第二十五話 フワッフ軍団兵士のぼやき

 自由独立国家共同戦線、自由アジア諸国共同体、島嶼諸国連合の探索者34名はルクセンブルク大公国第一公女シャルロット殿下に率いられ、機械帝国第4層へ挑んだ。

 指導者たる公女殿下は決して無能ではなく、ハッピー・ノルウェー草加帝国のスティーアン・ツネサブロー・チョロイソンやルクセンブルク大公国のウォルター・アプルシルトンを始め、有力な探索者も揃っていた。

 しかし、第4層となり武装を得た機械兵の軍組織は手強く、一週間にわたる激闘の末、戦線は人類側根拠地から僅か20kmもない距離まで押し込まれてしまった。


 その状況の中、日仏連合が戦線に加わった。

 日仏連合指導者コウズケ・トモメはシャルロット公女の要望により、第三世界諸国に対しODAを実施。

 念願の機甲戦力1個連隊を手に入れた我ら三勢力連合は、トモメ・コウズケを総指揮に戴き、機械帝国第4層にて日仏連合との初となる共同攻勢を開始した。




国際標準時 西暦2045年8月15日10時20分

機械帝国第4層

前線 フワッフ軍団 軍団遊撃兵団

島嶼諸国連合 キプロス共和国 マリオス・カコヤニス



 作戦開始から1時間20分が経過した時点で、日仏連合1個重砲師団および第三世界諸国1個重砲大隊による30分に及ぶ効力射で始まった作戦は、人類にとって理想的な形で推移している。





 日仏連合1個機甲師団を中核とした人類軍主力は、人類最強のハナ・タカミネを先頭に機械帝国3個中隊を接敵から30分と経たずに消滅させた。

 その後、2個飛行大隊の航空支援の下、点在していた機械兵の戦闘集団を呑み込みながら電撃戦を開始し、僅か1時間足らずで戦線を20km押し上げることに成功した。

 

 私達、島嶼諸国連合は他の第三世界諸国と共にフワッフ軍団に配属され、日仏連合第三、第四機甲旅団の援護の元、進撃を続けている。

 日仏連合によるODAの一環として供与された魔石300個を使用して編成されたフワッフ軍団は、元々の下僕小妖ブラウニーと合わせて総勢330000体、22個師団相当の下僕小妖ブラウニーと探索者24名で構成されている。

 軍団長はルクセンブルク大公国のウォルター・アプルシルトンだ。


 日仏連合の航空偵察網からの情報では、前方15kmほどの地点に機械帝国1個中隊が陣地を構築して立て籠もっているらしい。

 その情報を確認するやいなや、砲撃音が聞こえ、数十秒後、遥か彼方から幾つもの黒煙が立ち昇る。

 もうしばらくすれば、日仏連合の爆撃中隊が飛来して周辺部に爆撃していくことだろう。


 フワッフ軍団はその巨大な兵力をほとんど消耗することなく、今のところ作戦を遂行できている。

 私は以前、魔界第3層にて日仏連合指導者トモメ・コウズケ氏に命を救われ、その後階層攻略まで行動を共にさせて貰ったことがある。

 次の末期世界第3層では正式に彼の指揮下となり同じ戦場を経験した。


 概して言えることは、彼の指揮下にいる時ほど安心して戦場に身を置けることはないということである。

 シャルロット公女も悪くは無かった。

 いや、むしろ私が知る指揮官の中でも間違いなくトップクラスの能力を持っていた。

 日仏連合参戦前までの苦戦は、彼女の責任というよりも純粋な我々の国力不足が主たる要因だろう。

 私自身、公女は弱小な兵力で機械帝国を相手に良く戦った方だと思う。


 しかし、周囲の声はそうではない。

 特にその声は、トモメ・コウズケ氏の指揮能力を体感した者ほど強い傾向にある。

 まあ、分からんでもない。

 人類最強の戦域司令官と名高いコウズケ氏が相手では、公女殿下がいくら優秀と言えど些か以上に分が悪い。

 その上、戦力も私達第三世界諸国の連合と日仏連合では天と地ほどの差が有る。

 比較にすらならない。


 今も敵味方の主力同士が会敵している中央戦線では、人類最強の決戦兵器が機械兵を大隊単位で鏖殺おうさつしていることだろう。

 そうして削り取られた巨大な傷口を、コウズケ氏の指揮の下、従者ロボに操られた日仏連合第一機甲師団が喰い広げ、あっという間に呑み込んでいく。


 機械らしく緻密に計算され、練り上げられた芸術的とも称すべき機械兵達の軍事行動。

 しかし、コウズケ氏の戦術眼は神の如く戦域全てを見通し、絶技的な戦術機動を以て、気づいた時には機械兵を分断し、各個に包囲殲滅していった。

 その戦術を全てリアルタイムで見ていれば、どうやって勝っているのかは分かるものの、何故そのようにして勝てているのかが全く分からない。

 日仏連合の戦力ならば普通の力押しでも容易く勝利できるだろうに。


 北部戦線のODA機甲連隊も日仏連合第一、第二機甲旅団と共に戦果拡大に努めており、既に敵2個中隊ほどを壊滅させたようだ。

 あちらには9名ほどの探索者が配属されているが、先程から無線機越しに聞こえる声は興奮したように上擦った戦果報告の声だけである。

 ODA機甲連隊はトモメ・コウズケ氏の作戦指揮の下、機甲突破と各個撃破を延々と繰り返しているので、戦闘の興奮も一入ひとしおだろう。


 羨ましいものだ。

 私もどうせだったら、よりコウズケ氏の指揮を感じ取れるあちらが良かった。

 

 耳に障るアプルシルトン軍団長の声が無線機から聞こえるたびに、私はそう心の中でぼやくのであった。




国際標準時 西暦2045年8月15日12時10分

日仏連合第一機甲師団、機械帝国前線基地ヘノ攻城作戦ヲ発動セリ

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