第二十三話 ご利用は計画的に
「おはよう公女殿下!
来ちゃった!」
機械帝国第4層に乗り込んだ俺たち日仏連合だが、苦戦中とは聞いているものの、詳細な戦況までは分かっていない。
まずは戦場の状況を把握するため、俺は単身でこの地の第三世界諸国を率いる公女の元まで来ちゃったわけだ。
高嶺嬢と白影は合同司令部の中を元気にお散歩中だ!
「…… トモメ・コウズケ」
大型テントの中に入ってきた俺の顔を見て呆気に取られていた公女は、
なんだか暗いなあ。
よく見れば彼女自慢のドリルも心なしか
しょぼしょぼドリルだ。
「本日より我々日仏連合も機械帝国第4層の攻略に参加します。
そのご挨拶と事前協議に伺ったのですが」
現在の第三世界諸国がどの程度攻略を進めているのか、今後の攻略はどのような方針で進めていくのか、後参の俺達はどの方面から攻略を進めれば良いのか。
それを知りたい。
できることなら、担当戦域の線引きと第三世界諸国司令部とのホットラインの設置を行いたい。
「妾は…… いえ、攻略への参加、感謝いたしますわ。
現在の戦域情報をこちらに纏めています」
やけに素直な公女。
違和感しかないな。
隙あらば俺の背中にドリルを突き立てようとしていた反骨精神の塊だった
今の公女はいきり立ったドリルではなく萎びたドリル。三大勢力全てに噛みついた狂犬ではなく、手乗りチワワでしかない。
「…… あまり戦線が進んでいない様に見えますが」
戦域図を見れば、分かっていたことだが戦線がほとんど進んでいない。
むしろ根拠地周辺部に押し込まれていると言っても良い。
なにしろ階層攻略の屋台骨である飛行場から敵の前線まで20㎞足らずしか離れていない。
もし敵に野戦重砲があれば十分に射程内と言える。
それに人間の5倍の体躯を誇る機械兵にとって、20㎞という距離は徒歩で1時間もかからない短距離だ。
公女に何かしらの考えがなければ、非常にまずい戦況だろう。
「戦況は…… 恥ずかしながら、
公女が端正な顔を歪めて絞り出すかのように吐き出した。
えっ、演技かな?
公女の性格を考えて一瞬そう思ったが、彼女の表情と実際の戦況がその言葉が真実だと雄弁に語っていた。
嘘でしょ…… めっちゃ素直やん!
しかし、これは不味いことになったかもしれない。
俺は人類同盟と国際連合という大勢力に対して、戦後世界を見据えた国際戦略として多数の勢力が
ダンジョン第3層でやや強引なやり方ではあったものの、有象無象の第三世界諸国をむりやり勢力の形に整えて国際政治という名のゲーム盤の駒とした。
そんな第三世界諸国の中でも、俺は公女とその派閥である自由独立国家共同戦線に対してそれなり以上の期待を持っていたのだ。
だからこそ、魔界第3層では在外邦人の保護を建前にある程度の資源を融通したし、末期世界第3層では攻略中に一定量の魔石を供与している。
先の主要七ヵ国戦略指針会議では公女の失態を有耶無耶にし、独立した裁量を持てるようにそれとなく手も回した。
彼女にはそれだけの能力があるはずだが……
「殿下たち単独での打開は難しいのですかな?」
「……っ」
俺の言葉に公女は口惜しそうに唇を噛んだ。
ふむ、記者会見以来、彼女が追い詰められているように感じていたけど、自身の内面を取り繕えなくなっている様子を見るにそれは間違っていなかったようだ。
大方、特典の内容開示を拒否し続けるあまり不信感でも持たれたのだろう。
おそらく彼女の特典『現状を事細かに説明された書物』は、今後のダンジョン攻略における決定的な情報が記載されているはず。
彼女が勢力拡大に勤しみ、隙あらば諸勢力を
俺の目が節穴でない限り、公女の知性は本物だ。
その彼女が人類の敗北を予知したのだから、俺や顔面凶器、アレクセイが同様に分析をしても同じ結論に至る可能性が高い。
まあ、だからと言って人類が一致団結し並行世界との戦争に臨むなど
それでも、唯一の道筋があるとすれば、それは公女が特典の情報を公開することだ。
三大勢力だって好き好んで人類を敗北させたい訳じゃない。
知識を共有した上で、俺、顔面凶器、アレクセイの三者が協議し、同じ結論に辿り着きさえすれば、過去の因縁や戦後世界の立ち回りを一旦脇に置くことは十分可能となる。
それは公女も十分わかっているはずだろう。
そして、分かっていながらそれをしないということは、特典内容の伝達に対して何らかの制約がかけられている可能性が極めて高い。
公女が特典内容を話せないことを公表していない状況を考えるに、かけられている制約についてさえ話せないのだろう。
考えられる可能性としては、公表したら公女、もしくは彼女の祖国に致命的な損害が生じる。
もしくは、公表した時点で人類の敗北が決定づけられる何らかの要素が追加される。
こんなところだろうか?
ある程度未来の情報を知り得てなお、自身の力不足により有効な手が打てない現状。
特典内容を公表できず、公表しない理由すら説明できずに、只々不信感を募らせる周囲。
いくら公女と言えど、いくら聡明と言えど、齢20歳の少女が背負うにはあまりにも残酷な重圧だろう。
でも……
まだ、いけるよね?
「公女殿下………… ODA(Official Development Assistance:政府開発援助)、興味、ありません?」
「……………… くぅん」
どうする?
アイフ〇ー。
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