第十三話 深読みすぎたヘタレ

 2個飛行隊の戦爆連合による敵の攪乱。

 白影と1個機甲連隊による敵戦力の遮断。

 1個機甲師団による敵戦力の包囲。

 そして高嶺嬢による孤立した敵の大兵力を殲滅。


 砲兵による150mm榴弾砲と220mm収束墳進弾が奏でる戦場の協奏曲が流れる中、戦況はおおむね俺の思い描く通りに推移していた。

 早朝から始まった戦いだが、日が落ちた今でも高嶺嬢と白影は疲れを見せることなく、敵の殲滅ペースを維持している。

 このままいけば夜明け前までに敵残存兵力の殲滅は完了することだろう。


 殲滅しきれずとも、ある程度戦力を漸減ぜんげんできれば残りは従者ロボ達に任せても良い。

 彼女達なら休み無しで何日かぶっ通しで叩き続けそうだけど、可能なら十分な休憩を取りたいところ。

 ただでさえ俺達の労働問題で一度、攻略に強制ストップがかかったんだ。

 休憩をとれる余裕があるのに、徹夜上等の連日戦闘なんざやらかした日には、またミッションで強制的に休暇を取らざるを得なくなってしまう。


 それにいくら無敵の超兵器に見えたとしても彼女達は生身の人間。

 ついつい忘れがちになってしまうけど、3ヵ月ほど前までは俺と同じ普通の生活をしていたんだ。


 ………… いや、そう考えるとすげぇな、おい。


 何はともあれ、替えの効かない貴重な戦力を無暗矢鱈にすり減らす訳にもいかない。

 出来る限り彼女達には万全の状態でいて欲しいのだ。

 

 戦場の上空12000mに浮かぶ日本が誇る空中司令部こと重巡航管制機E-203、その指令席にてジュース片手に戦闘の様子をディスプレイで見守る俺。

 画面には高嶺嬢と白影の元気一杯なリアルタイム映像、従者ロボや無人兵器などの戦力状況が投映された戦域図が映し出されて俺の無聊ぶりょうを慰める。

 いやあ、戦争は地獄ですわ!


 俺は群馬県川場村の名産品のむヨーグルトをグイッと飲み干す。

 武尊山のふもとで育った牛から搾乳した新鮮な生乳を使用し、添加物を一切加えずに加工された濃厚な自然の風味豊かな味わいが舌を楽しませる。

 まろやかで濃厚な味わいなのに、後味はスッキリ爽やか!


 大まかに戦術を組み立てちまえば、あとの細かい調整は従者ロボ古参勢が上手い感じにやってくれるし、多少の不確定要素は高嶺嬢と白影が力尽くで無かったことにしてくれる。

 優秀な手駒がいると、本当に楽ちんね!

 高度魔法世界第3層で起きた同盟残党を指揮しての撤退戦では、俺が休む暇なんて無かったからなぁ。


 のむヨーグルトを飲みながらしみじみ感慨にふけっていると、画面の向こうで高嶺嬢に斬り飛ばされたオーガの一個小隊が一斉に爆発した。


「おお、遂に倒した相手を爆発させるまで成長しちゃったか」


 刀で斬っただけなのに、どういった原理で爆発させたのかは分からないけど、彼女ならできるんじゃないかと思わせる何かがあるよね。

 ついでに敵の動きもちょっと変わり出した。

 それまでは何としてでも高嶺嬢を倒そうと諸兵科連合の大集団で彼女を攻撃していたのが、今は中隊程度の小兵力を順々に当てている。


 連隊規模の攻勢でも傷一つつかなかった彼女に中隊如きが勝てる訳がない。

 完全な自殺行為ではあるものの、戦力を小出しにされるこの戦法では高嶺嬢の殲滅速度が否応にも落ちてしまう。

 明らかな時間稼ぎだが、敵は完全に包囲されたこの状況で何をしようとしているんだろう?

 このままでは徒に手持ちの戦力を消耗するだけで、勝ちに繋がる手とは到底考えられない。


 白影の方も敵本隊は救援部隊の派遣を止めていた。

 むしろ後退して戦線を縮小しようとしている節がある。

 戦線を縮小すれば防衛線の厚みが増すけど、同時に戦術の幅が減り、味方の救援も遠のいてしまう。

 敵の採った手はどちらも悪手でしかない。

 いや、もしかしたら俺が気づいていないだけで、敵には逆転できる何かがあるのか?


「…………」


 分からない。

 そもそも敵の技術体系や文化、生態すら不明なんだ。

 それでいて次元間侵攻を可能とする程の高度文明を持った敵。

 俺達人類の知らない隠し玉の一つや二つ持っていても何ら不思議じゃあない。

 今までは敵に課せられた制限のお陰で人類側の戦略的、技術的な優位が維持されていたけど、流石に第4層だと相手も正規兵を動員してきている。


 そう思ったら、なんだか急にヤバい状況になっている気がしてきたぞ。

 俺の第六感が告げている。

 あまり深入りし過ぎは危険だ、と。

 

 俺は通信機を白影向けの回線に設定した。


「…… 白影」


『何でござろう?』


「敵の罠にはまりつつある可能性が出てきた。

 敵本陣への浸透はここまでにして、君には包囲下にある敵残存兵力の殲滅に加わって貰いたい」


 俺はヘタレた。


『…… 白いのと一緒でござるか?』


 白影の声があからさまに不機嫌っぽくなる。

 こわい。


「いや、高嶺嬢とは敵を挟み撃ちにして貰う形になるから、一緒に戦う訳ではないかな?」


 俺は嘘を吐いた。

 とりあえず予備戦力を全て突っ込んで残存戦力を即座に殲滅するつもりだ。


『………… うーん…… 別に、良いけどね』


 不満なんだね。


 ござる口調がとれてる時点で彼女の心中はお察しだ。


「じゃ、宜しく頼むよ!」


 でも俺はそんなことより、敵本陣から手を引きたいんじゃー!


 敵本陣への強襲は区切りの良い所で停止させ、無人兵器群による防衛線を構築。

 引き抜いた白影と予備兵力の2個機甲連隊を高嶺嬢の所に投入!

 

 やっぱり両面作戦は駄目だよね。

 足元を固めてから次の一歩を踏み出したい今日この頃。

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