第二十四話 作戦開始15分前
国際標準時 西暦2045年8月15日8時45分
機械帝国第4層
前線 日仏連合 指揮車内部
『—— おい腹黒、こっちの部隊の準備はバッチリだ。
いつでも行けるぜ』
『トモメ・コウズケ、我らが機甲連隊、全車配置についた。
こちらも準備は出来ている』
無線機から、前線の
同じく機甲連隊を纏めるウォルター・アプルシルトンも準備ができたようだ。
後から来た日仏連合が全体指揮を執る現状に納得いっていないのか、少々口が悪くなってしまっている。
妾はおそるおそる隣に座るトモメ・コウズケの表情を窺う。
「作戦開始は予定通り9時00分とする。
各員は作戦開始まで現在の態勢を維持せよ」
幸い、彼は気にした様子もなく淡々と作戦指揮を継続していた。
思わずホッと息を吐く。
「その、申し訳ありません。
後ほど、彼らにはもう一度言い聞かせておきますわ……」
無線が切れていることを確認し、彼に謝罪する。
指揮車内には妾と彼、そして彼の護衛である従者ロボ2体しかおらず、必然的にこの会話を聞く相手は隣に座る彼しかいない。
今や彼は妾達にとって唯一の後援者。
彼の
皆の前であからさまに媚びを売ることは流石にできないが、意地を張って良い相手でもないし、もはやその気概も砕けかけてしまっている。
「殿下、どうかお気になさらず。
彼らの気持ちも理解はしています」
彼は相変わらず何を考えているか分からない表情で
妾は彼の母国日本の習慣に
彼らから持ち掛けられたODA(Official Development Assistance:政府開発援助)は、追い詰められていた妾にとって断るには魅力的過ぎる禁断の果実だった。
日仏連合の主力戦車である35式無人多脚戦車。
対機甲タイプ108両、自走砲タイプ36両、多連装ロケットタイプ12両、輸送タイプ36両とその運用設備、豊富な燃料弾薬、ついでに無理やり押し付けられた22式大規模燃料気化爆弾NOFE 2発。。
占めて2400億円、ドル換算で24億$。
ダンジョン戦争期間中は無利子と言っていたが、それにしてもルクセンブルクのGDPの4%に匹敵する巨額である。
それをたった一言、くぅんと鳴いただけで渡された妾。
今思い出しても震えてきましたわ……
しかし、そのお陰で妾達は念願の第四世代以上の無人戦車に加え、野戦砲大隊を手に入れることができた。
これで機械兵の部隊を真っ向から打破できる。
その対価として、この階層における指揮権を明け渡した結果、今に至るという訳だ。
今まで妾に付き従っていてくれた者達の中には、今回の結果を日仏相手に膝を屈したと見る者も少なくない。
それは事実である以上、妾としても言い訳はできない。
日仏からのODAが無ければ戦線を進める目途はたっていなかったし、第三世界諸国間の連帯も
今後の攻勢で日仏の力に触れるにつれて、各国は日仏寄りになってしまうだろう。
妾としても独力での限界が見えた以上、このまま日仏に迎合し、身内として彼らの方針に影響を与えていくしか道はないものと思えてくる。
しかし、トモメ・コウズケ本人は、あくまでも妾達が日仏に迎合することなく、同盟、連合、日仏とは別個の勢力として継続していくことを望んでいる節があるように感じる。
自分達の弱小ぶりを分からせられた妾は、むしろ日仏の傘の下に入りたいな、とか思っていたりするけれど、彼がそれを望んでいないとすると、それも難しい。
「…… 殿下」
不意に、彼から話しかけられる。
「は、はい、なんでしょう」
「確認ですが、今作戦の流れは分かっていますね」
「ええ、勿論ですわ」
それなら良いと頷く彼の横顔を見る。
今まで外交相手としてしか相対したことが無かったので、不気味で何を考えているか分からない
しかし、こうして友軍として肩を並べてみると、これほど頼もしい存在もいない。
彼は三大勢力の一角である日仏連合の指導者にして、これまで合同攻略も含めれば10個のダンジョンを攻略してきた紛れもない英傑だ。
特に、戦域指揮に関しては人類随一と言っても良い人物である。
実際に隣で彼の戦域指揮を見れば、まだ作戦開始前にもかかわらず、部隊配置の妙が冴えわたっていた。
一度、末期世界第3層にて彼の指揮下に入った経験のある島嶼諸国連合と自由アジア諸国共同体の面々なんて、今までとは明らかに戦意が違う。
このまま彼に今後を託すことができるのなら、なんと心強いのだろうか。
妾の特典である現状を事細かに説明された書物こと『これで完璧! 次元間紛争介入裁定 完全攻略ガイドブック』によれば、機械帝国第4層の戦力は機械兵1個旅団7000体。
内、士官クラス30体、英雄クラス3体、超大型機械兵1体。
なるほど、推奨戦力として地域覇権国家込みの地域連合と記載されるだけはある強大な戦力だ。
だが、それほどの戦力であっても、日仏連合は易々と攻略してしまうことだろう。
今はまだ、敵はその程度の戦力でしかない。
「トモメ・コウズケ」
「どうされましたか?」
現状の人類による戦時体制が限界を迎えるのは、第7層からなのだから。
「…… いえ、何でもありませんわ」
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