第十六話 高温+火山ガス+精密兵器

「———— まだ整備が終わらない?」


 魔界第4層の敵師団殲滅から1日空けた8月12日午前6時。

 無人兵器の補充と整備の為に貴重な時間を消費した訳だが、戦闘から半日以上経過した今になっても整備が完了していなかった。

 どうやらこの地域特有の高温と火山ガスは、たった1回の戦闘で精密機器の塊である無人兵器に深刻な負荷を与えていたらしい。

 今も基地の自動整備システムが膨大な予備部品を消費しながらフル稼働で多脚戦車の整備を進めているが、完了は早くても明日になりそうだ。


 ちなみにミッションの残り時間はあと110時間くらい。

 戦闘で1日、整備に2日としたら、あと2回の会戦でケリをつけなければならない。

 

「厳しいなぁ」


 誰が見てもハードモードな現実に口から弱音を吐く。

 日本国民1億3000万の目がある中で、ここぞとばかりに苦労してますよアピールをしたいんだ!


 まあ、確かに堅実な正攻法では無理な日程だ。


 高嶺嬢と白影に従者ロボの古参勢をつけた少数精鋭で突貫すれば陥落しそうだが、流石にそんなハイリスクな戦術はとりたくない。

 とはいえ、そうなると2回の会戦で陥落させるのは厳しい。

 敵が地下陣地に潜んでいるからこちらの砲爆撃は意味をなさないし、地中貫通爆弾バンカーバスターで掘るには深すぎる。

 しかも自爆特攻をしかけてくるもんだからこちらの損害はうなぎ上り。


「ちょっと難易度高すぎない……?」


 奥の手使う?

 少数精鋭で突貫かましちゃう?


 そうやって最終手段に手を染めようかとしばらく思い悩む。


 この時、俺は戦場での主導権が自分の手から離れないとすっかり思い込んでいた。


 戦術的観点が大部分を占める俺の頭脳は、今の状況で敵の反撃は俺達の利になるだけで、敵はその手段を取らないと判断していた。


 魔界の魔物にとって、正面からだと多脚戦車を撃破するのは難しい。

 前回の戦闘で被った損害は、見通しの悪い地形を使った待ち伏せと自爆特攻によるものが大きい。

 反攻作戦では待ち伏せ戦法が使えない上に、やつらが構築した地下陣地から打って出ることになる。

 

 敵がそう簡単に自分たちの優位を捨てるとは思えない。

 まだ覚悟ガン決まりになるには早いはず。



ゴゴゴゴゴゴゴッ



 突然、地鳴り音と共に地面が揺れ出した。


「うぉっと!?」


 手近にあったテーブルに掴まって揺れをしのぐ。

 ハッキリと聞こえた音の割に思ったほど大きな地震ではない。


 いや、そもそもこれは地震ではないんじゃないか?

 地震にしては音が大きすぎたし、揺れもすぐにおさまった。


 なにはともあれ先ずは状況の確認だ。


 俺が動きだとそうすると、いきなり扉が勢いよく開かれた。


「トモメ殿! 大変でござ——」


 空いた扉から出てきた白影が、慌てた様子で話し始める——


「—— 大変ですよ! ぐんまちゃん!!

 でっかいのが攻めてきました!!!」


 —— かと思いきや、後から出てきた高嶺嬢がすかさず被せてきた。

 白影の垂れ目がちなパッチリおめめが、凶器じみた刺々しさをもって高嶺嬢を睨みつける。

 顔面凶器と名高いエデルトルートと良い勝負じゃないか?


「でっかいの?」


 あまりにも抽象的な言葉につい聞き返す。

 敵が攻めてきたっぽいけど、いまいち状況が分からない。


「そうなんです! すごく大きな——」


 敵が攻めてきたのにまだ戦闘モードに入りきれていない高嶺嬢が、詳しく説明しようとするが——


「—— 突然出現した魔法陣から超大型の魔物が出てきたでござる!

 同時に地下洞窟に籠っていた魔物の軍勢も動き出したでござる!」

 

 —— 仕返しとばかりに、今度は白影が高嶺嬢をグイッと押しのけて前に出る。


「…… ヘイヘーイ」


 高嶺嬢が戦闘モードになった!


 超大型の魔物がどれほどの脅威なのかは実際に見てみないと分からないけど、間違いなく敵による大規模反攻作戦が開始したということだろう。

 地下通路を無人兵器で蓋しておくことしか考えていなかったので、まさかこんな力技で反抗してくるとは思わなかったなぁ。


 しかし、まだ無人兵器の整備は完了してないぞ。

 洞窟内ならまだしも、地上部まで拡大した戦況での反攻作戦なんて想定してないし、こちらの態勢はお世辞にも整っているとは言えない。


 しかも超大型魔物とかどうしよう?

 どんだけ大型なんだよ。

 大型の敵なんて高度魔法世界のガンニョムか機械帝国の機械兵くらいしか想定してないぞ。

 砲撃で何とかなるかな?

 いや、でもいざとなれば高嶺嬢の必殺技があるか!


 よく考えれば心配することなんて何もないよね!


 デカブツは高嶺嬢、雑魚狩りは白影に任せれば一発っしょ!!

 

「直ちに迎撃だ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る