶺嬢は最前線で今も元気に金属ゴミを大量生産している。
護衛としてつけている第二機甲連隊も頑張っているのだが、何故か100両を超える機甲戦力よりも決戦兵器1体が敵を殲滅する速度の方が速いようだ。
このままいけば今日中にはダンジョン中央部を流れる大河の川岸に到達できるだろう。
中州にも敵前線基地が設置され、機械帝国軍中枢部への侵攻を阻むように大河が流れ、もはや要塞と言っても良い程の縦深陣地となっている。
幸い、高度魔法世界第3層のような極寒の環境ではないので、川に落ちて1分で凍死なんてことにはならない。
だが、川岸から陸地まで最低4km程もある河川は、進撃上の目の上のたん瘤となっている。
迂回しようにも、防衛線には機械帝国の部隊が、ぎっしりと配置しており、一部の隙も無い。
どう考えても渡川作戦中に各個撃破されるのがオチだ。
だったらもう、川岸の戦力を砲爆撃で中州の機械帝国部隊に効力射を仕掛け、その隙に一部の精鋭部隊を上陸させて貰うか。
そんなことを考えていると、明らかに高嶺嬢っぽい光点が、大河に向かって全速力で駆け抜けていく。
これはまた暴走かな?
高嶺嬢から逃げるように赤い光点が川を渡っていくので、それを目の前にした青い光点は興奮したように移動速度を速めた。
『ヘイヘーイ、逃げる案山子は悪い案山子!
逃げない案山子は即解体ですよー!』
選択肢があるようで欠片も存在しない狂気を撒き散らしながら、高嶺嬢は川を越えて敵軍に突撃かます。
それを援護するように護衛の第二機甲連隊も川岸に砲列を布いて、敵軍へ向けてありとあらゆる砲をぶっ放していた。
「まだ戦闘は終わりそうもないですわね」
俺の端末を覗き込む公女が、はいはいいつものパターン入りましたーとでも言わんばかりに、
気づけば白影もNINJAらしく音も無く消えていた。
どうやら人類ツートップの超戦力は、まだまだ戦いを止める気はないらしい。
補給線が持つと良いんだが……
俺は兵站の心配をしつつ、指揮戦闘車に戻るべく、小走りで向かっていった。
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